Like a child-3

文字数 748文字

 知らなかった快感を教えられ、未知の感覚への怯えや恐怖を宥めすかされたら、安心して墜落していける。それは、お前が生まれ持った感受性で神の恩恵なのだから、怖がらずにギフトを受け取るだけでいいと唆されるように。
「達ったか?」
 脱力する身体が後ろへ倒れてしまわないよう、さり気なく回される掌の温度を背中に感じながら、虚ろなフユトは茫洋と頷く。いろんなはじめてを教えられて、もう抗う気力もない。
 この化け物は最初から、フユトの嫌悪も受容も、全てを気長に観察しているだけだから、無理やり抑え込まれて首を噛みながら番うようなケダモノのマウントはしないから、堕ちるところまで堕とされたい。そこが地獄の最果ての荒野や、闇しかない無間であっても、連れて行かれるところなら何処へでも追従したい。その間、この男は掴んだ腕を決して離しはしないし、腕だけになっても、首だけになっても、きっと寄り添い続けるのだろう。悪魔の献身はひたすら重いが、だからこそ、フユトは全てを献げてもいいと思う。献身の代償は命で。そうでなければ釣り合わない。
 ここまで来たら、肉の器なんて邪魔でしかなかった。フユトが求めるだけキスも愛撫も施しながら、シギはただ、フユトが安心して褥を定めるまで待っている。
 そう、待っているのだ。
 力尽くだったのは最初だけで、シギはずっと待っている。待っていてくれるから、何処にも行くなと力を翳さなくても、腕を掴まなくても、怯えなくてもいい。
 どうしたって遠回りはしてしまうけど、其処に行くまで待っていて欲しい。飽きずに、ずっと、子どもの独り歩きを見守るように。
「いいこだな」
 キスを強請り続けるフユトの頬を両手で包んで額を合わせながら、シギが言った。
 所有されていたい。身体ごと、心ごと、命ごと。
 すきだ。









【了】
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