1 「国家存亡の危機ですな」
文字数 4,791文字
突然現れた魔族によって国内の都市が次々と壊滅している──。
魔導通信による速報を受け、アドニス王城の最奥で緊急対策会議が行われていた。
(アギーレシティに出現した魔族は、同都市及び近隣の都市三つを壊滅させた、か)
出席者の一人──ベネディクト・ラフィール伯爵は、先ほど受けた報告を頭の中で繰り返した。
当年とって四十五歳。
鋭いまなざしに豊かな口ひげ、精力にあふれた偉丈夫である。
ラフィールは国内外に広い人脈を持ち、宮廷内で確固たる地位を築いていた。
特に、軍事面にもそのまま転用できる魔法研究関連では、彼自身が多大な支援をしていることもあり、成果のほとんどを掌握している。
その関係で、実質的にアドニスの兵力編成のアドバイザーのような役割を担っていた。
王は軍事に関して熱心ではなく、実質的にラフィールに一任されている状態だ。
今回の魔族対策も、彼が全面的に音頭を取る格好になるだろう。
「魔族は王都を目指しているということですが……」
たずねたのは内務大臣であり、ラフィールの政敵でもあるロイドだ。
脂ぎった顔つきに禿頭 をした五十過ぎの小男だった。
「移動手段は歩行。飛行能力や空間移動のような魔法は確認されていない。このまま直進した場合、王都までの到達予想時間はおおよそ三日ほどと推定される──とのことです」
ラフィールが報告書を読み上げる。
「まさしく国家存亡の危機ですな」
小さく鼻を鳴らし、出席者を見回す。
一様に青ざめた顔、顔、顔。
残念ながら覇気のある態度を見せる者は一人もいなかった。
「三日……」
「それまでに避難すべきですかな……」
「ですが、国の中心にいる我らが真っ先に逃げるというのは体面が……」
対策会議のはずが、大半の出席者は逃げることや保身の相談しかしていない。
ラフィールは内心でため息をついた。
とはいえ、今回は彼らのようにまず逃げることを考えるほうが正解なのかもしれない。
何しろ、王都に向かっている魔族は並ではない。
報告によれば、自らを六魔将ガイラスヴリムと呼称したらしい。
(六魔将──まさか、伝説にある魔王の六人の腹心か)
一般的にはおとぎ話の類だと思われているが、実は違う。
魔将を名乗る高位魔族はここ百年ほどで、何度か現れているのだ。
まさに人知を超えた力を振るい、いくつもの国が滅ぼされた。
彼らは数日で魔界に帰っていったが、もしもそのまま世界に留まっていたら、人間の社会などすでに存在していなかっただろう。
それほどの──圧倒的な脅威。
とはいえ、相手が魔将と名乗っているだけで、本当かどうかは分からない。
それに、この百年で戦闘用の魔法技術は飛躍的に進歩した。
超常の力を持つ『因子持ち』の数も増えた。
戦力という面では、そのころと今では比べるべくもない。
(だが、それでも──魔将が圧倒的であることに変わりはない。少なくともギルドやいくつもの都市が瞬時に滅ぼされるほどには)
最強のランクS冒険者ですら立ち向かうことは困難だろう。
恥も外聞もなく、なりふり構わず近隣諸国やギルドに可能な限りの援軍を要請するか。
あるいは自前の戦力をぶつけたうえで、判断するか。
現状の危機と、それを凌いだ後の他国やギルドとの関係を考慮し、ラフィールは後者を選択した。
──こちらの戦力を集中し、最大兵力で一気に殲滅します。
──仮に相手が本当に魔将だったとしても、百年前と今では人間の戦力のレベルが違います。王都防衛は十分に可能でしょう。
ラフィールがそう提案したところ、大きな異議を唱えるものはいなかった。
ロイド辺りは噛みついてくるかと思ったが、幸いにも賛成してくれた。
さすがに王都が襲われるかもしれない、となれば内輪もめしている場合ではないと考えているようだ。
「進路上に防衛線を張りましょう。場所は──クアドラ峡谷がよいかと。魔族が現在地から直進している以上、王都に行くには必ずここを通る必要がありますからな。部隊を二つに分けて前後から挟み撃ちにすることも可能です」
ラフィールは集まった大臣たちに説明する。
「王立騎士団に部隊の選抜を急がせてください。それから冒険者ギルドにも出動依頼を。当然、ランクSを中心にです」
側に控える男に、手早く指示を出した。
「承知しました、ラフィール伯爵」
彼は軍務大臣であり、本来なら軍の責任者たる立場なのだが、まるでラフィールの部下のようだ。
魔族の目標が末端の都市ならば冒険者に任せておくが、さすがに王都を直接攻撃されるかもしれないとなれば、軍を使う必要があった。
「先ほどギルドに打診しましたが、現状で召集可能なランクS冒険者は『氷 刃 』のルカ・アバスタと『金剛結界 』のドクラティオ・フォレだけだそうです」
「二人だけですか。他のランクSは呼べないのですな?」
「いずれも他国や他の大陸に……六時間では間に合いません」
軍務大臣が申し訳なさそうに頭を下げる。
どのみち、冒険者ギルドが貴重な戦力であるランクSをそう何人も寄越してくれるはずがないか、とラフィールは内心で苦笑した。
冒険者ギルドは何かにつけ、こちらに恩を売ろうとする。
とにかく冒険者の派遣にもいちいち勿体ぶるのだ。
特にここ数年はその傾向が大きい。
大国に対して、自分たちの組織の優位性を誇示せんとばかりに。
(──いや、勿体ぶっているのはこちらも同じか)
自国の兵の損耗を少しでも抑えたい。
そのために、魔の者を討伐するときは、特定の国に属さない勢力──冒険者を使う。
彼らがどれだけ死のうと、自国の軍事力には何の痛痒もない。
そんなこちらの考えを、ギルドも見抜いているのだろう。
「ではその二人に要請を。報酬はギルドの言い値で構いません」
ラフィールが告げた。
「王立騎士団で魔族迎撃部隊の編成が終わり次第、ルカ、ドクラティオの両名と合流。設定した防衛ラインにて魔族を迎え撃ちましょう」
会議が終わり、ラフィールは一息をついた。
(さて、大変なのはこれからだ)
かつてないほどの強大な魔族の襲来──。
これを抑えれば、軍事部門の助言者たる自分の地位と名声はさらに上がる。
だが失敗すれば、権勢は地に落ち、あるいは国そのものが滅亡することさえあり得る。
(手は打てるだけ打っておきたいところだが……)
そういえば──王都に娘が来ている、と執事から報告があったことを思い出す。
アリスとリリス。
気まぐれと戯れから一夜の伽をさせた屋敷のメイドが孕み、産まれた双子だ。
魔法の才能を持っており、物好きにも二人そろって冒険者になった。
ギルドとのパイプでもできればと思ったが、ランクBでくすぶっていると聞き、すぐに興味をなくしてしまったものだ。
せめてランクSとまではいかなくても、ランクAくらいにはなってもらわないと──。
使えぬ娘たちだ、と内心で唾棄する。
(いや、待てよ)
ラフィールは口の端をわずかに吊り上げた。
娘二人を魔族との戦線に加えれば、あるいは功績として認められるのではないか。
もちろん彼女たちの力で今回の魔族を倒すことなどできないだろう。
だが、戦力の一端としてその場にいた、ということはそれだけでも功績になり得る。
仮に力及ばず殺されたところで、しょせんは妾に産ませた子。
ラフィールにとってはさしたる痛手ではない。
逆に功績を認められ、ランクAにでも昇格できれば、彼女たちのギルド内での立場も上がるだろう。
将来的に冒険者ギルドとのパイプを作るのに役立つ可能性も出てくる。
(上手くいえばもうけもの、程度だな)
ラフィールは小さく笑った。
その瞳は、今ではなくはるか先を見据えていた。
これからアドニスはもっと大きくなり、豊かに栄えていく。
魔族などというイレギュラーな存在に破壊されるわけにはいかない。
(そして──強大化したアドニスを牛耳るのは、すでに覇気を失った王などではない。この私だ)
※
「そ、そんな……ダメージすらないなんて」
試験官の男は呆然とした顔で俺を見ていた。
対する俺は涼しい顔だ。
──ルカとの戦いから三十分後、最後の模擬戦が行われた。
試験官は召喚士 ということで、モンスターや精霊を矢継ぎ早に召還しては俺に攻撃を仕掛けてきた。
モンスターによる牙や爪などの物理攻撃。
精霊が放つ炎や雷などの魔法攻撃。
そのいずれもが、俺の展開した護りの障壁 の前に弾き返され、吹き散らされていく。
俺は悠然と相手の攻撃を見守った。
絶対にダメージを受けないという自信で、気持ちにも余裕がある。
周囲に弾ける色とりどりの爆光を眺めながら、俺は今までの戦いで新たに判明したスキルの性質について、頭の中で整理していた。
──竜との戦いの後、俺は自分のスキルについて調べられる範囲で調べた。
スキルの持続時間もその一つだ。
といっても、『絶対にダメージを受けないスキル』について調べるには、基本的に自分に対して攻撃する必要がある。
平日は学校の授業もあるし、放課後だけで大がかりな装置を作れるわけでもないので、俺は主に自分で自分を殴ったり、簡単な振り子に石や木の枝をくくりつけて自分を攻撃してみたり──という方法を取っていた。
あとは高い場所から飛び降りたり、とかもあるけれど。
で、持続時間に関してはだいたい一分くらいという結果が出ていた。
ただ、疑問点も残った。
たとえば、スキルによって防げるダメージ量が決まっていると仮定して、一のダメージを受け続けても効果は一分間持続するけど、十のダメージならその十分の一──六秒しか持たないのか。
あるいはどんなダメージでも等しく一分は持続するのか。
この辺は、自分一人ではなかなか調べづらい項目だ。
だけどルカとの戦いで『どうやらダメージ量に関係なく、俺のスキルの持続時間はおおむね一分らしい』と判明した。
他にも分かったことはある。
基本形態である護りの障壁 は、いつでも他の形態──不可侵領域 や反響万華鏡 に切り替えられること。
そしてスキルの持続時間は、他の形態に切り替えてもリセットはされないことも確認できた。
ルカとの戦いでは護りの障壁 を一分近く展開した後に、反響万華鏡 に切り替えたところ、すぐに持続限界時間に達してしまったのだ。
「五分経ったか。ここまでだな」
などと考えているうちに、試験官がため息交じりに攻撃をやめた。
どうやら模擬戦の時間が終わったらしい。
これで三戦すべてが終了し、後は結果を待つだけである。
俺にとってはスキルの実地テストって意味でも有意義な模擬戦だった。
さて、俺の点数はどれくらいだったんだろうか。
三人の試験官の攻撃を完封したんだし、それなりに高得点なんじゃないかと期待している。
一発合格、といけばいいんだけど──。
※ ※ ※
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魔導通信による速報を受け、アドニス王城の最奥で緊急対策会議が行われていた。
(アギーレシティに出現した魔族は、同都市及び近隣の都市三つを壊滅させた、か)
出席者の一人──ベネディクト・ラフィール伯爵は、先ほど受けた報告を頭の中で繰り返した。
当年とって四十五歳。
鋭いまなざしに豊かな口ひげ、精力にあふれた偉丈夫である。
ラフィールは国内外に広い人脈を持ち、宮廷内で確固たる地位を築いていた。
特に、軍事面にもそのまま転用できる魔法研究関連では、彼自身が多大な支援をしていることもあり、成果のほとんどを掌握している。
その関係で、実質的にアドニスの兵力編成のアドバイザーのような役割を担っていた。
王は軍事に関して熱心ではなく、実質的にラフィールに一任されている状態だ。
今回の魔族対策も、彼が全面的に音頭を取る格好になるだろう。
「魔族は王都を目指しているということですが……」
たずねたのは内務大臣であり、ラフィールの政敵でもあるロイドだ。
脂ぎった顔つきに
「移動手段は歩行。飛行能力や空間移動のような魔法は確認されていない。このまま直進した場合、王都までの到達予想時間はおおよそ三日ほどと推定される──とのことです」
ラフィールが報告書を読み上げる。
「まさしく国家存亡の危機ですな」
小さく鼻を鳴らし、出席者を見回す。
一様に青ざめた顔、顔、顔。
残念ながら覇気のある態度を見せる者は一人もいなかった。
「三日……」
「それまでに避難すべきですかな……」
「ですが、国の中心にいる我らが真っ先に逃げるというのは体面が……」
対策会議のはずが、大半の出席者は逃げることや保身の相談しかしていない。
ラフィールは内心でため息をついた。
とはいえ、今回は彼らのようにまず逃げることを考えるほうが正解なのかもしれない。
何しろ、王都に向かっている魔族は並ではない。
報告によれば、自らを六魔将ガイラスヴリムと呼称したらしい。
(六魔将──まさか、伝説にある魔王の六人の腹心か)
一般的にはおとぎ話の類だと思われているが、実は違う。
魔将を名乗る高位魔族はここ百年ほどで、何度か現れているのだ。
まさに人知を超えた力を振るい、いくつもの国が滅ぼされた。
彼らは数日で魔界に帰っていったが、もしもそのまま世界に留まっていたら、人間の社会などすでに存在していなかっただろう。
それほどの──圧倒的な脅威。
とはいえ、相手が魔将と名乗っているだけで、本当かどうかは分からない。
それに、この百年で戦闘用の魔法技術は飛躍的に進歩した。
超常の力を持つ『因子持ち』の数も増えた。
戦力という面では、そのころと今では比べるべくもない。
(だが、それでも──魔将が圧倒的であることに変わりはない。少なくともギルドやいくつもの都市が瞬時に滅ぼされるほどには)
最強のランクS冒険者ですら立ち向かうことは困難だろう。
恥も外聞もなく、なりふり構わず近隣諸国やギルドに可能な限りの援軍を要請するか。
あるいは自前の戦力をぶつけたうえで、判断するか。
現状の危機と、それを凌いだ後の他国やギルドとの関係を考慮し、ラフィールは後者を選択した。
──こちらの戦力を集中し、最大兵力で一気に殲滅します。
──仮に相手が本当に魔将だったとしても、百年前と今では人間の戦力のレベルが違います。王都防衛は十分に可能でしょう。
ラフィールがそう提案したところ、大きな異議を唱えるものはいなかった。
ロイド辺りは噛みついてくるかと思ったが、幸いにも賛成してくれた。
さすがに王都が襲われるかもしれない、となれば内輪もめしている場合ではないと考えているようだ。
「進路上に防衛線を張りましょう。場所は──クアドラ峡谷がよいかと。魔族が現在地から直進している以上、王都に行くには必ずここを通る必要がありますからな。部隊を二つに分けて前後から挟み撃ちにすることも可能です」
ラフィールは集まった大臣たちに説明する。
「王立騎士団に部隊の選抜を急がせてください。それから冒険者ギルドにも出動依頼を。当然、ランクSを中心にです」
側に控える男に、手早く指示を出した。
「承知しました、ラフィール伯爵」
彼は軍務大臣であり、本来なら軍の責任者たる立場なのだが、まるでラフィールの部下のようだ。
魔族の目標が末端の都市ならば冒険者に任せておくが、さすがに王都を直接攻撃されるかもしれないとなれば、軍を使う必要があった。
「先ほどギルドに打診しましたが、現状で召集可能なランクS冒険者は『
「二人だけですか。他のランクSは呼べないのですな?」
「いずれも他国や他の大陸に……六時間では間に合いません」
軍務大臣が申し訳なさそうに頭を下げる。
どのみち、冒険者ギルドが貴重な戦力であるランクSをそう何人も寄越してくれるはずがないか、とラフィールは内心で苦笑した。
冒険者ギルドは何かにつけ、こちらに恩を売ろうとする。
とにかく冒険者の派遣にもいちいち勿体ぶるのだ。
特にここ数年はその傾向が大きい。
大国に対して、自分たちの組織の優位性を誇示せんとばかりに。
(──いや、勿体ぶっているのはこちらも同じか)
自国の兵の損耗を少しでも抑えたい。
そのために、魔の者を討伐するときは、特定の国に属さない勢力──冒険者を使う。
彼らがどれだけ死のうと、自国の軍事力には何の痛痒もない。
そんなこちらの考えを、ギルドも見抜いているのだろう。
「ではその二人に要請を。報酬はギルドの言い値で構いません」
ラフィールが告げた。
「王立騎士団で魔族迎撃部隊の編成が終わり次第、ルカ、ドクラティオの両名と合流。設定した防衛ラインにて魔族を迎え撃ちましょう」
会議が終わり、ラフィールは一息をついた。
(さて、大変なのはこれからだ)
かつてないほどの強大な魔族の襲来──。
これを抑えれば、軍事部門の助言者たる自分の地位と名声はさらに上がる。
だが失敗すれば、権勢は地に落ち、あるいは国そのものが滅亡することさえあり得る。
(手は打てるだけ打っておきたいところだが……)
そういえば──王都に娘が来ている、と執事から報告があったことを思い出す。
アリスとリリス。
気まぐれと戯れから一夜の伽をさせた屋敷のメイドが孕み、産まれた双子だ。
魔法の才能を持っており、物好きにも二人そろって冒険者になった。
ギルドとのパイプでもできればと思ったが、ランクBでくすぶっていると聞き、すぐに興味をなくしてしまったものだ。
せめてランクSとまではいかなくても、ランクAくらいにはなってもらわないと──。
使えぬ娘たちだ、と内心で唾棄する。
(いや、待てよ)
ラフィールは口の端をわずかに吊り上げた。
娘二人を魔族との戦線に加えれば、あるいは功績として認められるのではないか。
もちろん彼女たちの力で今回の魔族を倒すことなどできないだろう。
だが、戦力の一端としてその場にいた、ということはそれだけでも功績になり得る。
仮に力及ばず殺されたところで、しょせんは妾に産ませた子。
ラフィールにとってはさしたる痛手ではない。
逆に功績を認められ、ランクAにでも昇格できれば、彼女たちのギルド内での立場も上がるだろう。
将来的に冒険者ギルドとのパイプを作るのに役立つ可能性も出てくる。
(上手くいえばもうけもの、程度だな)
ラフィールは小さく笑った。
その瞳は、今ではなくはるか先を見据えていた。
これからアドニスはもっと大きくなり、豊かに栄えていく。
魔族などというイレギュラーな存在に破壊されるわけにはいかない。
(そして──強大化したアドニスを牛耳るのは、すでに覇気を失った王などではない。この私だ)
※
「そ、そんな……ダメージすらないなんて」
試験官の男は呆然とした顔で俺を見ていた。
対する俺は涼しい顔だ。
──ルカとの戦いから三十分後、最後の模擬戦が行われた。
試験官は
モンスターによる牙や爪などの物理攻撃。
精霊が放つ炎や雷などの魔法攻撃。
そのいずれもが、俺の展開した
俺は悠然と相手の攻撃を見守った。
絶対にダメージを受けないという自信で、気持ちにも余裕がある。
周囲に弾ける色とりどりの爆光を眺めながら、俺は今までの戦いで新たに判明したスキルの性質について、頭の中で整理していた。
──竜との戦いの後、俺は自分のスキルについて調べられる範囲で調べた。
スキルの持続時間もその一つだ。
といっても、『絶対にダメージを受けないスキル』について調べるには、基本的に自分に対して攻撃する必要がある。
平日は学校の授業もあるし、放課後だけで大がかりな装置を作れるわけでもないので、俺は主に自分で自分を殴ったり、簡単な振り子に石や木の枝をくくりつけて自分を攻撃してみたり──という方法を取っていた。
あとは高い場所から飛び降りたり、とかもあるけれど。
で、持続時間に関してはだいたい一分くらいという結果が出ていた。
ただ、疑問点も残った。
たとえば、スキルによって防げるダメージ量が決まっていると仮定して、一のダメージを受け続けても効果は一分間持続するけど、十のダメージならその十分の一──六秒しか持たないのか。
あるいはどんなダメージでも等しく一分は持続するのか。
この辺は、自分一人ではなかなか調べづらい項目だ。
だけどルカとの戦いで『どうやらダメージ量に関係なく、俺のスキルの持続時間はおおむね一分らしい』と判明した。
他にも分かったことはある。
基本形態である
そしてスキルの持続時間は、他の形態に切り替えてもリセットはされないことも確認できた。
ルカとの戦いでは
「五分経ったか。ここまでだな」
などと考えているうちに、試験官がため息交じりに攻撃をやめた。
どうやら模擬戦の時間が終わったらしい。
これで三戦すべてが終了し、後は結果を待つだけである。
俺にとってはスキルの実地テストって意味でも有意義な模擬戦だった。
さて、俺の点数はどれくらいだったんだろうか。
三人の試験官の攻撃を完封したんだし、それなりに高得点なんじゃないかと期待している。
一発合格、といけばいいんだけど──。
※ ※ ※
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