7 「修業の成果よ」
文字数 2,222文字
「なんだ、積極的になってるじゃない」
悪戯っぽく笑いながら、サロメが俺たちの方を向いた。
四本の腕を持つ戦士タイプの魔族──ヘルズアームと交戦しながらも、その戦いぶりには余裕がある。
「はわわ……い、今のはよろめいただけ……ですぅ」
慌てたように俺から体を離すアリス。
真っ赤になった頬を両手で挟み、はふ、と息をついている。
俺の方も心臓の鼓動が高鳴ったままだ。
胸が破れそうなほどドキドキして、甘酸っぱい疼きが全身を痺れさせる。
「ふふ、二人とも照れちゃって。初心なんだから、もう」
サロメは微笑ましげに俺とアリスを見つめ、
「ただ、いちゃつくのはもう少し後にした方がよさそうだね」
告げた彼女の姿が、まるで陽炎のように揺らぎ、ぶれた。
「とりあえず──ボクはこいつを片づける」
あれは──!?
俺は、サロメの戦い方がいつもと違うことに気づいた。
暗殺術を得意とする彼女は、気配を殺して相手の死角から攻撃する戦法を取ることが多い。
だけど、今は違う。
小さなナイフ一本で、四種の武具を持つヘルズアームと正面から打ち合っているのだ。
ヘルズアームの攻撃は鋭い。
以前に戦ったときよりも、格段に。
だけど、サロメの動きはそれすらも圧倒していた。
「エルゼ式暗殺術隠密 歩 法 『竜瞬伊吹 』」
悪戯っぽい微笑みが、風に流れる。
「これがボクの──修業の成果よ」
サロメが優勢なのは、剣の腕によるものじゃない。
身のこなしによるものでも、ない。
まったく別の要因だ。
「き、貴様……!?」
戸惑ったようなヘルズアームの声。
さっきから魔族の攻撃が何度も空を切っていた。
サロメの動きを捕えられていない。
断続的に気配を消す彼女に、魔族はついていけないのだ。
そうか、キングリザードと戦ったときに使った技だ、と俺は気づいた。
「人間ごときが……調子に乗るな……」
ミスティックが火炎魔法で援護射撃をする。
「ひしゃげて、つぶれろ……」
さらにDイーターも圧縮魔法を放ってきた。
「させないっ」
叫ぶ俺。
魔族二体の攻撃は、いずれも虹色の輝きに阻まれて霧散した。
俺がサロメの周囲に防壁を張り巡らせたのだ。
──周囲の状況をあらためて確認する。
ルドルフさんは単身で竜と交戦中。
サロメも同じく一人でヘルズアームと戦っている。
その向こうにはミスティックとDイーターが構え、さらに後方からはブレイズサイクロプスがゆっくりと近づいてくる。
見たところ、今のサロメならヘルズアームを打ち倒すのは難しくないだろう。
他の魔族たちから邪魔されなければ──。
なら、俺たちがやることは決まっている。
「俺とアリスがサロメの援護。残りはあのデカブツを引きつけて」
アリスや他の冒険者たちに告げる俺。
「わ、分かった……頼む」
五人ほどの冒険者たちがブレイズサイクロプスの方へ向かっていった。
俺はアリスとともに、サロメに放たれる魔族の魔法をことごとくブロックする。
その間も、サロメはヘルズアームを翻弄し続けた。
そして。
「終わり、だね」
静かに告げたサロメがヘルズアームの背後に回りこんだ。
ナイフの一撃で魔族の首を刎 ね飛ばす。
「まず一人っ」
威勢よく叫ぶサロメ。
よし、次はミスティックとDイーターを片付けるぞ。
「おのれ、人間が……!」
「我らはそやつとは違う……!」
二体の魔族が同時に攻撃魔法を撃ってきた。
ヘルズアームと違い、あいつらは遠距離攻撃専門だろう。
なら、俺のスキルで完封できる。
まず通常の防御スキルで、魔族たちの魔法を跳ね返した。
そして間髪入れずに、
──形態変化 。
──不可侵領域 。
スキルの種類を切り替え、二体の魔族の周囲を囲む。
「今のを防いだくらいでいい気になるな……!」
「我らの魔力は、人間とは比較にならんほど巨大……呪文の連打で押しきってやる……!」
ミスティックとDイーターがふたたび攻撃呪文を唱えた。
だけど──今度は、その攻撃が放たれることはなかった。
彼らの手に集まった黒い魔力光は、空気に溶けこむようにして消えてしまう。
魔法の発動自体を無効化するスキル、不可侵領域 だ。
「呪文を撃てない……!?」
「どうなっている、馬鹿な……!?」
戸惑う魔族たち。
「天殺炎縛 !」
今度はアリスの呪文だ。
俺の不可侵領域 は、その内部にいる者が魔法を使うことはできないが、外から撃った魔法は素通しする。
渦巻く炎がミスティックとDイーターの全身を絡め取った。
さながら火炎の縛鎖──。
「ありがと、二人とも。あとはボクがっ」
呪文封殺と魔法による拘束──俺たちのコンビネーションで身動きを封じられた魔族たちに、サロメが突っこんでいく。
断続的に気配を消し、その姿を陽炎のようにかすませながら──。
「じゃあね、魔族たち」
冷然と振り下ろされたナイフが、二体の魔族を苦もなく切り裂いた。
悪戯っぽく笑いながら、サロメが俺たちの方を向いた。
四本の腕を持つ戦士タイプの魔族──ヘルズアームと交戦しながらも、その戦いぶりには余裕がある。
「はわわ……い、今のはよろめいただけ……ですぅ」
慌てたように俺から体を離すアリス。
真っ赤になった頬を両手で挟み、はふ、と息をついている。
俺の方も心臓の鼓動が高鳴ったままだ。
胸が破れそうなほどドキドキして、甘酸っぱい疼きが全身を痺れさせる。
「ふふ、二人とも照れちゃって。初心なんだから、もう」
サロメは微笑ましげに俺とアリスを見つめ、
「ただ、いちゃつくのはもう少し後にした方がよさそうだね」
告げた彼女の姿が、まるで陽炎のように揺らぎ、ぶれた。
「とりあえず──ボクはこいつを片づける」
あれは──!?
俺は、サロメの戦い方がいつもと違うことに気づいた。
暗殺術を得意とする彼女は、気配を殺して相手の死角から攻撃する戦法を取ることが多い。
だけど、今は違う。
小さなナイフ一本で、四種の武具を持つヘルズアームと正面から打ち合っているのだ。
ヘルズアームの攻撃は鋭い。
以前に戦ったときよりも、格段に。
だけど、サロメの動きはそれすらも圧倒していた。
「エルゼ式暗殺術
悪戯っぽい微笑みが、風に流れる。
「これがボクの──修業の成果よ」
サロメが優勢なのは、剣の腕によるものじゃない。
身のこなしによるものでも、ない。
まったく別の要因だ。
「き、貴様……!?」
戸惑ったようなヘルズアームの声。
さっきから魔族の攻撃が何度も空を切っていた。
サロメの動きを捕えられていない。
断続的に気配を消す彼女に、魔族はついていけないのだ。
そうか、キングリザードと戦ったときに使った技だ、と俺は気づいた。
「人間ごときが……調子に乗るな……」
ミスティックが火炎魔法で援護射撃をする。
「ひしゃげて、つぶれろ……」
さらにDイーターも圧縮魔法を放ってきた。
「させないっ」
叫ぶ俺。
魔族二体の攻撃は、いずれも虹色の輝きに阻まれて霧散した。
俺がサロメの周囲に防壁を張り巡らせたのだ。
──周囲の状況をあらためて確認する。
ルドルフさんは単身で竜と交戦中。
サロメも同じく一人でヘルズアームと戦っている。
その向こうにはミスティックとDイーターが構え、さらに後方からはブレイズサイクロプスがゆっくりと近づいてくる。
見たところ、今のサロメならヘルズアームを打ち倒すのは難しくないだろう。
他の魔族たちから邪魔されなければ──。
なら、俺たちがやることは決まっている。
「俺とアリスがサロメの援護。残りはあのデカブツを引きつけて」
アリスや他の冒険者たちに告げる俺。
「わ、分かった……頼む」
五人ほどの冒険者たちがブレイズサイクロプスの方へ向かっていった。
俺はアリスとともに、サロメに放たれる魔族の魔法をことごとくブロックする。
その間も、サロメはヘルズアームを翻弄し続けた。
そして。
「終わり、だね」
静かに告げたサロメがヘルズアームの背後に回りこんだ。
ナイフの一撃で魔族の首を
「まず一人っ」
威勢よく叫ぶサロメ。
よし、次はミスティックとDイーターを片付けるぞ。
「おのれ、人間が……!」
「我らはそやつとは違う……!」
二体の魔族が同時に攻撃魔法を撃ってきた。
ヘルズアームと違い、あいつらは遠距離攻撃専門だろう。
なら、俺のスキルで完封できる。
まず通常の防御スキルで、魔族たちの魔法を跳ね返した。
そして間髪入れずに、
──
──
スキルの種類を切り替え、二体の魔族の周囲を囲む。
「今のを防いだくらいでいい気になるな……!」
「我らの魔力は、人間とは比較にならんほど巨大……呪文の連打で押しきってやる……!」
ミスティックとDイーターがふたたび攻撃呪文を唱えた。
だけど──今度は、その攻撃が放たれることはなかった。
彼らの手に集まった黒い魔力光は、空気に溶けこむようにして消えてしまう。
魔法の発動自体を無効化するスキル、
「呪文を撃てない……!?」
「どうなっている、馬鹿な……!?」
戸惑う魔族たち。
「
今度はアリスの呪文だ。
俺の
渦巻く炎がミスティックとDイーターの全身を絡め取った。
さながら火炎の縛鎖──。
「ありがと、二人とも。あとはボクがっ」
呪文封殺と魔法による拘束──俺たちのコンビネーションで身動きを封じられた魔族たちに、サロメが突っこんでいく。
断続的に気配を消し、その姿を陽炎のようにかすませながら──。
「じゃあね、魔族たち」
冷然と振り下ろされたナイフが、二体の魔族を苦もなく切り裂いた。