Stray.-3

文字数 891文字

「……俺のこと、どう思ってんの」
 聞きたいけれど聞けなかった問いを舌に載せて、フユトはそっと目を伏せる。
 仄明るいリビングのソファで向かい合わせに膝へと抱かれて、額と額を寄せあった至近距離だ。我ながら恥ずかしい行動に及んでしまったと、フユトが覚束なく視線を彷徨わせていると、
「今更だな」
 シギが堪えきれなかったように失笑する。
 少しムッとした視線を投げると、
「愛してると何度言えば伝わる」
 多量の蜜を孕んだ声が衒いなく答えた。
「そうじゃなくて、」
 だが、フユトが欲しい言葉はそれじゃない。そんなことはわかっているからだ。
「そうじゃなくって、俺のこと、その……何だと思ってんの」
 言葉でなら何とでも言えるが、行動で余すことなく愛情を伝えるのだから、シギの思いは一つだろう。わかっていても、言葉で伝えて欲しいのだと強請るフユトの傲慢に、シギは軽くキスをしてから、
「これが恋人以外の何かに思えるなら言ってみろ」
 慈愛を注ぐ瞳で挑発する。
 うん、だよな、わかってた。
 頷くように俯いたフユトが唇を噛む前に、シギが唇を合わせて舌を捩じ込む。鼻で呼吸しながら貪られ、解放を待って、大きく酸素を取り込んだ。
「……俺さ」
 シギの肩に左の頬を載せて、フユトが呟く。
「他の誰とも、付き合ったことなんかないからさ」
 置き去りにされたくないと掴んだ腕はあっても、傍に居させて欲しいと願ったことなんてなかった。縛り付けるために情欲を注いだことはあっても、繋がるために受け入れたことなんかなかった。
 フユトの独白めいた呟きに、
「知ってる」
 強がりな恋人のことなら黒子の位置や数だけでなく、生まれは元より、関わりのある人々との会話や性の遍歴まで余すことなく知り尽くすストーカーは、そんなこと今更だと言うように答える。
「……そういうことに探り入れんなよ、知ってても知ってるなんて言うな」
 フユトの文句をシギは笑って、
「知ってるから大事にしてるつもりなんだがな」
 こちらのほうが赤くなるようなことを、さらりと言う。
「……だから、言うな、莫迦」
 シギの肩にぎゅっとしがみついた。心臓の痛みはいつの間に消えていた。









【了】
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