Am I "beutiful"?-3
文字数 3,159文字
相変わらず、ソッチの感受性は豊かだなと嗤われるだけで、ぞくぞくする。鞭打ちや蝋燭といった定番は嫌いでも、マゾ気質だと植え付けられた身体はどうしたって、自分が苛まれる側に立つことを想像しないわけにはいかない。依頼の標的をどう甚ぶろうか考えれば考えるだけ、倒錯的な昂奮で追い詰められる。
誰のせいだよ、と咎めるように肩を噛んだら、フユトが好きなことも嫌いなことも駆使する飼い主は、慈しむ手つきで目元を撫でてくれた。
「ひ……ッ」
そんな優しい手つきと裏腹に、押し入る楔で的確に前立腺を掻かれながら裏筋を強めに潰されると、喉から引き攣ったような声が出た。同時に、腹の底から緩やかに脊髄を駆け上る何かの気配がして、頭がぐらぐらしてくる。
「……我慢してるのか」
シギの背中に爪を立てながらしがみついていると、許可もなしに粗相するまいとする従順さを褒める優しい声が、フユトの耳元から猛毒を吹き込む。
我慢してる、我慢する。良しと言われるまで、一滴だって漏らさないように。言うことを聞いている限り、シギは愉悦の地獄へ堕としてくれると知っているから。
「肉は抉るなよ」
対面座位でしがみつくフユトを嘲笑うように告げるシギの声は、そこはかとなく甘い。
「……無理、もう血が出てる……」
シギの背中の状況を伝えると、彼は困ったように、喉で笑った。
「どうされたい?」
獰猛な光を宿す瞳の奥は、普段のシギからは考えられないほど温かい。捕らえた獲物を肉片一つ残さず喰らい尽くす、捕食者の優しい覚悟を孕んでいる。
グズグズに蕩けているだろう顔を正面から覗き込まれて、フユトはぞわぞわと背筋を震わせながら、溢れ出す唾液を飲み込むと。
「奥……」
そこをどうして欲しいか、までは言わせてもらえなかった。どうされたいか聞いたのはシギなのに、対面座位のまま抱えられて、正上位になる。フユトが戸惑って何も言えずにいると、俯せになれと目線で促されるから、解放された身体をのろのろと動かして従った。
「あ、ァ……ッ」
シギが求めることなんて考えずともわかってしまうから、腰だけを上げる形で腹這うと、壮絶な重みを伴って、一息に奥の奥まで穿たれる。拍子で達してしまったことにも気づかず、衝撃に震えるフユトに、シギはもう容赦をしない。
骨盤を底から叩き割ろうとする勢いのせいで、目の前がチカチカした。舌を噛まないようにするのが精一杯で、ガツガツと貪られるに任せて、蕩けた声を上げ続ける。
「イってる、イってるから……ッ」
フユトの苦鳴を突き放すように、シギは残忍な声で、
「もっとイけ」
言い放つ。
シギに肩を掴まれて、奥の奥の、更に奥を暴かれるように抉り込まれた。届いてはいけない箇所に先端が当たっているような気がしたものの、気持ちいいこと以外は何もわからない。ぐちゃぐちゃに攪拌されていく。自我も、内臓も、一緒くたの状態で捕食者の胃の中に落ちて、何一つ残らず、消化されてしまうのだろう。
重怠く、腰と粘膜が痛むだけの事後は嫌いだった。何が悲しくて排泄器官を嬲られなければならないのか──そんなところで感じるはずもないと思いつつ、愉悦の余韻を引き摺りながら、フユトが愕然と横たわっていたのは、随分と昔のことのような気がする。
今はすっかり馴染んでしまった肌の質感に身体を擦り寄せ、甘えるようにくっ付いている瞬間も心地いい。最中は獲物を残酷に引き裂く手が、人の命も原型も奪う魔物の手が、愛しげに髪を梳いたり、耳たぶを擽ったりするのが、とてつもなく好きだ。
「殺さない案件を受けるのは珍しいな」
幸せに浸りながら微睡んでいると、先ほどの話を蒸し返すように、シギが言った。
「……考えなしそうだったから、適当にやって、金だけもらっときゃいいかと思って」
フユトは本音を隠さず答えて、せっかく気持ちよく眠ろうとしているのを邪魔するなと、ヘッドボードに凭れるシギを睨む。
「……そんな顔をするな」
ちらりと横目にこちらを見て、シギが笑った。
最近、この男は本当によく笑う。笑みに見えるよう顔を作るのではなく、自然と口角が緩むようだ。
美人寄りの中性的な容貌が綺麗に笑うのを見るのも好きだ。化け物の素の顔を見られる特権なんて、どんなに大枚をはたいたところで、得られるものでもないだろう。
「もう何処にもいけないようにされてんのに、いちいち妬くなよな」
重いとは思いつつも、シギが嫉妬を向けてくるのも好きだ。雁字搦めにされて逃げられないところを、更に厳重に縛り付けられるようで、歪ながらも愛を囁かれているようで、不安症のフユトは安心する。
かと言って、本気で嫉妬されるのは面倒だから、紛らわしいことは絶対にしないけれど。
「好きなくせに、よく言う」
言って、シギはくつくつと嗤った。
シギももちろん、フユトの不安を見抜いているから、戯れ半分で嫉妬してやる部分もあるのだろうとは思う。だからますます、手放し難くされている。
「言っとくけど、お前のマジのやつは怖ェから好きじゃねーよ」
だから、釘を刺してみた。そんなことはわかりきっていると笑われて、フユトは再び、微睡みに身を委ねる。
「……ここにいろ」
眠る間際、フユトは不遜に、飼い主に命じた。
二人が健全な恋人関係だと宣うつもりはない。どちらかと言えば不健全だ。ただ、何かを犠牲にして捧げなくとも互いに傍にいることができるし、安寧を見い出せるのだから、正しくはあるのだと思う。
こいつは絶対に俺を裏切らない、寝首を搔くような真似はしないと、根拠もなしに思えてしまうのは、二人の間に確かな信頼が育っているからなのだろう。
誰かを養おうと、誰かに養われようと本人が決意しない限り、売上に貢献する人間を色恋で篭絡し、そうでなくなれば切り捨てる商売というのは、実に敵が多い。同じ店舗に在籍するキャストは元より、他店舗のキャスト、客、果てはエースのホステスや風俗嬢のガチ恋客なんてものまである。やり方次第では恨みも逆恨みも買うから、この手の相談事や依頼は聞き飽きるほどだ。
顔、スタイル共にバランス良く整ったシギはまだしも、フユトは高身長だというだけで人相は悪いほうだから、スカウトの声は掛かったことがないし、そちらの仕事に興味もない。ごく稀に出回ることがある凶悪犯の手配書が似合いだと、誰彼構わず揶揄われる目つきの悪さは自覚しつつ、それを気に病むほどフユトは繊細ではなかったし、凶悪なことをしてきたのは事実だ。とは言っても、フユトは己の所業を極悪だと思ったことなどないが。
標的に探りを入れさせた風俗嬢は、ホストに狂うほど自尊心の低いタイプではないから、パートナーと連れ立って初回を楽しんで来たと、メッセージを連投してきた。未成年のくせに、ちゃっかり飲酒までしたらしい。
自慢でもするかのように送り付けられた画像データを見て、フユトはやれやれと嘆息する。
髪を片方刈り上げたボーイッシュな美人と、ほわほわした雰囲気でウサギのような顔立ちの少女が、とても楽しげに笑っていた。
これでは偵察も何もあったものじゃない。
標的はどうだったかと聞いてみると、即座に、酔ってて覚えてない、ごめんと返ってきて、更に嘆息が深まる。
ホステスならまだしも、ホストに接客されるのは御免だ。傍らに座って至近距離で話しかけられるのは、サボンの香りのする清楚美人がいい。だから様子を見てこいと頼んだのに、若いだけあって自由だ。これじゃ小遣い程度の金も渡せない。
「俺って、人見る目ねーのな」
思わず独りごちると、
「やっと自覚したのか」
執務机で何やら書類を作成しているシギが、呆れたように答えた。
「……うっせ、バーカ」
ムッとして悪態をつく。だったらお前も間違いじゃねェか、とは言わない。
誰のせいだよ、と咎めるように肩を噛んだら、フユトが好きなことも嫌いなことも駆使する飼い主は、慈しむ手つきで目元を撫でてくれた。
「ひ……ッ」
そんな優しい手つきと裏腹に、押し入る楔で的確に前立腺を掻かれながら裏筋を強めに潰されると、喉から引き攣ったような声が出た。同時に、腹の底から緩やかに脊髄を駆け上る何かの気配がして、頭がぐらぐらしてくる。
「……我慢してるのか」
シギの背中に爪を立てながらしがみついていると、許可もなしに粗相するまいとする従順さを褒める優しい声が、フユトの耳元から猛毒を吹き込む。
我慢してる、我慢する。良しと言われるまで、一滴だって漏らさないように。言うことを聞いている限り、シギは愉悦の地獄へ堕としてくれると知っているから。
「肉は抉るなよ」
対面座位でしがみつくフユトを嘲笑うように告げるシギの声は、そこはかとなく甘い。
「……無理、もう血が出てる……」
シギの背中の状況を伝えると、彼は困ったように、喉で笑った。
「どうされたい?」
獰猛な光を宿す瞳の奥は、普段のシギからは考えられないほど温かい。捕らえた獲物を肉片一つ残さず喰らい尽くす、捕食者の優しい覚悟を孕んでいる。
グズグズに蕩けているだろう顔を正面から覗き込まれて、フユトはぞわぞわと背筋を震わせながら、溢れ出す唾液を飲み込むと。
「奥……」
そこをどうして欲しいか、までは言わせてもらえなかった。どうされたいか聞いたのはシギなのに、対面座位のまま抱えられて、正上位になる。フユトが戸惑って何も言えずにいると、俯せになれと目線で促されるから、解放された身体をのろのろと動かして従った。
「あ、ァ……ッ」
シギが求めることなんて考えずともわかってしまうから、腰だけを上げる形で腹這うと、壮絶な重みを伴って、一息に奥の奥まで穿たれる。拍子で達してしまったことにも気づかず、衝撃に震えるフユトに、シギはもう容赦をしない。
骨盤を底から叩き割ろうとする勢いのせいで、目の前がチカチカした。舌を噛まないようにするのが精一杯で、ガツガツと貪られるに任せて、蕩けた声を上げ続ける。
「イってる、イってるから……ッ」
フユトの苦鳴を突き放すように、シギは残忍な声で、
「もっとイけ」
言い放つ。
シギに肩を掴まれて、奥の奥の、更に奥を暴かれるように抉り込まれた。届いてはいけない箇所に先端が当たっているような気がしたものの、気持ちいいこと以外は何もわからない。ぐちゃぐちゃに攪拌されていく。自我も、内臓も、一緒くたの状態で捕食者の胃の中に落ちて、何一つ残らず、消化されてしまうのだろう。
重怠く、腰と粘膜が痛むだけの事後は嫌いだった。何が悲しくて排泄器官を嬲られなければならないのか──そんなところで感じるはずもないと思いつつ、愉悦の余韻を引き摺りながら、フユトが愕然と横たわっていたのは、随分と昔のことのような気がする。
今はすっかり馴染んでしまった肌の質感に身体を擦り寄せ、甘えるようにくっ付いている瞬間も心地いい。最中は獲物を残酷に引き裂く手が、人の命も原型も奪う魔物の手が、愛しげに髪を梳いたり、耳たぶを擽ったりするのが、とてつもなく好きだ。
「殺さない案件を受けるのは珍しいな」
幸せに浸りながら微睡んでいると、先ほどの話を蒸し返すように、シギが言った。
「……考えなしそうだったから、適当にやって、金だけもらっときゃいいかと思って」
フユトは本音を隠さず答えて、せっかく気持ちよく眠ろうとしているのを邪魔するなと、ヘッドボードに凭れるシギを睨む。
「……そんな顔をするな」
ちらりと横目にこちらを見て、シギが笑った。
最近、この男は本当によく笑う。笑みに見えるよう顔を作るのではなく、自然と口角が緩むようだ。
美人寄りの中性的な容貌が綺麗に笑うのを見るのも好きだ。化け物の素の顔を見られる特権なんて、どんなに大枚をはたいたところで、得られるものでもないだろう。
「もう何処にもいけないようにされてんのに、いちいち妬くなよな」
重いとは思いつつも、シギが嫉妬を向けてくるのも好きだ。雁字搦めにされて逃げられないところを、更に厳重に縛り付けられるようで、歪ながらも愛を囁かれているようで、不安症のフユトは安心する。
かと言って、本気で嫉妬されるのは面倒だから、紛らわしいことは絶対にしないけれど。
「好きなくせに、よく言う」
言って、シギはくつくつと嗤った。
シギももちろん、フユトの不安を見抜いているから、戯れ半分で嫉妬してやる部分もあるのだろうとは思う。だからますます、手放し難くされている。
「言っとくけど、お前のマジのやつは怖ェから好きじゃねーよ」
だから、釘を刺してみた。そんなことはわかりきっていると笑われて、フユトは再び、微睡みに身を委ねる。
「……ここにいろ」
眠る間際、フユトは不遜に、飼い主に命じた。
二人が健全な恋人関係だと宣うつもりはない。どちらかと言えば不健全だ。ただ、何かを犠牲にして捧げなくとも互いに傍にいることができるし、安寧を見い出せるのだから、正しくはあるのだと思う。
こいつは絶対に俺を裏切らない、寝首を搔くような真似はしないと、根拠もなしに思えてしまうのは、二人の間に確かな信頼が育っているからなのだろう。
誰かを養おうと、誰かに養われようと本人が決意しない限り、売上に貢献する人間を色恋で篭絡し、そうでなくなれば切り捨てる商売というのは、実に敵が多い。同じ店舗に在籍するキャストは元より、他店舗のキャスト、客、果てはエースのホステスや風俗嬢のガチ恋客なんてものまである。やり方次第では恨みも逆恨みも買うから、この手の相談事や依頼は聞き飽きるほどだ。
顔、スタイル共にバランス良く整ったシギはまだしも、フユトは高身長だというだけで人相は悪いほうだから、スカウトの声は掛かったことがないし、そちらの仕事に興味もない。ごく稀に出回ることがある凶悪犯の手配書が似合いだと、誰彼構わず揶揄われる目つきの悪さは自覚しつつ、それを気に病むほどフユトは繊細ではなかったし、凶悪なことをしてきたのは事実だ。とは言っても、フユトは己の所業を極悪だと思ったことなどないが。
標的に探りを入れさせた風俗嬢は、ホストに狂うほど自尊心の低いタイプではないから、パートナーと連れ立って初回を楽しんで来たと、メッセージを連投してきた。未成年のくせに、ちゃっかり飲酒までしたらしい。
自慢でもするかのように送り付けられた画像データを見て、フユトはやれやれと嘆息する。
髪を片方刈り上げたボーイッシュな美人と、ほわほわした雰囲気でウサギのような顔立ちの少女が、とても楽しげに笑っていた。
これでは偵察も何もあったものじゃない。
標的はどうだったかと聞いてみると、即座に、酔ってて覚えてない、ごめんと返ってきて、更に嘆息が深まる。
ホステスならまだしも、ホストに接客されるのは御免だ。傍らに座って至近距離で話しかけられるのは、サボンの香りのする清楚美人がいい。だから様子を見てこいと頼んだのに、若いだけあって自由だ。これじゃ小遣い程度の金も渡せない。
「俺って、人見る目ねーのな」
思わず独りごちると、
「やっと自覚したのか」
執務机で何やら書類を作成しているシギが、呆れたように答えた。
「……うっせ、バーカ」
ムッとして悪態をつく。だったらお前も間違いじゃねェか、とは言わない。
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