12 「心に刻ませてもらう」

文字数 1,456文字

 グリードは七つの首を揺らし、ルカを見た。

「ルカ。お前は戦神竜覇剣(フォルスグリード)の力の引き出し方を会得した。後は実戦の中で磨き上げることだ。お前だけの使い方を」

「あなたから教わったことは忘れないわ」

 古竜の言葉にうなずくルカ。
 クールな表情は相変わらずだけど、その顔には充実感みたいなものがあった。

「サロメ。お前に教えた『因子』の使い方は、まだ先がある。それはお前自身にしかたどり着けぬ道だ」

「うん、やり方さえ分かれば、後はボクが自分で見つけるよ。ありがとね」

 サロメがにっこりと笑う。

「強くなって、やらなきゃいけないこともあるし……ね。えへへ」

 と、つぶやく。

 さっきの戦意で見せた、暗い殺意はすでに引っこんでいるみたいだ。
 いつもの、彼女の笑顔だった。

「そして──」

 最後に、グリードが俺を見る。

「これを持っていけ、ハルト」

 七つの口のうちの一つが開き、何かが落ちてくる。
 長さ三十セルテ(三十センチ)程度の白い塊。

「これは──」

 古竜がくれるんなら、何かすごいアイテムなんだろうか。

「ただの牙の欠片だ」

 が、グリードの言葉はそっけなかった。

「不思議な効果とか、すごい威力があったりとか……?」

「ない」

 断言だった。

「それはお前と戦った記念だ。『牙を送る』というのは、竜族にとって最上級の敬意を示す行為──よければ受け取ってくれないか」

「ありがとう。大切にするよ」

 敬意をこめて受け取ることにした。

「俺からも渡せるものはないかな……」

 考えたものの、適当なものが思い浮かばない。

「こんなものなら……」

 護身用兼サバイバル用のナイフを差し出した。

「武具は戦士の魂だ。こちらも敬意を持って受け取ろう。感謝する」

 ……いや、そんな大層なものじゃないけど。

 俺が差し出したナイフは光に包まれ、グリードの眼前まで浮かび上がった。
 たぶん、あれも竜魔法(ドラゴンズロア)なんだろう。

「楽しかったぞ。お前たちの名は俺の心に刻ませてもらう。強き人間たちよ」

 グリードが満足げにうなった。
 その体から淡い燐光が放たれる。

 一瞬、視界が暗転したかと思うと、部屋は元通りに修復されていた。
 まるで、さっきの戦いなどなかったかのように。

「超高レベルの修復魔法……!? すごい」

 サロメがつぶやいた。

 じゃあ、これも竜魔法(ドラゴンズロア)なのか。
 色々できるんだな、古竜って……。

「では、俺もふたたび戻るとしよう」

 言うなり、グリードの体が薄れる。

 次の瞬間には、部屋の中央に据え付けられた水槽の中に戻っていた。
 最初に出会ったときと、同じように。

「……ありがとう、グリード」

 俺は心から感謝した。

 正直、殺されるかと思ったけれど。
 いや、実際殺すつもりで向かってきていたんだろうけど。

 でもグリードとの戦いを通じて、俺は新たな力を得ることができた。

 すべてのスキルを同時に発現できる、黄金の空間。
 無敵の、領域。

 ……とはいえ、俺自身への負担が強すぎるから、その辺りの改善は必要だろう。

「俺はただ楽しんだだけだ。お前たちが力を得たのは、お前たち自身の心に依るもの。礼など不要」

 水槽の中から古竜の声が響く。

「俺はまた眠るとしよう。いつかまた、お前たちのように選ばれた力を持つ者が、ここを訪れる日まで──」
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