Gemini-5

文字数 2,316文字

「もういい、いいから、触るな……ッ」
 暴れようとしたところで、身体に力は入らない。仕方なしに言葉で抗議すると、意図的に避けられている鼠径部をちらりと撫でられて、腰の奥から震えが走る。
「……出したい……」
 そんなことを気が遠くなりそうなほど繰り返されれば、フユトは完落ちするしかない。シギを許すとか許さないとかよりも、本能が先に立つ。小声で告げた願望に、シギはどんな顔をしたのだろう。背中から抱き込まれていては見ることも叶わない。
「これができたらな、」
 言って、シギが耳元で囁く言葉に、フユトは耳の端まで赤くなった。咄嗟に反抗しようとしたけれど、
「このままも悦いな、フユト、中でイっても変わらない」
 雄の生殖本能ではなく、去勢された雌のように揺蕩うことを示唆されてしまうと、何も言い返せない。
「……許すのは俺で、お前じゃないのに……」
 不本意だと呟けば。
「さっき許すと喚いたのは誰だ」
 言われて、ぐうの音も出なくなる。
 それでも不満げな態度が出ていたのだろう。喉で嗤うシギが、
「夕べのことを俺が知らないとでも思ってるのか」
 残酷な事実を教える。
 脳の奥から沸騰していくようだった。ビリビリと脊髄が痺れる。肉体の浮気を淡々と言葉や鞭で攻められるより、昨夜のトリップをなぞるような指示だけで達しそうになる。
「ひ、ぃ……ッ」
 喉が鳴った。
 ダブルベッドの上で胡座をかき、捲り上げた上衣の裾を咥えたまま、両胸の乳輪の外周を自分の指先でそれぞれなぞる。
 昨夜、誰とも知れない相手に挿入されながら、そこを自分で虐めたことを見られていたかのようだ。
 できる限りゆっくりと、という指示の下、ようやく三周を終えたばかりだというのに、息も絶え絶えだ。裾を咥えたままの口からは、唾液が零れているかも知れない。
「四周」
 と、シギがカウントした。それだけで背筋が強ばって震える。告げられたノルマまで、あと二周もしなければならないのに、指はなかなか動かなかった。そこで自慰をする、というだけで屈辱的なのに、シギに見られる羞恥が堪ったものじゃない。
「あやまる、」
 嫌々と首を振って無理だとアピールしながら、
「浮気したこと、謝るから、」
 フユトは泣きに訴える。
「早くしろ」
 けれど、シギは聞き入れなかった。
 顎先の動きで急かされながらも、フユトの身体はいろいろと限界で、指一本を動かすこともきつい。
「許して……」
 遂にフユトは項垂れた。自分の痴態を見ないように、瞼はしっかり閉じた。
「お前が泣いても喚いても許す気はない」
 シギの声色から圧を感じ取って、フユトは噛み締めた歯の間から震える吐息を漏らす。達成するまで終わらない責め苦なのだと理解して、ガクガク震えながら四周目をなぞる。
「あ、ぁ、」
 自分で自分を焦らしているのに、この状況に異様に興奮しているのは事実だ。自慰の一環──そういう指示ではあれど──で自分を限界まで焦らしているところをシギに見られ、見られる羞恥に煽られて更に興奮し、脳でイキそうになっている。
「ほら、五周」
 腰の奥で小さな爆発を二、三度、感じながらも、どうにかノルマは達成した。ふと下に視線をやると、摘んで欲しいとばかりに勃ち上がった乳頭が健気に震えているように見える。
「さ、わって……」
 だから、思わず強請ってしまう。
「シギ、乳首、触って……」
 突き出すように胸を反らして、天井を仰ぐ。さっきまで散々、指の腹で擽られていたのだ。きっとまたすぐ、触れてくれる。
 ふ、とシギは吐息を零すように笑った。
「今度は逆周りで五周だ」
 期待を挫かれる被虐に、フユトは声を殺さず達した。
 頭も身体も、ジンと熱を持って痺れている。
 シギからの指示を、時間を掛けながらも忠実に守ったフユトの呼吸は荒く乱れ、何をしなくともずっと達しているかのような錯覚に陥っている。触って欲しいと強請った場所を自分の指で嬲らなければならない悲哀と、それを自慰として鑑賞される屈辱的で歪な昂奮が、フユトの脳細胞を灼き続けている。
「ん、」
 押し潰すように捏ねたそれを摘み、
「ぃ……ッ」
 痛みを覚える強さで引っ張る。ぞくぞくと背筋を震わせて甘く達しながら、
「ぁ、お願い、舐めて……っ」
 舐めて吸って噛んで、とシギからの断罪を願う。
 冷房が効いているはずの室内なのに汗ばむ身体の熱は引かないし、脱がされる気配のない下肢に至っては見るも無惨なほどドロドロになっている気がする。そこで芯を帯びて緩やかに勃ち上がるそれに触れて欲しいのは勿論だけれど、
「ま、たイく……ッ」
 ドラッグをキメるより鮮烈な多幸を繰り返すのは、合法なのに常習性があるから困る。
 フユトが何十回か、何百回かわからない絶頂に喉を晒すと、
「俺がするより悦さそうだな、フユト」
 本気か冗談かわからないシギの揶揄に、
「悦く……ない、」
 ガクンと頭が前に倒れてから首を振る。
「シギがいい……」
 酷い顔をしている自信がある。きっと瞳孔は開ききっているし、上気しているせいで頬も耳も真っ赤だし、飲みきれなかった唾液が溢れているかも知れない。たくさん触れて、感度を高めるだけ高めて、自慰を強制されてからは視姦されて。何が悦くて、悦くないかもわからないくらい意識が攪拌されている。
 か細い声で甘えたフユトに、シギが口角を上げるのが見えた。
「誰でもいい、の間違いだろうが」
 満足そうな笑みとは裏腹に、シギの声は低い。
 違う、と首を振るフユトを嘲笑って、
「俺じゃ足りないんだろう、淫乱」
 酷薄に告げる。
 フユトは更に強く首を振って、
「クスリ……」
 震える唇で種明かしする。
「クスリ、キメないと、悦くなかった……」
 今にも泣きそうに、声が震えた。
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