11 「召喚する」

文字数 1,930文字

 ランクSの冒険者──『深緑の巫女』の二つ名を持つアリィは、二十体を超える魔族や魔獣と対峙していた。

 そのいずれもが最強と呼ばれるクラスSやそれに準ずるクラスA。
 対して、こちらの戦力はランクSが自分も含めて四人、ランクAが七人。

「ちょっと数が多すぎよね」

 ふうっとため息をつきながら、精神を集中する。

 彼女は卓越した精霊使いだ。
 たとえ最強クラスの魔獣を複数相手にしようと、そうそう後れを取るつもりはなかった。

 それに、頼もしい仲間たちもいる。

「どれだけいようと、俺が斬り伏せる」

 その一人、巨漢の剣士バルーガが飛び出した。
火炎の剣(フレイムエッジ)』という二つ名の由来──炎のように赤い大剣を振り回し、単身で突っこんでいく。

「まったく、猪突猛進も時と場合によりけりだぞ」

 呆れたようにつぶやきつつ、風の攻撃魔法でそれを援護するフェイル。

「ワシがサポートをする。ガンガン攻めればいい」

 と、僧侶の錫杖を構えたのはレットだ。
 防御や回復系の魔法を絶妙のタイミングで発動し、攻撃役(アタッカー)たちを手助けする。

「ま、守勢に回ったら一気にやられそうだものね」

 アリィも精霊を矢継ぎ早に召喚し、魔獣たちに攻撃する。

 何年もパーティを組んでいるだけあって、彼女たちの連携はまったく淀みがなかった。
 四人が一体となり、剣と魔法を繰り出し、精霊による攻撃を放ち、僧侶の魔法がそれをサポートする。

 攻防一体の完璧なコンビネーションは芸術ともいえる域に達していた。
 二十体を超える魔の者たちを相手に、互角以上に渡り合う。

(いける、これなら──)

 アリィは手ごたえを感じていた。

 決して気を抜ける相手ではない。
 だが、負ける気もしない。

 勝って、必ず生き残るのだ。



 ──鮮血とともに、バルーガの体が両断された。



「えっ……!?

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 真っ二つに断ち割られた巨漢の戦士が、その場に崩れ落ちる。

「ひ、ひいっ……!?

 さらに魔法使いのフェイルが青い光に包まれたかと思うと、氷漬けになり、砕け散る。

「がは……ぁぁぁっ……こ、これは呪術……!?

 背後を振り返れば、僧侶のレットが顔を紫色に染め、血を吐きながら倒れた。

「不甲斐ない。貴様らが強者であることを望んだが──」

「ワタシの呪術に抵抗すらできないのであるか?」

「ふひひ、殺しちゃいますねぇ」

 魔獣たちの後方に三つの影が浮かび上がった。

 黒い甲冑の騎士。
 ぼろ布をまとった影。
 鎌を肩に担いだ秀麗な少年。

(何、こいつら……!?

 三体を見た瞬間、アリィは全身の毛が逆立つようなプレッシャーを覚えた。

 並の魔族とはまるで違う。
 単純な戦闘能力だけでなく、気配そのものの──次元が違う。

「我ら六魔将が蹴散らしてくれよう。人間ども」

 三体の魔族がゆっくりと近づいてくる。

「ろく……ましょう……?」

 カラカラに乾いた声でつぶやいた。

 駄目だ。
 勝てない。

 アリィは絶望とともに悟った。

 自分はこのまま殺されるのだ、と──。

    ※

 バネッサは『移送』のスキルを使い、館まで戻ってきた。

「はあ、はあ、はあ……」

 全身の力が抜け、その場に崩れ落ちる。
 スキルを連発したせいで、さすがに精神力の消耗が激しい。

「あらら、随分と疲れちゃったみたいだね」

 歩み寄ってきたのは、黒髪の少女だ。
 セフィリアがニヤニヤ笑いながら、こちらを見下ろしている。

「誰のせいだと思っているのよ……」

 顔を上げたバネッサは憎々しげに彼女をにらんだ。

「えへへ、ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど、ごめんね」

「予知で見ていた。片はついたようだな」

 と、エレクトラがやって来る。

「ええ、誰かさんの後始末はつけたわ」

 バネッサはなおもセフィリアをにらみつつ弱々しく立ち上がった。
 いつまでも休んでいるわけにはいかない。

「やるつもりか、あれを」

 エレクトラがたずねた。

「かなり消耗しているようだが、いけるのか──?」

「タイミングは今しかないわ」

 言いながら、視界がぼやけた。

 ジャックとの戦いで、やはり思った以上に体力も集中力も失っているようだ。

 だが、それでも──。
 自らの計画と、野望のために。

(あたしは突き進む……! 世界に君臨する、絶対の覇者になるために)

 バネッサの双眸に強烈な輝きが宿った。

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