12 「永遠に」
文字数 1,765文字
天界──。
一つの星雲に匹敵するほど広大な、純白の空間。
そこは神々の間だ。
まばゆく輝く光の柱が一本、また一本と現れる。
やがて七つの光柱が等間隔に並んだ。
護りを司る女神──イルファリアはその柱の一つに宿り、他の六本の柱を見回す。
こうやって天界の中心たる七神がすべて召集されるのは珍しいことだ。
よほどの事態が起きている、という証でもあった。
「聖天使たちからの報告だ。空間震動の頻度が急激に増えている、と」
光の柱の中から声が聞こえる。
七柱の神々のリーダー格ともいえる至高神ガレーザの声である。
「百年ほど前から、人間界と魔界を繋ぐ通路──『黒幻洞 』がふたたび開かれるようになり、魔の者が人の世界に出没するようになった。それは諸君も承知の通りだ。だがその頻度は月に数回程度。最近は──いくらなんでも多すぎる」
「自然現象的に開く通路以外にも、魔王の力で同様の通路を開くことは可能と聞いているぞ」
神の一人が言った。
「限度がある。それに──頻繁に開けば、あの者に目を付けられよう」
「では、なぜ?」
別の神がたずねる。
「神の力が介在しているようだ。ゼガリア。それにアーダ・エル。お前たちの」
「私たちの?」
「我が力が……?」
ざわめく二柱の神々。
「我らは人に神の力を与えた。その力を持って、空間を操る者が出現した」
ガレーザがうなった。
「魔の者か、それとも人間か。あるいは彼らが結託しているのか」
神々の意図とは違う方向で、人間が力を振るおうとしている──。
(いえ、あるいはそれさえもガレーザの意図したものなのかしら)
イルファリアは内心でつぶやく。
それから他の六柱の神々──正確には神々が宿る光柱──を見渡し、
「その時が近づいているのかもしれませんね」
微笑みを浮かべた。
喜びとも、切なさともつかない思いを胸に。
「人が、我らの庇護下から離れるときが」
「ふん、人が神に頼らず己の力のみで歩んでいく……と? 未熟な人間たちに、そのような日々は訪れぬよ」
ガレーザが鼻を鳴らした。
「永遠に、な」
「どうでしょうか? 永遠を生きる我らには分からないことかもしれません。刹那の時を生きる彼らが自らを成長させていく速度は──」
「人を買いかぶりすぎだ、イルファリア」
護りの女神の言葉に、至高神が不快げな口調を返す。
そのとき、周囲を激しい震動が襲った。
「空間震動か……我らの居城にまで到達するとは」
「人の世界と魔の世界への通路が開こうとしているわ」
ガレーザの言葉に『移送』を司る天翼の女神 が告げた。
「通常ではありえないほどの数と頻度で、ね」
「魔の力の気配はない……やはり、スキル保持者 の仕業のようだ」
ガレーザがつぶやいた。
「人為的に『黒幻洞 』を開く術を手に入れたか、人間め……」
「世界中に魔の者があふれ返る可能性がありますね」
「そうなれば、世界は破滅する」
「人間が死に絶え、信仰の力が消えれば、我らも弱体化を免れない」
神々の声は苦い。
人間たちに自らの力の一部を与えたのは、それなりの思惑があってのこと。
だが、この使い方は想定外だった。
人は神を畏れ、敬うものだという固定観念があっただけに──。
「人間が神々を巻きこみ、何かを起こそうとするとは。なんと罰当たりな」
「案ずることはない」
ガレーザが他の神々をなだめる。
「すべては神の手のひらの上。人間たちには、せいぜい踊らせておけばよい」
(人を軽んじ過ぎではないかしら、ガレーザは)
イルファリアは内心でつぶやいた。
(それに『もう一つの現象』には気づいているの?)
地上に現れた魔の者たちは、以前よりも強大化しているようだ。
イルファリアが自らの力を分け与えた少年──ハルト・リーヴァを通じて、彼女はそれを感じ取っていた。
まず間違いなく、魔族の側にもなんらかの動きがあるのだろう。
神々の策動と魔の策動。
そして、人の策動。
すべてが絡み合い、大いなる聖戦がついに訪れる──。
一つの星雲に匹敵するほど広大な、純白の空間。
そこは神々の間だ。
まばゆく輝く光の柱が一本、また一本と現れる。
やがて七つの光柱が等間隔に並んだ。
護りを司る女神──イルファリアはその柱の一つに宿り、他の六本の柱を見回す。
こうやって天界の中心たる七神がすべて召集されるのは珍しいことだ。
よほどの事態が起きている、という証でもあった。
「聖天使たちからの報告だ。空間震動の頻度が急激に増えている、と」
光の柱の中から声が聞こえる。
七柱の神々のリーダー格ともいえる至高神ガレーザの声である。
「百年ほど前から、人間界と魔界を繋ぐ通路──『
「自然現象的に開く通路以外にも、魔王の力で同様の通路を開くことは可能と聞いているぞ」
神の一人が言った。
「限度がある。それに──頻繁に開けば、あの者に目を付けられよう」
「では、なぜ?」
別の神がたずねる。
「神の力が介在しているようだ。ゼガリア。それにアーダ・エル。お前たちの」
「私たちの?」
「我が力が……?」
ざわめく二柱の神々。
「我らは人に神の力を与えた。その力を持って、空間を操る者が出現した」
ガレーザがうなった。
「魔の者か、それとも人間か。あるいは彼らが結託しているのか」
神々の意図とは違う方向で、人間が力を振るおうとしている──。
(いえ、あるいはそれさえもガレーザの意図したものなのかしら)
イルファリアは内心でつぶやく。
それから他の六柱の神々──正確には神々が宿る光柱──を見渡し、
「その時が近づいているのかもしれませんね」
微笑みを浮かべた。
喜びとも、切なさともつかない思いを胸に。
「人が、我らの庇護下から離れるときが」
「ふん、人が神に頼らず己の力のみで歩んでいく……と? 未熟な人間たちに、そのような日々は訪れぬよ」
ガレーザが鼻を鳴らした。
「永遠に、な」
「どうでしょうか? 永遠を生きる我らには分からないことかもしれません。刹那の時を生きる彼らが自らを成長させていく速度は──」
「人を買いかぶりすぎだ、イルファリア」
護りの女神の言葉に、至高神が不快げな口調を返す。
そのとき、周囲を激しい震動が襲った。
「空間震動か……我らの居城にまで到達するとは」
「人の世界と魔の世界への通路が開こうとしているわ」
ガレーザの言葉に『移送』を司る
「通常ではありえないほどの数と頻度で、ね」
「魔の力の気配はない……やはり、スキル
ガレーザがつぶやいた。
「人為的に『
「世界中に魔の者があふれ返る可能性がありますね」
「そうなれば、世界は破滅する」
「人間が死に絶え、信仰の力が消えれば、我らも弱体化を免れない」
神々の声は苦い。
人間たちに自らの力の一部を与えたのは、それなりの思惑があってのこと。
だが、この使い方は想定外だった。
人は神を畏れ、敬うものだという固定観念があっただけに──。
「人間が神々を巻きこみ、何かを起こそうとするとは。なんと罰当たりな」
「案ずることはない」
ガレーザが他の神々をなだめる。
「すべては神の手のひらの上。人間たちには、せいぜい踊らせておけばよい」
(人を軽んじ過ぎではないかしら、ガレーザは)
イルファリアは内心でつぶやいた。
(それに『もう一つの現象』には気づいているの?)
地上に現れた魔の者たちは、以前よりも強大化しているようだ。
イルファリアが自らの力を分け与えた少年──ハルト・リーヴァを通じて、彼女はそれを感じ取っていた。
まず間違いなく、魔族の側にもなんらかの動きがあるのだろう。
神々の策動と魔の策動。
そして、人の策動。
すべてが絡み合い、大いなる聖戦がついに訪れる──。