5 「六魔将の名にかけて」
文字数 2,463文字
「さあ、存分に殺し合いましょうか。あなたを殺し、魔王様の命を果たします」
メリエルの周囲が陽炎のように揺らいだ。
「六魔将の名にかけて──そう、わたくしは栄えある魔王様の腹心なのですから……」
空間から黒い無数の何かがにじみ出る。
漆黒の杖だ。
一つ二つとその数はみるみる増えていく。
やがて、無数の──おそらくは『千の魔導』の二つ名の通り、千本の杖が空を埋め尽くした。
「魔族の魔法は、人間のそれとは違いますわよ。威力だけでなく発動速度も──呪文詠唱というタイムラグを必要としませんからね」
メリエルが上空から告げる。
ばさり、と黒い翼をはためかせ、
「わたくしが得意とするのは超速連続魔法攻撃──人間の基準でいえば、その一撃一撃が超級魔法 クラスの威力を備えています」
以前、リリスがマジックミサイルを使って呪文の威力を増幅させ、クラスA竜種を倒したことがあった。
そのときの呪文が超級魔法 クラスだ。
「あなたの防御ですべて耐えられるのか、試してみましょうか」
たおやかな右手を掲げるメリエル。
「雷撃斬 」
千の杖の一つが黄金の光とともに、稲妻を降らせる。
「水流破 」
別の杖が青い光を発して、津波のような水流を。
「闇爆崩斬 」
さらに別の杖は黒い輝きとともに、闇色の光弾を放つ。
虚空に浮かぶ千本の杖が次々に発光し、無数の攻撃呪文が降り注いだ。
まさしく、超速連続魔法攻撃──。
視界を埋め尽くす、色とりどりの光。
雷が、水流が、火炎が、光弾や衝撃波が、矢継ぎ早に飛んできては俺の周囲に炸裂する。
さっきの宣言通り、メリエルは超級魔法 クラスの魔法を数十数百単位で連発できるみたいだ。
人間の魔法使いと比べれば、まさしく規格外。
圧倒的な魔法能力を持つ六魔将、ってことか──。
すさまじい轟音と爆炎、そして震動。
都市の一つや二つは消滅しそうなほどの大爆発が延々と続く。
だけど防御スキルを張っているから、ダメージはまったくない。
俺を包む虹色のドームは小揺るぎもしない。
「ガイラスヴリムの剣も、ディアルヴァの呪術も通じなかった防御──やはり、わたくしの魔法も通さないようですわね」
メリエルがつぶやいた。
「ですが、知っていますわよ。あなたの防御スキルには効果時間がある。いずれその効果は切れる、と」
微笑む魔将の少女。
「そして新たにスキルを発動するまでには一瞬の間が必要なはずです。集中するための、ね。わたくしの超速連続魔法を前に、その一瞬は致命傷──」
成長した俺のスキルは、効果時間もおおよそ十五分ほどにまで伸びていた。
それでも、いずれは時間切れのときが来る。
メリエルの言った通り、その瞬間を狙われれば、次のスキル発動よりも早く、相手の魔法が俺を焼き尽くすだろう。
「風烈帝爆 」
強烈な竜巻が四本、俺の前後左右を取り囲んだ。
「これは……!?」
防御スキルで弾き返されても竜巻は消滅しない。
俺の周囲を回りながら、強烈な衝撃波を叩きつけてくる。
──継続的に攻撃する魔法でスキル切れの瞬間を狙おうということか。
「さあ、効果切れはいつでしょうか? 逃げ場はありませんわよ、ハルトさん」
がりがりっ、と床が、大気そのものまでが、削れるような連続衝撃波が吹き荒れる。
「逃げるつもりなんてない」
「強がりを……そろそろ防御スキルも切れるころではありませんか?」
「──いや」
俺は静かに首を振った。
「もう切れている」
「えっ……!?」
今度はメリエルが驚く番だった。
「まさか、二重に結界を……!?」
そう、これはグリードとの戦いで俺が身に付けた力だ。
今までは一カ所にしか発動できなかったスキルを、最大で七つまで同時に使えるようになった。
原理は単純。
まず護りの防壁 を張り、数分後にもう一つの護りの防壁 を『重ねがけ』する。
最初のスキルの効果時間が切れても、次に張ったスキルはまだ効果が続いているから、今までの弱点だった『スキル効果時間の途切れ目』を狙われることはない。
つまり意識が続くかぎり、護りの障壁 は永続的に俺を守ってくれるのだった。
「そんな防御──」
メリエルの表情が険しくなった。
唇を噛みしめ、うめく。
「わたくしたちが収集した情報にはありませんわ」
「成長したんだよ。鍛えてもらって、な」
「人間はおそるべき早さで成長する……なるほど」
うなるメリエル。
「生まれ落ちたときから強者として存在する我らには希薄な──あるいはもち得ない力、というわけですか」
「どうする? 俺はただ守るだけじゃなく、お前の攻撃を跳ね返して反撃することもできる。だけど──」
俺の中には、まだためらいがあった。
メリエルは今までの魔族とは違う。
最初から敵として現れたなら、攻撃できたと思う。
でも、リリスやアリスと交流している姿を見ているし、俺自身もメリエルと一緒にクエストをこなしたこともある。
そんな相手を攻撃することに、何も感じないわけがない。
たとえ正体が魔族であっても。
人間の感情は、そんな簡単には割り切れない。
「──でも、お前はリリスとアリスをさらった。倒さなきゃ、いけない……」
ぎりっと奥歯を噛みしめた。
躊躇している場合じゃない。
やるんだ──。
と、
「もう、やめてください! メリエルさん!」
「ハルトと戦わないで!」
ふいに、声が響く。
あれは──。
驚いて振り返ると、そこにはリリスとアリスの姿があった。
メリエルの周囲が陽炎のように揺らいだ。
「六魔将の名にかけて──そう、わたくしは栄えある魔王様の腹心なのですから……」
空間から黒い無数の何かがにじみ出る。
漆黒の杖だ。
一つ二つとその数はみるみる増えていく。
やがて、無数の──おそらくは『千の魔導』の二つ名の通り、千本の杖が空を埋め尽くした。
「魔族の魔法は、人間のそれとは違いますわよ。威力だけでなく発動速度も──呪文詠唱というタイムラグを必要としませんからね」
メリエルが上空から告げる。
ばさり、と黒い翼をはためかせ、
「わたくしが得意とするのは超速連続魔法攻撃──人間の基準でいえば、その一撃一撃が
以前、リリスがマジックミサイルを使って呪文の威力を増幅させ、クラスA竜種を倒したことがあった。
そのときの呪文が
「あなたの防御ですべて耐えられるのか、試してみましょうか」
たおやかな右手を掲げるメリエル。
「
千の杖の一つが黄金の光とともに、稲妻を降らせる。
「
別の杖が青い光を発して、津波のような水流を。
「
さらに別の杖は黒い輝きとともに、闇色の光弾を放つ。
虚空に浮かぶ千本の杖が次々に発光し、無数の攻撃呪文が降り注いだ。
まさしく、超速連続魔法攻撃──。
視界を埋め尽くす、色とりどりの光。
雷が、水流が、火炎が、光弾や衝撃波が、矢継ぎ早に飛んできては俺の周囲に炸裂する。
さっきの宣言通り、メリエルは
人間の魔法使いと比べれば、まさしく規格外。
圧倒的な魔法能力を持つ六魔将、ってことか──。
すさまじい轟音と爆炎、そして震動。
都市の一つや二つは消滅しそうなほどの大爆発が延々と続く。
だけど防御スキルを張っているから、ダメージはまったくない。
俺を包む虹色のドームは小揺るぎもしない。
「ガイラスヴリムの剣も、ディアルヴァの呪術も通じなかった防御──やはり、わたくしの魔法も通さないようですわね」
メリエルがつぶやいた。
「ですが、知っていますわよ。あなたの防御スキルには効果時間がある。いずれその効果は切れる、と」
微笑む魔将の少女。
「そして新たにスキルを発動するまでには一瞬の間が必要なはずです。集中するための、ね。わたくしの超速連続魔法を前に、その一瞬は致命傷──」
成長した俺のスキルは、効果時間もおおよそ十五分ほどにまで伸びていた。
それでも、いずれは時間切れのときが来る。
メリエルの言った通り、その瞬間を狙われれば、次のスキル発動よりも早く、相手の魔法が俺を焼き尽くすだろう。
「
強烈な竜巻が四本、俺の前後左右を取り囲んだ。
「これは……!?」
防御スキルで弾き返されても竜巻は消滅しない。
俺の周囲を回りながら、強烈な衝撃波を叩きつけてくる。
──継続的に攻撃する魔法でスキル切れの瞬間を狙おうということか。
「さあ、効果切れはいつでしょうか? 逃げ場はありませんわよ、ハルトさん」
がりがりっ、と床が、大気そのものまでが、削れるような連続衝撃波が吹き荒れる。
「逃げるつもりなんてない」
「強がりを……そろそろ防御スキルも切れるころではありませんか?」
「──いや」
俺は静かに首を振った。
「もう切れている」
「えっ……!?」
今度はメリエルが驚く番だった。
「まさか、二重に結界を……!?」
そう、これはグリードとの戦いで俺が身に付けた力だ。
今までは一カ所にしか発動できなかったスキルを、最大で七つまで同時に使えるようになった。
原理は単純。
まず
最初のスキルの効果時間が切れても、次に張ったスキルはまだ効果が続いているから、今までの弱点だった『スキル効果時間の途切れ目』を狙われることはない。
つまり意識が続くかぎり、
「そんな防御──」
メリエルの表情が険しくなった。
唇を噛みしめ、うめく。
「わたくしたちが収集した情報にはありませんわ」
「成長したんだよ。鍛えてもらって、な」
「人間はおそるべき早さで成長する……なるほど」
うなるメリエル。
「生まれ落ちたときから強者として存在する我らには希薄な──あるいはもち得ない力、というわけですか」
「どうする? 俺はただ守るだけじゃなく、お前の攻撃を跳ね返して反撃することもできる。だけど──」
俺の中には、まだためらいがあった。
メリエルは今までの魔族とは違う。
最初から敵として現れたなら、攻撃できたと思う。
でも、リリスやアリスと交流している姿を見ているし、俺自身もメリエルと一緒にクエストをこなしたこともある。
そんな相手を攻撃することに、何も感じないわけがない。
たとえ正体が魔族であっても。
人間の感情は、そんな簡単には割り切れない。
「──でも、お前はリリスとアリスをさらった。倒さなきゃ、いけない……」
ぎりっと奥歯を噛みしめた。
躊躇している場合じゃない。
やるんだ──。
と、
「もう、やめてください! メリエルさん!」
「ハルトと戦わないで!」
ふいに、声が響く。
あれは──。
驚いて振り返ると、そこにはリリスとアリスの姿があった。