5 「魔王への切り札にさえ」
文字数 2,493文字
うーん、やっぱり攻撃役はカッコいいな。
さっきのリリスの姿を思い出しながら、俺はそう感じていた。
「どうせスキルをもらえるんなら、最強の防御力じゃなくて最強の攻撃力でもよかったかもしれない」
つぶやく俺。
……っていうのは、ちょっと贅沢か。
周りが消し炭になるようなドラゴンブレスを浴びても、爪や尾の一撃を食らっても、まったくの無傷。
呆れるほどの防御力。
まさしく不可侵だ。
うん、前言撤回。
やっぱり、こっちのスキルでよかったかもしれない。
「竜を倒せた……!」
リリスは杖を下ろし、呆然とした顔でつぶやいた。
杖の先端に取り付けられていた矢じり状のパーツ──マジックミサイルはさっきの呪文を放ったのと同時に砕け散っていた。
どうやら使い捨てタイプのアイテムらしい。
「ありがとう。えっと……」
俺を見たリリスが口ごもった。
「まだお互いにちゃんと名乗ってなかったね。あたしはリリス・ラフィール。こっちは姉のアリスよ。双子なの、あたしたち」
「アリスです。二人とも冒険者をやっているんです。よろしくお願いしますね~」
と、二人が名乗る。
「俺はハルト・リーヴァ。この町の高等部に通ってる。二年生だ」
俺も名乗り返した。
「高等部の二年ってことは、あたしたちと同い年だね」
リリスが微笑む。
「あらためて──ありがとう、ハルト。あなたが竜の注意を引きつけてくれたおかげで倒すことができた」
「完全にあの竜の注意がハルトさんに向いてましたね。おかげでマジックアイテムの魔力チャージがスムーズに終わりました」
礼を言うリリスに、にっこり笑顔のアリス。
まあ、竜もよほどびっくりしたんだろうな。
たかが人間が、自分の全力の攻撃を何発受けても傷一つ受けないんだから。
「それにしても──竜のブレスにも爪や尾の打撃にも平然としているなんて……あなた、何者なの? あれはハイレベルな防御魔法か何か?」
リリスが興味津々といった感じで俺を見つめる。
間近で見ると、本当にすごい美少女だった。
ツインテールにした黄金色の髪が、夕日を浴びて美しくきらめいている。
整った顔立ちは勝気で、生命力にあふれていて、それでいてお姫さまみたいな高貴な気品をも漂わせている。
さっきまでは戦いの緊張や高揚で忘れていたけれど。
周囲の景色に白いモヤがかかって見えるほどの──絶世の美貌だ。
急にドギマギしてきた。
「? どうかしたの、ハルト?」
リリスがキョトンと首をかしげる。
そんな仕草までもが可愛らしくて、ドギマギが加速してしまう。
「顔が赤いですよ、ハルトさん? まさか、竜のブレスを浴びた後遺症……!?」
アリスが心配そうに俺を見つめた。
こっちもリリスに負けず劣らず可愛らしい。
勝気タイプのリリスとは対照的に、ほんわかとした癒し系の美少女。
柔和な顔立ちにショートボブにした銀髪がよく似合っている。
「い、いや、大丈夫だ……」
ただ照れてるだけだから、なんて本当のことを言うと、ますます照れてしまいそうなので俺は適当にごまかす。
「その、えっと……竜の攻撃を防いだのはアレだ。女神さまから──」
言いかけたところで、俺は口をつぐんだ。
これって誰にでも明かしていい話なんだろうか。
秘密にしろとは言われてないけれど、逆に話していいとも言われていない。
相手は神さまだし、うかつに明かさないほうがいいのかもしれない。
「いや、そう、防御魔法なんだ。俺、魔法なんて習ったことないのに、さっきの戦いで突然目覚めちゃって。才能があるのかもしれないな、はは」
俺は念のためにごまかすことにした。
……ちゃんと誤魔化せたかどうかは自信がない。
「素人なのに竜の攻撃を防ぐほどの魔法……か」
リリスはじっと俺を見つめている。
やっぱり怪しまれてるのかな。
──と思ったら、
「ねえ、ハルト。よかったらあなたも冒険者にならない?」
いきなり勧誘された。
「世界中が魔獣の脅威にさらされてるのは知ってるでしょ?」
「ああ、魔獣に襲われて壊滅状態になった町なんかもあるって聞いたことがある」
うなずく俺。
──おおよそ百年ほど前から、魔獣と呼ばれるモンスターがこの世界に現れるようになった。
奴らについて多くは分かっていない。
『魔界』と呼ばれる異空間から突然現れ、人を、町を、根こそぎ破壊し、その多くは一定の時間が経つとまた元の異空間に帰っていく習性がある。
人間をはるかに超越した戦闘能力や超常的な異能を備え、強力な魔獣になると一国の軍隊並みの力を備えているんだとか。
奴らが現れる際には独特の前兆があるらしく、それを元にした警報が出される。
それでも必ず前兆を捉えられるわけではなく、今回みたいに不意打ちのような形で襲われる町が後を絶たない。
そんな魔獣に立ち向かう戦士たち──それが『冒険者』だ。
もともとは名前の通り、各地の遺跡やダンジョンを巡るような──文字通りの冒険者だったわけだが、彼らの中には卓越した戦闘能力を誇る者もいた。
そんな者たちが百年ほど前に現れ始めた魔獣との戦いで、先陣を切って立ち向かい──そのうちに『冒険者』は魔獣を退治する者の代名詞へと変化していった。
「魔獣と戦うために、傭兵ギルドでは世界中から強者を募っているの。あなたの力は、きっと大勢の人を守るために必要になると思う」
「特に最近は、魔獣の出現頻度が上がってますからね~」
と、補足するアリス。
「──って、俺が!?」
「竜の攻撃にも傷一つ受けない無敵の防御魔法。あなたこそ魔獣への──もしかしたら、魔獣たちを統べる魔王への切り札にさえ、なれるかもしれない」
リリスが俺の両肩をがしっとつかんだ。
しかし、対魔王の切り札とは。
なんか……ものすごく過大評価されてないか、俺!?
さっきのリリスの姿を思い出しながら、俺はそう感じていた。
「どうせスキルをもらえるんなら、最強の防御力じゃなくて最強の攻撃力でもよかったかもしれない」
つぶやく俺。
……っていうのは、ちょっと贅沢か。
周りが消し炭になるようなドラゴンブレスを浴びても、爪や尾の一撃を食らっても、まったくの無傷。
呆れるほどの防御力。
まさしく不可侵だ。
うん、前言撤回。
やっぱり、こっちのスキルでよかったかもしれない。
「竜を倒せた……!」
リリスは杖を下ろし、呆然とした顔でつぶやいた。
杖の先端に取り付けられていた矢じり状のパーツ──マジックミサイルはさっきの呪文を放ったのと同時に砕け散っていた。
どうやら使い捨てタイプのアイテムらしい。
「ありがとう。えっと……」
俺を見たリリスが口ごもった。
「まだお互いにちゃんと名乗ってなかったね。あたしはリリス・ラフィール。こっちは姉のアリスよ。双子なの、あたしたち」
「アリスです。二人とも冒険者をやっているんです。よろしくお願いしますね~」
と、二人が名乗る。
「俺はハルト・リーヴァ。この町の高等部に通ってる。二年生だ」
俺も名乗り返した。
「高等部の二年ってことは、あたしたちと同い年だね」
リリスが微笑む。
「あらためて──ありがとう、ハルト。あなたが竜の注意を引きつけてくれたおかげで倒すことができた」
「完全にあの竜の注意がハルトさんに向いてましたね。おかげでマジックアイテムの魔力チャージがスムーズに終わりました」
礼を言うリリスに、にっこり笑顔のアリス。
まあ、竜もよほどびっくりしたんだろうな。
たかが人間が、自分の全力の攻撃を何発受けても傷一つ受けないんだから。
「それにしても──竜のブレスにも爪や尾の打撃にも平然としているなんて……あなた、何者なの? あれはハイレベルな防御魔法か何か?」
リリスが興味津々といった感じで俺を見つめる。
間近で見ると、本当にすごい美少女だった。
ツインテールにした黄金色の髪が、夕日を浴びて美しくきらめいている。
整った顔立ちは勝気で、生命力にあふれていて、それでいてお姫さまみたいな高貴な気品をも漂わせている。
さっきまでは戦いの緊張や高揚で忘れていたけれど。
周囲の景色に白いモヤがかかって見えるほどの──絶世の美貌だ。
急にドギマギしてきた。
「? どうかしたの、ハルト?」
リリスがキョトンと首をかしげる。
そんな仕草までもが可愛らしくて、ドギマギが加速してしまう。
「顔が赤いですよ、ハルトさん? まさか、竜のブレスを浴びた後遺症……!?」
アリスが心配そうに俺を見つめた。
こっちもリリスに負けず劣らず可愛らしい。
勝気タイプのリリスとは対照的に、ほんわかとした癒し系の美少女。
柔和な顔立ちにショートボブにした銀髪がよく似合っている。
「い、いや、大丈夫だ……」
ただ照れてるだけだから、なんて本当のことを言うと、ますます照れてしまいそうなので俺は適当にごまかす。
「その、えっと……竜の攻撃を防いだのはアレだ。女神さまから──」
言いかけたところで、俺は口をつぐんだ。
これって誰にでも明かしていい話なんだろうか。
秘密にしろとは言われてないけれど、逆に話していいとも言われていない。
相手は神さまだし、うかつに明かさないほうがいいのかもしれない。
「いや、そう、防御魔法なんだ。俺、魔法なんて習ったことないのに、さっきの戦いで突然目覚めちゃって。才能があるのかもしれないな、はは」
俺は念のためにごまかすことにした。
……ちゃんと誤魔化せたかどうかは自信がない。
「素人なのに竜の攻撃を防ぐほどの魔法……か」
リリスはじっと俺を見つめている。
やっぱり怪しまれてるのかな。
──と思ったら、
「ねえ、ハルト。よかったらあなたも冒険者にならない?」
いきなり勧誘された。
「世界中が魔獣の脅威にさらされてるのは知ってるでしょ?」
「ああ、魔獣に襲われて壊滅状態になった町なんかもあるって聞いたことがある」
うなずく俺。
──おおよそ百年ほど前から、魔獣と呼ばれるモンスターがこの世界に現れるようになった。
奴らについて多くは分かっていない。
『魔界』と呼ばれる異空間から突然現れ、人を、町を、根こそぎ破壊し、その多くは一定の時間が経つとまた元の異空間に帰っていく習性がある。
人間をはるかに超越した戦闘能力や超常的な異能を備え、強力な魔獣になると一国の軍隊並みの力を備えているんだとか。
奴らが現れる際には独特の前兆があるらしく、それを元にした警報が出される。
それでも必ず前兆を捉えられるわけではなく、今回みたいに不意打ちのような形で襲われる町が後を絶たない。
そんな魔獣に立ち向かう戦士たち──それが『冒険者』だ。
もともとは名前の通り、各地の遺跡やダンジョンを巡るような──文字通りの冒険者だったわけだが、彼らの中には卓越した戦闘能力を誇る者もいた。
そんな者たちが百年ほど前に現れ始めた魔獣との戦いで、先陣を切って立ち向かい──そのうちに『冒険者』は魔獣を退治する者の代名詞へと変化していった。
「魔獣と戦うために、傭兵ギルドでは世界中から強者を募っているの。あなたの力は、きっと大勢の人を守るために必要になると思う」
「特に最近は、魔獣の出現頻度が上がってますからね~」
と、補足するアリス。
「──って、俺が!?」
「竜の攻撃にも傷一つ受けない無敵の防御魔法。あなたこそ魔獣への──もしかしたら、魔獣たちを統べる魔王への切り札にさえ、なれるかもしれない」
リリスが俺の両肩をがしっとつかんだ。
しかし、対魔王の切り札とは。
なんか……ものすごく過大評価されてないか、俺!?