2 「昇格ですね」
文字数 2,651文字
古竜の神殿から王都に戻り、数日が経った。
グリードとの戦いで、俺のスキルはさらに成長を遂げた。
まず一つ目は、複数の場所にスキルを飛ばせるようになったことだ。
最大で七カ所。
ただ、あれから試してみたんだけど、複数の形態を同時に使うことはできないらしい。
ある場所に護りの障壁 を張り、別の場所には不可侵領域 を発動する──という使い方は無理だった。
あくまでも『一種類のスキルを七カ所に発現できる』だけ。
言い換えれば、別の形態を使うためには『切り替え』の時間が必要になる。
一瞬で切り替えられるとはいえ、その隙を狙ってくる敵もいるだろう。
その辺りを警戒しながら、いかに最適な形態を選んで戦うか──というのが肝になりそうだった。
ただし──グリードとの最後の戦いで会得した、黄金色の空間は別だ。
あの空間の中で、俺はすべてのスキルを同時に発現していた。
あらゆる攻撃を受け止め、反射し、魔法の発動を封じ、攻撃を無効化する──。
無敵ともいえる、空間。
ただし異常なまでに体力や集中力を消耗するため、長時間の発動は難しい。
そもそも、あれ以来一度も発現すらできていない。
あのときと同じくらいイメージを強く象らないと駄目なのかもしれない。
使いこなすことができれば、対魔族や魔獣への強力な切り札になるんだけれど。
練習あるのみ、ってことだろうか……。
昼前になり、俺はいつも通りにギルド支部を訪れた。
「聞いたか? カーバルシティの噂」
「ああ、変な鎧をつけた不審者が町中で暴れ回ったんだろ?」
「ランクS冒険者が四人も大怪我したとか……」
「でも、その後に不審者は逃げちまって行方知れずなんだろ……」
受付に向かう途中、冒険者たちのそんな会話が聞こえてきた。
カーバルシティは王国の東部にある大きな都市だ。
なんだか物騒なことにでもなってるんだろうか──。
と、
「おめでとうございます、ハルトさん」
声をかけてきたのは、黒髪をシニョンにした生真面目そうな女性。
受付嬢のジネットさんだ。
「ランクBに昇格ですね」
ジネットさんが嬉しそうに微笑む。
「えっ、そうなんですか」
驚く俺。
初耳だった。
確か、近々ランクCに上がるだろうって話は聞いていたけれど……。
それをさらに飛び越してランクBとは。
「あら、ご存じなかったんですか。先日の報告書で野生の竜を退治したという話や、以前に王都を襲った魔将との戦いが評価されて──現在のランクDから二段階の昇格がほぼ確実だという話ですよ」
冒険者になったのが、ついこの間のような感覚なのに、いつの間にかランクBが目の前に迫ってるんだな、俺……。
なんだか感慨深かった。
このままランクAや最上級のランクSまで──なんて、つい夢想してしまう。
「記録的な昇格スピードですね。すごいです」
ジネットさんは俺を見て目を輝かせる。
「やはり将来有望……ふふふふ」
などと、よく分からないことをつぶやいていた。
「へえ、あなたが噂のハルト・リーヴァ?」
今度は背後から声をかけられた。
振り返ると、一人の女性が立っている。
長い黒髪の美人さんだ。
その顔立ちは二十代くらいにも、あるいはもっと上の年齢にも見える──年齢不詳って感じ。
「テ、テオドラ様っ!? なぜ、このような場所にっ!?」
ジネットさんがいきなり直立不動の姿勢になった。
ものすごく緊張している様子だ。
「……テオドラ・クリューエル様。冒険者ギルド本部の長です」
ジネットさんが震える声で耳打ちした。
つまり、世界中の冒険者ギルドのトップってことか?
「そうかしこまらないでもいいよ。堅苦しいのは嫌いでねぇ」
流麗な黒髪をばさりとかき上げ、気風のいい口調でテオドラさんが笑う。
「なるほど。なかなかいい面構えじゃないか。ちょっとした用でアドニスまで立ち寄ったんだけど、会えて嬉しいよ」
俺をしげしげと見つめた。
鼻先に漂ってくる香水の匂い。
リリスたちのような清潔感のある香りとはまた別種の──妖しさと色香を孕んだ匂いだった。
「防御魔法が得意なんだって? それにしても野生の竜をやすやすと完封してしまうなんて大したもんだよ」
さらに近づくテオドラさん。
間近で見ると、本当に美人だ。
ぞくりと背筋が粟立った。
大人の色気漂う美女って感じだった。
今まで身近にはいなかったタイプだけに、やけに緊張してしまう。
「ランクBどころかランクAでも、そんなことができる冒険者はまずいないだろう。あるいはランクSにだって──」
「ど、どうも……」
思わず視線を逸らしたところで、ちょうどテオドラさんの胸元が視界に入った。
異様に深い胸の谷間は、強烈な吸引力があった。
うっ、エロすぎ……っ!
慌てて、さらに別方向に視線を逸らす俺。
目のやり場に困る、っていうのはこのことだろう。
「一度ルーディロウムにも来てみるといい。凄腕の冒険者がそろっているからね。きっとあんたの刺激にもなるだろう」
「ルーディロウム……?」
聖王国とも呼ばれる、大陸の強国である。
至高神ガレーザへの信仰が盛んで、聖王国という呼び名の由来にもなっていた。
そして冒険者ギルドの本部も、そこにあるそうだ。
──その後、しばらく話した後、テオドラさんは去っていった。
俺には大いに期待している、という感じのことを言われ、面映ゆかった。
「すごいですね。ギルドのトップがハルトさんに注目しているなんてっ」
ジネットさんが目をキラキラさせる。
「偉い人と話すのはどうも苦手です」
苦笑を返す俺。
実際、妙に威圧感のある人だった。
それにやたらと美人で色っぽくて、間近で見られてるとドキッとなる。
「これからのハルトさんの活躍が楽しみです」
嬉しそうに微笑みながら、ジネットさんも仕事があるからということで別れた。
で、さらに進むと──、
「ハルト、お帰りなさいっ」
ロビーのところで、今度はリリスから声をかけられた。
一緒にいるのはアリスと、ゴスロリ衣装の女の子。
──久しぶりに見る、メリエルの姿だった。
グリードとの戦いで、俺のスキルはさらに成長を遂げた。
まず一つ目は、複数の場所にスキルを飛ばせるようになったことだ。
最大で七カ所。
ただ、あれから試してみたんだけど、複数の形態を同時に使うことはできないらしい。
ある場所に
あくまでも『一種類のスキルを七カ所に発現できる』だけ。
言い換えれば、別の形態を使うためには『切り替え』の時間が必要になる。
一瞬で切り替えられるとはいえ、その隙を狙ってくる敵もいるだろう。
その辺りを警戒しながら、いかに最適な形態を選んで戦うか──というのが肝になりそうだった。
ただし──グリードとの最後の戦いで会得した、黄金色の空間は別だ。
あの空間の中で、俺はすべてのスキルを同時に発現していた。
あらゆる攻撃を受け止め、反射し、魔法の発動を封じ、攻撃を無効化する──。
無敵ともいえる、空間。
ただし異常なまでに体力や集中力を消耗するため、長時間の発動は難しい。
そもそも、あれ以来一度も発現すらできていない。
あのときと同じくらいイメージを強く象らないと駄目なのかもしれない。
使いこなすことができれば、対魔族や魔獣への強力な切り札になるんだけれど。
練習あるのみ、ってことだろうか……。
昼前になり、俺はいつも通りにギルド支部を訪れた。
「聞いたか? カーバルシティの噂」
「ああ、変な鎧をつけた不審者が町中で暴れ回ったんだろ?」
「ランクS冒険者が四人も大怪我したとか……」
「でも、その後に不審者は逃げちまって行方知れずなんだろ……」
受付に向かう途中、冒険者たちのそんな会話が聞こえてきた。
カーバルシティは王国の東部にある大きな都市だ。
なんだか物騒なことにでもなってるんだろうか──。
と、
「おめでとうございます、ハルトさん」
声をかけてきたのは、黒髪をシニョンにした生真面目そうな女性。
受付嬢のジネットさんだ。
「ランクBに昇格ですね」
ジネットさんが嬉しそうに微笑む。
「えっ、そうなんですか」
驚く俺。
初耳だった。
確か、近々ランクCに上がるだろうって話は聞いていたけれど……。
それをさらに飛び越してランクBとは。
「あら、ご存じなかったんですか。先日の報告書で野生の竜を退治したという話や、以前に王都を襲った魔将との戦いが評価されて──現在のランクDから二段階の昇格がほぼ確実だという話ですよ」
冒険者になったのが、ついこの間のような感覚なのに、いつの間にかランクBが目の前に迫ってるんだな、俺……。
なんだか感慨深かった。
このままランクAや最上級のランクSまで──なんて、つい夢想してしまう。
「記録的な昇格スピードですね。すごいです」
ジネットさんは俺を見て目を輝かせる。
「やはり将来有望……ふふふふ」
などと、よく分からないことをつぶやいていた。
「へえ、あなたが噂のハルト・リーヴァ?」
今度は背後から声をかけられた。
振り返ると、一人の女性が立っている。
長い黒髪の美人さんだ。
その顔立ちは二十代くらいにも、あるいはもっと上の年齢にも見える──年齢不詳って感じ。
「テ、テオドラ様っ!? なぜ、このような場所にっ!?」
ジネットさんがいきなり直立不動の姿勢になった。
ものすごく緊張している様子だ。
「……テオドラ・クリューエル様。冒険者ギルド本部の長です」
ジネットさんが震える声で耳打ちした。
つまり、世界中の冒険者ギルドのトップってことか?
「そうかしこまらないでもいいよ。堅苦しいのは嫌いでねぇ」
流麗な黒髪をばさりとかき上げ、気風のいい口調でテオドラさんが笑う。
「なるほど。なかなかいい面構えじゃないか。ちょっとした用でアドニスまで立ち寄ったんだけど、会えて嬉しいよ」
俺をしげしげと見つめた。
鼻先に漂ってくる香水の匂い。
リリスたちのような清潔感のある香りとはまた別種の──妖しさと色香を孕んだ匂いだった。
「防御魔法が得意なんだって? それにしても野生の竜をやすやすと完封してしまうなんて大したもんだよ」
さらに近づくテオドラさん。
間近で見ると、本当に美人だ。
ぞくりと背筋が粟立った。
大人の色気漂う美女って感じだった。
今まで身近にはいなかったタイプだけに、やけに緊張してしまう。
「ランクBどころかランクAでも、そんなことができる冒険者はまずいないだろう。あるいはランクSにだって──」
「ど、どうも……」
思わず視線を逸らしたところで、ちょうどテオドラさんの胸元が視界に入った。
異様に深い胸の谷間は、強烈な吸引力があった。
うっ、エロすぎ……っ!
慌てて、さらに別方向に視線を逸らす俺。
目のやり場に困る、っていうのはこのことだろう。
「一度ルーディロウムにも来てみるといい。凄腕の冒険者がそろっているからね。きっとあんたの刺激にもなるだろう」
「ルーディロウム……?」
聖王国とも呼ばれる、大陸の強国である。
至高神ガレーザへの信仰が盛んで、聖王国という呼び名の由来にもなっていた。
そして冒険者ギルドの本部も、そこにあるそうだ。
──その後、しばらく話した後、テオドラさんは去っていった。
俺には大いに期待している、という感じのことを言われ、面映ゆかった。
「すごいですね。ギルドのトップがハルトさんに注目しているなんてっ」
ジネットさんが目をキラキラさせる。
「偉い人と話すのはどうも苦手です」
苦笑を返す俺。
実際、妙に威圧感のある人だった。
それにやたらと美人で色っぽくて、間近で見られてるとドキッとなる。
「これからのハルトさんの活躍が楽しみです」
嬉しそうに微笑みながら、ジネットさんも仕事があるからということで別れた。
で、さらに進むと──、
「ハルト、お帰りなさいっ」
ロビーのところで、今度はリリスから声をかけられた。
一緒にいるのはアリスと、ゴスロリ衣装の女の子。
──久しぶりに見る、メリエルの姿だった。