2 「本当に不死身なんだ」

文字数 2,602文字

 女神さまからもらった『絶対にダメージを受けないスキル』。

 白昼夢なんかじゃなく、俺は本当にそんなスキルを身に着けたんだろうか。
 それなら、相手が最強の魔獣──竜であっても、ダメージを受けないなら対処のしようはあるかもしれない。

 攻撃能力には関係しないスキルだろうから、直接攻撃で倒すってわけにはいかないだろうな。
 たとえば、竜の攻撃をスキルで無効化しつつ、誰もいない場所まで誘導するとか?

 うーん、とりあえず現場に行ってみよう。

 ここは俺が生まれ育った町だし、愛着もある。
 魔獣に壊されてしまうのは、嫌だ。

 ──というわけで、俺は城壁までやって来た。

 竜の爪や尻尾を何度も食らい、城壁は亀裂だらけのボロボロだった。
 そろそろ穴が空きそうだ。

「あれ……? 人がいる──」

 二人組の女の子が、竜と対峙しているのを発見する。

 もしかしたら、町を守るためにやって来た冒険者だろうか。
 そういえば、逃げる人たちが、町長がギルドに連絡を取るって会話をしていたような気がする。

 二人は、どっちも俺と同じ年ごろみたいだ。
 金髪をツインテールにした勝気そうな女の子と、銀髪をショートボブにした温和そうな女の子。

 二人とも息を呑むような美少女だった。
 学校のクラスメイトとはレベルが違う。
 っていうか、実際に息が詰まった。

 か、可愛い──。
 俺の目は完全に釘づけだった。

 ──なんて見とれていたら、

「……ん?」

 ふいに、周囲の温度が爆発的に上がった。

 熱気がチリチリと肌を焼く。

 嫌な予感がする。
 振り仰ぐと、城壁の上から竜が顔を出し、俺たちを見下ろしていた。

 耳まで裂けた口を開いている。
 なんか、口の中が赤く光ってるんだけど……。

「おい、ちょっ──」

 赤い光は収束し、真っ黒な色合いに変わり──。
 黒い炎の塊となって吐き出される!

「っ……!」

 悲鳴を上げる暇すらなかった。
 竜の黒炎が城壁を直撃し、爆光とともに大穴を開けた。
 穴から侵入した火炎は、そのまま周囲一帯を舐めつくし、焼き払う。

 さっきの女の子たちもその炎に飲みこまれた。
 そして俺も──。

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

 漆黒の炎に直撃される。

 馬車に撥ねられて、もう一度生きるチャンスをもらって──。
 結局、また死ぬのか、俺!?

 ──いや、違う。

 ふたたび奇妙なまでの自信が湧きあがった。

 俺は誰にも傷つけられない。
 俺を誰も傷つけられない。

 この世のどんな攻撃であろうとも。
 この世のどんな事象であろうとも。

 自信は揺るぎない確信となり──。
 その確信は強烈な意志とともに、『力』を発動させる。



 俺の眼前に輝く何かが浮かび上がった。



 翼を広げた天使を思わせる、紋様。

 極彩色に輝くそれが周囲に広がる。
 がいんっ、という妙な金属音が響いたかと思うと、漆黒の炎を弾き返す。

「……なんとも、ない」

 俺は無事だった。

 火傷一つしていない。
 服も焦げ目一つついていない。

 たまたま炎が外れた、とかではない。
 そもそも外れるようなレベルの話ではない。

 なにせ周囲は、石造りの家も、道も、完全に消し炭と化している。
 炎は間違いなく俺を直撃したんだ。

 だけど、さっきの謎の光がそれを弾いてくれた──らしい。

 幻覚でも見間違いでもない。
 これは、俺の力だ。
 そう確信する。

「すごい……本当に『絶対にダメージを受けないスキル』をもらったんだ」

 他に説明しようがない。

 いや、『絶対に』と判断するのはまだ早いか。
 少なくともドラゴンブレスを受けてもダメージを受けない防御力、ってことだ。

 もっとも、この世界で最強クラスの竜のブレスを防げるんだから、これはもう相当なものである。
 本当に俺のスキルが絶対不可侵であったとしてもおかしくない。

 よし、これならやれるかもしれない──。
 勇気が湧いてきた。

「まだ逃げ遅れた人がいたのね」

 背後から声がした。

 振り返ると、さっきの女の子たちが駆け寄ってくる。
 炎に飲みこまれたように見えたけど、どうやら無事だったらしい。

 ホッと安堵する。

「大丈夫なの? ドラゴンブレスに巻き込まれなかった?」

「ああ、なんとか」

 言って、俺はあらためて二人を見た。

 間近で見ると、やっぱりめちゃくちゃ可愛い。
 しかも顔立ちがどことなく似ている。
 たぶん姉妹なんだろう。

 二人とも体にぴったり張り付くような黒い衣装にスカート、その上から黒いローブを羽織った黒ずくめの姿だった。
 ちなみに二人そろって巨乳だ。ごくり。

「そっちこそ、よく無事だったな。直撃コースだったんじゃないのか?」

 実際、二人はドラゴンの正面にいた。
 炎のブレスに飲みこまれるところを見たんだけど──。

「アリス姉さんが氷魔法でガードしたからね」

 こともなげに言う金髪ツインテールの女の子。

「私は防御担当ですから~。ちなみに攻撃の担当はリリスちゃんなんですぅ」

 と、こちらは銀髪ショートボブの女の子。
 どうやら金髪のほうがリリスで、銀髪はアリスという名前らしい。

「早く逃げて。あいつはあたしたちが仕留めるから」

「仕留めるって……」

「あ、Bランクだからって馬鹿にしてるでしょ! 確かに竜と戦えるランクじゃないかもしれないけど──しょうがないじゃない。手の空いてる冒険者があたしたちしかいなかったんだから」

「たとえ力及ばずとも町の人たちを守るための力になりたいんです~」

 リリスとアリスがそれぞれの決意を告げる。

 ちなみに冒険者にはランクがあって、最上級のSが一番強く、最下級のEまで六段階に分かれている。
 最強の魔獣である竜と戦えるのは、確かSランクだけだって聞いたことがある。

 つまり二人には手に余る、はるか格上の相手ってわけだ。

「だからあなたは逃げて。もうすぐ城壁が破られる──そうなれば、竜は町一帯を破壊し尽くすはずよ」

 リリスが告げる。

「逃げる?」

 違う。
 俺は町を守るんだ。

 このスキルを使って、どうにかして──。
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