Thx, I love you.-4

文字数 863文字

「コトちゃんもメイクする?」
 振り向くトーカにミコトは微笑みながら首を振り、
「邪魔してごめんなさい、これ……」
 と、小さな紙袋を手渡す。
「いつもありがとう」
 大概のことなら、ミコトの行動を読んだ上で受け止めてくれるトーカだけれど、予期せぬ贈り物に、綺麗な顔が一瞬、表情を忘れた。
 紙袋に刻まれているのは、トーカが愛用するハイブランドの名前だ。白地に金箔を押したような、それだけで高級感のある紙袋の中身は、今のミコトにとっては決して安くない。けれども、どうしてもトーカに渡したかった。今まで誰かに何かを贈りたいと思ったこともなかったから、ミコトにとっては、口から心臓が飛び出そうなほどの大冒険である。
 紙袋を受け取って、トーカが泣きそうに微笑んだ。手を伸ばしてミコトの身体を抱き寄せると、桜色をした素の唇で頬にキスをする。
「気を遣わなくていいのに」
 ありがとう、と告げてから、トーカが申し訳なさそうに言った。
「この間、つけ過ぎたからって言って、ハンドクリーム塗ってくれたから」
 先日、泊まったときに、水仕事でカサつくミコトの手を取って、多く出過ぎちゃったからと、トーカがハンドクリームを塗った手で指先を覆って撫でてくれたことを、ミコトははっきり記憶している。トーカにとっては当たり前で、何でもないことでも、ミコトにとってはすごく衝撃だったのだ。短いながらも生きてきた中で、絶対に触れることはないと思っていた優しさや母性の全てを、トーカはさり気なく渡してくれる。欲しいと思ってはならなかった全てが、そこにある。
「それでお返しを?」
 トーカの問いに、ミコトは素直に頷いた。
「律儀な子ね」
 そう言って笑うトーカの顔は隠せないほど嬉しそうで、良かった、と、ミコトは心から思う。じんと心臓が痺れるような心地に、言葉などなくても愛されていると確かに感じて、ミコトもトーカが好きだと心から思えて、それはもう、例えようのない幸福感に満たされて、ここで生きていることを手放しで喜べる。そして、彼女が傍で笑ってくれるなら、ミコトは他に何も望まない。














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