1 「一緒に」
文字数 2,801文字
「いずれ、また……それまで、おやすみなさい……」
メリエルの体が、無数の光の粒子へと変わった。
二つの塊に分かれた粒子群は、リリスとアリスの杖の中にそれぞれ吸いこまれて消える。
「この杖の中で眠る、ということなんですね、メリエルさん……」
アリスがつぶやき、杖を慈しむように撫でた。
「ゆっくり休んで、メリエル」
深い息をついたリリスが、凛とした口調で告げる。
「あなたが回復するまで、あたしたちが守るから」
「ええ、彼女が私たちを守ってくれたように──」
うなずくアリス。
魔将ザレアとの戦いで深い傷を負ったメリエルは、一種の冬眠状態に入るということだった。
次に目覚めるのは十年以上後かもしれない、と。
裏切り者になったメリエルは、魔族に狙われるかもしれない。
リリスとアリスは冬眠状態で無防備な彼女を守る、と決意したみたいだ。
もちろん、俺だって彼女たちを守るつもりだった。
大切な仲間──リリスとアリスが守ろうとしている者なら、俺にとっても大切だ。
「魔族を守るのか……?」
ふいに、ジャックさんがぽつりとつぶやいた。
バチッ、と空気が帯電するような感じで、ジャックさんの肩や首筋の辺りから赤い火花が散る。
「平穏な生活を……脅かすかもしれない者を……守る……? なぜだ……」
独り言のようにつぶやく。
「ジャックさん……?」
違和感がぶり返した。
やっぱり、ちょっと様子が変だ。
雰囲気も、微妙に以前とは違うし……。
「いや、なんでもない」
ジャックさんは首を左右に振った。
「戦いの後だからか、妙に気分が高ぶっているらしい」
つぶやいたその体から、ふたたびバチッと火花が散る。
まるで体の中に収まりきらないエネルギーが放出されているかのように。
それだけジャックさんのスキルが強まっている、ってことなんだろうか。
俺がスキル保持者たちとの出会いで、防御スキルを成長させたみたいに。
それとも──。
いや、これ以上考えても仕方がない。
「──帰ろう」
俺はみんなにそう告げた。
魔将との戦いはひとまず終わったんだ。
だから戻ろう。
俺たちの、それぞれの日常へ──。
魔将たちとの戦いから数日が経った。
「あ、ハルト。待ってたのよ」
ギルド支部に行くと、リリスがにこにこ笑顔で駆け寄ってきた。
「お祝いが一日遅れになっちゃったけど、昇格おめでとう」
「ランクBに上がったんですよね? 冒険者になってまだ何カ月も経ってないのに、すごいです~」
アリスも嬉しそうだ。
──昨日、俺はギルドから正式にランクB冒険者として認定された。
ちょっと前までは最下級のランクEだったのに、なんだか不思議な気分だ。
「ありがとう、二人とも」
「これでボクと一緒にクエストをこなせるねっ」
今度はサロメがやって来た。
褐色の肌によく映える、いつもの踊り子衣装。
走ってきたため、胸元がぶるんぶるん揺れている。
ごくり。
思わず生唾を飲みこんでしまうほど色っぽい。
「よかったら、ボクの助手にならない?」
「助手か……」
冒険者はランクが一つ下の相手を助手に指定できる。
今の俺は難易度Bまでのクエストしか基本的にこなせないが、ランクAのサロメと一緒ならもうワンランク上のクエストも受注できるのだ。
難度の高いクエストをこなせば、当然俺の実績も上がって、さらに上のランクを目指しやすくなる。
そしてランクが上がれば、より強い魔族や魔獣との戦いにも参加できる。
つまり──より危険な敵から、より多くの人を守れるってことだ。
「ボクたち、いいコンビになれるんじゃないかな。それに……ハルトくんは初めての相手だし、もっと一緒にいられる時間が増えたら嬉しいな」
と、サロメに耳元でささやかれる。
「は、初めての相手って……」
「ボクのファーストキス、捧げたでしょ?」
「っ……!」
古竜の神殿で彼女からキスされた記憶が鮮やかによみがえった。
俺を勇気づけるためのおまじないだ、って冗談めかしてたけど。
でも、その瞳は真剣だった気がする。
「……んんー? なんの話かな、ハルトもサロメも?」
リリスが引きつった顔で俺とサロメを見た。
「えっと、その……」
「今、キスがどうのとか言ってなかった? んんんー?」
やけに怖い顔で詰め寄るリリス。
「い、いや、だから……」
俺は思わずたじたじとなった。
「二人だけの秘密のお話」
サロメがにっこりと微笑みつつ、俺の腕にしがみつく。
豊かな胸が、むにゅうっ、という感じで押しつけられた。
や、柔らかい……!
ドキッとなった俺を、リリスはますます引きつった顔で見つめ、
「あたしもサロメの助手にしてっ」
いきなり、そんなことを言い出した。
「ん? 前からちょくちょく一緒にクエストやってるでしょ」
「もっと頻繁にっ。あたしと姉さんも腕を磨きたいし」
リリスがさらに詰め寄る。
やけに熱心だな……。
メリエルから託された魔力のおかげで、リリスもアリスも今までとは比べ物にならないほど強大な魔法の力を得た。
それを使いこなすための訓練を積みたいってことなんだろうけど。
なんか、それだけでもなさそうな必死な雰囲気だ。
しかも顔が妙に赤いし。
「ヤキモチかー。リリスって分かりやすいよね」
サロメがにやっと笑った。
「そういう素直なところ、好きだよ」
「ヤ、ヤ、ヤキモチって、ち、ちがっ、違うからっ!?」
リリスはさらに顔を赤くした。
「あ、ちなみにルカもハルトとキスしてたよね?」
サロメがからかうように笑う。
「えっ、あれは事故で、その……」
「ハールート―?」
リリスの顔が最大級に引きつった。
額に青筋が浮いてるし、異様な迫力だ。
正直、六魔将よりすさまじいプレッシャーなんですけど……。
「うう、みなさん、ハルトさんと、せ、せせせせ接吻を経験しているのですね……私だけ置いてけぼり……」
アリスがショックを受けた様子でうつむいていた。
「ん? アリスもハルトくんとちゅーしたかった?」
「えっ、あわわわわわわっ!? わ、私は、その、えっと、ひそかに気になる……じゃなかった、ハルトさんは、あくまでも冒険者仲間というか、男の子として意識してます……あ、いえ、意識して……はわわわわわわっ!?」
アリスは完全にパニック状態だった。
──かしましい雰囲気の中、結局俺とリリス、アリスの三人が、今後はサロメの助手としてクエストをこなしていこうって話にまとまった。
メリエルの体が、無数の光の粒子へと変わった。
二つの塊に分かれた粒子群は、リリスとアリスの杖の中にそれぞれ吸いこまれて消える。
「この杖の中で眠る、ということなんですね、メリエルさん……」
アリスがつぶやき、杖を慈しむように撫でた。
「ゆっくり休んで、メリエル」
深い息をついたリリスが、凛とした口調で告げる。
「あなたが回復するまで、あたしたちが守るから」
「ええ、彼女が私たちを守ってくれたように──」
うなずくアリス。
魔将ザレアとの戦いで深い傷を負ったメリエルは、一種の冬眠状態に入るということだった。
次に目覚めるのは十年以上後かもしれない、と。
裏切り者になったメリエルは、魔族に狙われるかもしれない。
リリスとアリスは冬眠状態で無防備な彼女を守る、と決意したみたいだ。
もちろん、俺だって彼女たちを守るつもりだった。
大切な仲間──リリスとアリスが守ろうとしている者なら、俺にとっても大切だ。
「魔族を守るのか……?」
ふいに、ジャックさんがぽつりとつぶやいた。
バチッ、と空気が帯電するような感じで、ジャックさんの肩や首筋の辺りから赤い火花が散る。
「平穏な生活を……脅かすかもしれない者を……守る……? なぜだ……」
独り言のようにつぶやく。
「ジャックさん……?」
違和感がぶり返した。
やっぱり、ちょっと様子が変だ。
雰囲気も、微妙に以前とは違うし……。
「いや、なんでもない」
ジャックさんは首を左右に振った。
「戦いの後だからか、妙に気分が高ぶっているらしい」
つぶやいたその体から、ふたたびバチッと火花が散る。
まるで体の中に収まりきらないエネルギーが放出されているかのように。
それだけジャックさんのスキルが強まっている、ってことなんだろうか。
俺がスキル保持者たちとの出会いで、防御スキルを成長させたみたいに。
それとも──。
いや、これ以上考えても仕方がない。
「──帰ろう」
俺はみんなにそう告げた。
魔将との戦いはひとまず終わったんだ。
だから戻ろう。
俺たちの、それぞれの日常へ──。
魔将たちとの戦いから数日が経った。
「あ、ハルト。待ってたのよ」
ギルド支部に行くと、リリスがにこにこ笑顔で駆け寄ってきた。
「お祝いが一日遅れになっちゃったけど、昇格おめでとう」
「ランクBに上がったんですよね? 冒険者になってまだ何カ月も経ってないのに、すごいです~」
アリスも嬉しそうだ。
──昨日、俺はギルドから正式にランクB冒険者として認定された。
ちょっと前までは最下級のランクEだったのに、なんだか不思議な気分だ。
「ありがとう、二人とも」
「これでボクと一緒にクエストをこなせるねっ」
今度はサロメがやって来た。
褐色の肌によく映える、いつもの踊り子衣装。
走ってきたため、胸元がぶるんぶるん揺れている。
ごくり。
思わず生唾を飲みこんでしまうほど色っぽい。
「よかったら、ボクの助手にならない?」
「助手か……」
冒険者はランクが一つ下の相手を助手に指定できる。
今の俺は難易度Bまでのクエストしか基本的にこなせないが、ランクAのサロメと一緒ならもうワンランク上のクエストも受注できるのだ。
難度の高いクエストをこなせば、当然俺の実績も上がって、さらに上のランクを目指しやすくなる。
そしてランクが上がれば、より強い魔族や魔獣との戦いにも参加できる。
つまり──より危険な敵から、より多くの人を守れるってことだ。
「ボクたち、いいコンビになれるんじゃないかな。それに……ハルトくんは初めての相手だし、もっと一緒にいられる時間が増えたら嬉しいな」
と、サロメに耳元でささやかれる。
「は、初めての相手って……」
「ボクのファーストキス、捧げたでしょ?」
「っ……!」
古竜の神殿で彼女からキスされた記憶が鮮やかによみがえった。
俺を勇気づけるためのおまじないだ、って冗談めかしてたけど。
でも、その瞳は真剣だった気がする。
「……んんー? なんの話かな、ハルトもサロメも?」
リリスが引きつった顔で俺とサロメを見た。
「えっと、その……」
「今、キスがどうのとか言ってなかった? んんんー?」
やけに怖い顔で詰め寄るリリス。
「い、いや、だから……」
俺は思わずたじたじとなった。
「二人だけの秘密のお話」
サロメがにっこりと微笑みつつ、俺の腕にしがみつく。
豊かな胸が、むにゅうっ、という感じで押しつけられた。
や、柔らかい……!
ドキッとなった俺を、リリスはますます引きつった顔で見つめ、
「あたしもサロメの助手にしてっ」
いきなり、そんなことを言い出した。
「ん? 前からちょくちょく一緒にクエストやってるでしょ」
「もっと頻繁にっ。あたしと姉さんも腕を磨きたいし」
リリスがさらに詰め寄る。
やけに熱心だな……。
メリエルから託された魔力のおかげで、リリスもアリスも今までとは比べ物にならないほど強大な魔法の力を得た。
それを使いこなすための訓練を積みたいってことなんだろうけど。
なんか、それだけでもなさそうな必死な雰囲気だ。
しかも顔が妙に赤いし。
「ヤキモチかー。リリスって分かりやすいよね」
サロメがにやっと笑った。
「そういう素直なところ、好きだよ」
「ヤ、ヤ、ヤキモチって、ち、ちがっ、違うからっ!?」
リリスはさらに顔を赤くした。
「あ、ちなみにルカもハルトとキスしてたよね?」
サロメがからかうように笑う。
「えっ、あれは事故で、その……」
「ハールート―?」
リリスの顔が最大級に引きつった。
額に青筋が浮いてるし、異様な迫力だ。
正直、六魔将よりすさまじいプレッシャーなんですけど……。
「うう、みなさん、ハルトさんと、せ、せせせせ接吻を経験しているのですね……私だけ置いてけぼり……」
アリスがショックを受けた様子でうつむいていた。
「ん? アリスもハルトくんとちゅーしたかった?」
「えっ、あわわわわわわっ!? わ、私は、その、えっと、ひそかに気になる……じゃなかった、ハルトさんは、あくまでも冒険者仲間というか、男の子として意識してます……あ、いえ、意識して……はわわわわわわっ!?」
アリスは完全にパニック状態だった。
──かしましい雰囲気の中、結局俺とリリス、アリスの三人が、今後はサロメの助手としてクエストをこなしていこうって話にまとまった。