7 「格が違うみたいね」

文字数 2,150文字

「さあ、勝負よ! ラフィール姉妹!」

 エルフたちがリリスとアリスをびしっと指差した。

「勝負って言われても……」

「ですぅ……」

 リリスもアリスも困惑しているみたいだ。
 まあ、それはそうだよな。

「血気盛んでいいじゃないか。冒険者はこうでなくてはな」

 伯爵は鷹揚に笑っていた。

 だけど、その目は冷たい。

 まるで自分の娘の評判などどうでもいいと言わんばかりに。
 あるいは──自分の娘の力を見定めようとでもしているかのように。

 肉親の温かみがまるで感じられないその目に、俺は違和感と嫌悪感を抑えられなかった。

「伯爵の許しも得たということで!」

「いくわよ、ラフィール姉妹!」

「ただいま絶賛売出し中! ランクS昇格間近と話題沸騰!」

「ランクA上位の『二輪の花(フローラルツイン)』! エルフ姉妹のエフィラとラフィラとは、あたしたちのことよ!」

 姉妹が口上とともにポーズをつける。

「ランクSの方々、よろしければ次のクエストでご一緒してください!」

「してください!」

 いちいち自己アピールが過剰だなぁ……。

「いざ尋常に勝負っ」

口叫んで、剣士風のエルフが突進した。

 細剣(レイピア)をまっすぐに突き出す。
 その背後からは魔法使い風のエルフが風の攻撃呪文を放つ。

金色天鋼殻(ヘヴンズシェル)!」

 アリスの生み出した金色の防御フィールドが、相手の剣と魔法をまとめて跳ね返した。

「なっ……防御系の最上級呪文!?

 驚きの声を上げるエルフ姉妹。

「ならば、これで──精霊召喚(エルガゲート)!」

 と、二人は精霊を召喚した。
 その数は全部で五体。

 いっせいに襲いかかる精霊たちは、しかし、

烈皇雷撃破(ライトニングストライク)!」

 リリスの放った雷撃によって一瞬で消し飛ばされる。

「雷撃系の最上級呪文──そんな!?

 呆然と立ち尽くすエルフ姉妹。
 すべての攻撃を瞬時に完封され、思考停止状態なんだろう。

 一方のリリスとアリスは涼しい顔だ。

 相手もランクAとはいえ、リリスたちは格が違う。
 違いすぎる──。

「……ぐぬぬ、格が違うみたいね」

「……うぐぐ、降参よ」

 さすがに実力の違いを悟ったらしく、エルフ姉妹は唇を噛みしめてうなった。

「名を上げるチャンスだったのに……」

「のに……」

 さっきまでの威勢もどこへやら、すごすごと引き上げていく。

「あ、でも気が向いたら、あたしたちをクエストに誘ってくださいね、ランクSの方々!」

 ……最後まで自己アピールは忘れないらしい。
 めげないエルフたちだ。
 と、

「ち、ちょっと君たち、こんなに強かったの!?

 驚いたようなアリィさんがリリスとアリスの元に駆け寄った。

「なるほど、ランクA相応の──いや、それ以上の力を持っているわけだな」

「確かに強い……! どうやら君らを偏見で見ていたようだ」

 剣士のバルーガさんと魔法使いのフェイルさんが素直に頭を下げる。

「さっきも言ったが、大規模クエストの際には共闘することもあり得る。どうかよろしく頼む」

 二人が声をそろえて告げる。

「いえ、あたしたちはそんな」

「ですぅ。お気になさらずに」

 リリスとアリスは恐縮しているようだ。

「強くて美人で、おまけに実力も兼ね備えているなんて最高ねっ。せっかく知り合えたんだし、これからも仲良くしましょっ」

 はしゃぐアリィさん。

「そ、そんな、美人だなんて……アリィさんこそ」

「ええ、素敵です」

「え、ホント? ふふ、大人の女っぽい感じ、出てるかなー? アレイシアの帝都で流行ってるメイクなの」

 微笑むアリィさんとリリスたちの間で、たちまち女子トークが始まる。
 女性同士ということもあってか、打ち解けているようだ。

「伝説の六魔将と戦ったんだろ? しかも二度も。どんな戦いだったんだよ?」

「公式記録には詳しく書かれてなかったが、噂じゃ二回とも活躍したそうじゃないか。興味深い……俺もぜひ聞きたいな」

 俺は俺で、バルーガさんやフェイルさんに質問攻めだ。

「ふむ、神のご加護を受けているのかもしれんな」

 僧侶らしい台詞をつぶやくレットさん。

 まあ、実際に神の加護を受けているといえば、いえる……のかな?
 ともあれ、俺たちはそれぞれ友好的な雰囲気で歓談を続ける。

「盛り上がっているようだね。君を呼んでよかったよ、ハルトくん」

 ラフィール伯爵が嬉しそうに笑った。

「彼はいずれランクSまで上がる人材だろう。アリスもリリスも支えてやってくれ。頼むぞ」

「はい、お父様」

 二人はどこか硬い口調でうなずいた。

「では──すまないが、少しハルトくんをお借りしてもいいかな?」

 伯爵の笑みが深まった。

 一見、友好的な笑顔だけど──何か違う。
 背筋がゾクリとするような雰囲気があった。

 一瞬だけど、俺は見たんだ。

 友好的な笑みを浮かべる前に見せた──口の端を歪めるような、含みのある笑みを。

 いかにも何かを企んでいそうな、目の光を。
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