Am I "beutiful"?-2
文字数 2,149文字
九人。フユト一人が死に至らしめた同業者の数だ。子飼いの中では史上最多だという。
九人中、六人を丸腰の状態から返り討ちにしたとか、そのうち四人は蹴撃のみだったとか、後進の同業者には噂として語られているが、それはフユトが荒れに荒れていた時代のことであって、噂もほとんどがガセである。
今はなにぶん、悪魔よりも恐ろしい飼い主が背後に控えているので、後進から悪鬼羅刹のように言われるフユトも、さすがに大人しくせざるを得ないのだ。
シギが持ちうる拷問の手札は多い。
鉛を仕込んだ靴先で内臓破裂寸前まで追い込むとか、全身を拘束して吊るした上で開口具から延々と食用油を飲ませるといった拷問らしい拷問以外にも、屈脚で拘束して四つん這いにさせた後孔に腕を突っ込むとか、結腸をブチ抜くサイズの張り型を蹴り込まれるとか、機能を失うまで局部を一本鞭に苛まれるとか、考えるだけで脂汗が出るようなカードばかりだ。
性的な拷問の一部は、本当に直前まで実行されたことがあるので、フユトは二度と同業に手を出さないと誓わされている。クスコで強制的に開かれた内臓を擽られ、内容物や胃酸を吐き戻すまで虐められたら、誰だって誓うに決まっている。
総帥であるシギを介さない依頼は、同業に向けられない鬱憤を晴らす、またとない機会でもあるので、
「愉しそうだな」
シギの何てことはない一言に怯んでしまうくらいには、機嫌がいいのも確かだ。
「情婦 でも囲ったか」
執務机で電子端末を見据えたまま、冗談や嫌みともつかない台詞を言われて、フユトは慌てて、手にしていた携帯端末をローテーブルの天板に放った。
「打ち合わせ、受けてる依頼の」
嘘は言っていない。蛇の道は蛇だから、世話役を引き受けている風俗店の在籍嬢に声を掛け、標的の男を探らせる段取りを付けていた。
フレームレスの眼鏡の奥から、舐めるような視線が向けられる。フユトの言葉を信じていないときの目だ。最近のシギは時折、恋愛依存の少女より重い執着を見せる。
「ホスト狂いの馬鹿女から頼まれてんだって」
フユトが躍起になって告げると、シギは胡乱な眼差しを意味深に細めて、
「何なら、三人でシケ込むか」
露骨な言葉で宣うから、フユトは開いた口が塞がらない。
「後ろから抉ってやるから、女もいつもより泣き喚くだろうよ」
「……勝手に不能 扱いすんじゃねーよ」
「良くて半勃ちのくせに、イキがるな」
シギの唇に浮かぶのは嘲笑だ。フユトは言い返すこともできず、歯噛みする。
悦さを知ってしまって、慣れてしまった身体は正直だ。悔しいことに、シギの言葉は真実で、フユトは言い返せない。
「……誰のせいだよ」
フユトがムスッとしながらぼやくと、椅子を軋ませて立ち上がったシギが、ソファの背もたれごと、フユトを背中から抱き込んでくる。
「つーか、つまんねェことで妬くなよ、そんなだから他所にいけるわけねーのに」
不貞腐れるフユトを宥めるように、シギはくつくつと嗤いながら、
「打ち合わせしてろ、こっちは勝手に楽しんでおく」
ピリッと痛みが走る強さで、項を吸った。
手元に集中できるはずもない。
ソファに座ったシギの膝の間に、背中から抱き込まれる形で座らされ、先程からずっと、耳を撫でたり舐められたりしている。指の先で輪郭をなぞったと思えば、舌先が同じ航路を辿り、指でふにふにと耳たぶを揉まれたかと思えば、甘噛みされながら舐られる。そうしている間に不埒な指は耳孔を塞ぎ、舌がそこをほじる間、今度は反対の耳の輪郭を指がなぞるから、端末などとうに投げ出してしまっている。
「震えてる」
せめて声は出すものかと利き手の甲を自らの唇に押し付けていると、もう十分は耳だけを攻めているシギに、ひくつく身体を指摘された。
震えてるんじゃない。反応してしまうだけだ。
「打ち合わせはどうした?」
ほじられて湿る耳孔に吐息がかかる。確信犯め、と思いつつ、
「もう、いい」
打ち合わせとやらは終わったのだと嘘をつき、逃すまいと首に回されたシギの腕を力任せに引き剥がすと、長くて綺麗な形をした拇指と中指 の狭間に、自ずから舌を這わせる。
「珍しく積極的だな」
「お前の機嫌取ってやってンだよ」
「賢くなったわけだ」
「……うっせ」
シギがくつくつと嗤う。上機嫌なときの笑い方が好きだ。
「それで?」
「……なに」
口淫するように拇指を舐っていると、シギがそれとなく尋ねるから、フユトは不機嫌に行為を中断して、舐られるに任せて動かないシギを胡乱に見た。
「どこのクラブだ」
格式高くて美人揃いのホステスが集う高級クラブの常連は、男が女を持て成すホストクラブまで顔が効くのかと、
「……Aって店の、コウヤって源氏名だったと思うけど」
殺しではなく、商品価値を損なわせる依頼であることを、掻い摘んで話した。
「営業がえげつないと聞いたことはある」
言いながら、項から背中に向けて舌で辿られて、条件反射で肩が震える。背中の、特に膵臓辺りから腰にかけてが弱いから、仄暗く期待してしまうものの、シギはまだ脱がすつもりはないらしい。
「仕事の話はやめようぜ」
はぁ、と無意識に色っぽく吐息しながら、フユトは上半身でシギを振り向き、
「昼間に話してたときからやべェんだって」
嫉妬深くて執拗い男を苦笑させた。
九人中、六人を丸腰の状態から返り討ちにしたとか、そのうち四人は蹴撃のみだったとか、後進の同業者には噂として語られているが、それはフユトが荒れに荒れていた時代のことであって、噂もほとんどがガセである。
今はなにぶん、悪魔よりも恐ろしい飼い主が背後に控えているので、後進から悪鬼羅刹のように言われるフユトも、さすがに大人しくせざるを得ないのだ。
シギが持ちうる拷問の手札は多い。
鉛を仕込んだ靴先で内臓破裂寸前まで追い込むとか、全身を拘束して吊るした上で開口具から延々と食用油を飲ませるといった拷問らしい拷問以外にも、屈脚で拘束して四つん這いにさせた後孔に腕を突っ込むとか、結腸をブチ抜くサイズの張り型を蹴り込まれるとか、機能を失うまで局部を一本鞭に苛まれるとか、考えるだけで脂汗が出るようなカードばかりだ。
性的な拷問の一部は、本当に直前まで実行されたことがあるので、フユトは二度と同業に手を出さないと誓わされている。クスコで強制的に開かれた内臓を擽られ、内容物や胃酸を吐き戻すまで虐められたら、誰だって誓うに決まっている。
総帥であるシギを介さない依頼は、同業に向けられない鬱憤を晴らす、またとない機会でもあるので、
「愉しそうだな」
シギの何てことはない一言に怯んでしまうくらいには、機嫌がいいのも確かだ。
「
執務机で電子端末を見据えたまま、冗談や嫌みともつかない台詞を言われて、フユトは慌てて、手にしていた携帯端末をローテーブルの天板に放った。
「打ち合わせ、受けてる依頼の」
嘘は言っていない。蛇の道は蛇だから、世話役を引き受けている風俗店の在籍嬢に声を掛け、標的の男を探らせる段取りを付けていた。
フレームレスの眼鏡の奥から、舐めるような視線が向けられる。フユトの言葉を信じていないときの目だ。最近のシギは時折、恋愛依存の少女より重い執着を見せる。
「ホスト狂いの馬鹿女から頼まれてんだって」
フユトが躍起になって告げると、シギは胡乱な眼差しを意味深に細めて、
「何なら、三人でシケ込むか」
露骨な言葉で宣うから、フユトは開いた口が塞がらない。
「後ろから抉ってやるから、女もいつもより泣き喚くだろうよ」
「……勝手に
「良くて半勃ちのくせに、イキがるな」
シギの唇に浮かぶのは嘲笑だ。フユトは言い返すこともできず、歯噛みする。
悦さを知ってしまって、慣れてしまった身体は正直だ。悔しいことに、シギの言葉は真実で、フユトは言い返せない。
「……誰のせいだよ」
フユトがムスッとしながらぼやくと、椅子を軋ませて立ち上がったシギが、ソファの背もたれごと、フユトを背中から抱き込んでくる。
「つーか、つまんねェことで妬くなよ、そんなだから他所にいけるわけねーのに」
不貞腐れるフユトを宥めるように、シギはくつくつと嗤いながら、
「打ち合わせしてろ、こっちは勝手に楽しんでおく」
ピリッと痛みが走る強さで、項を吸った。
手元に集中できるはずもない。
ソファに座ったシギの膝の間に、背中から抱き込まれる形で座らされ、先程からずっと、耳を撫でたり舐められたりしている。指の先で輪郭をなぞったと思えば、舌先が同じ航路を辿り、指でふにふにと耳たぶを揉まれたかと思えば、甘噛みされながら舐られる。そうしている間に不埒な指は耳孔を塞ぎ、舌がそこをほじる間、今度は反対の耳の輪郭を指がなぞるから、端末などとうに投げ出してしまっている。
「震えてる」
せめて声は出すものかと利き手の甲を自らの唇に押し付けていると、もう十分は耳だけを攻めているシギに、ひくつく身体を指摘された。
震えてるんじゃない。反応してしまうだけだ。
「打ち合わせはどうした?」
ほじられて湿る耳孔に吐息がかかる。確信犯め、と思いつつ、
「もう、いい」
打ち合わせとやらは終わったのだと嘘をつき、逃すまいと首に回されたシギの腕を力任せに引き剥がすと、長くて綺麗な形をした拇指と
「珍しく積極的だな」
「お前の機嫌取ってやってンだよ」
「賢くなったわけだ」
「……うっせ」
シギがくつくつと嗤う。上機嫌なときの笑い方が好きだ。
「それで?」
「……なに」
口淫するように拇指を舐っていると、シギがそれとなく尋ねるから、フユトは不機嫌に行為を中断して、舐られるに任せて動かないシギを胡乱に見た。
「どこのクラブだ」
格式高くて美人揃いのホステスが集う高級クラブの常連は、男が女を持て成すホストクラブまで顔が効くのかと、
「……Aって店の、コウヤって源氏名だったと思うけど」
殺しではなく、商品価値を損なわせる依頼であることを、掻い摘んで話した。
「営業がえげつないと聞いたことはある」
言いながら、項から背中に向けて舌で辿られて、条件反射で肩が震える。背中の、特に膵臓辺りから腰にかけてが弱いから、仄暗く期待してしまうものの、シギはまだ脱がすつもりはないらしい。
「仕事の話はやめようぜ」
はぁ、と無意識に色っぽく吐息しながら、フユトは上半身でシギを振り向き、
「昼間に話してたときからやべェんだって」
嫉妬深くて執拗い男を苦笑させた。
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