5 「封じさせてもらった」
文字数 3,193文字
「現れたわね、魔族!」
元気よく前に飛び出したのは、アイヴィだ。
「人間か……」
「恐怖せよ……それが、我らの糧になる……」
二体の魔族が笑う。
魔の者は、人間の恐怖や苦しみなどの『負の感情』をエネルギー源にするという。
基本的に、こいつらが人間を襲うのは恐れさせ、その感情エネルギーを餌として食らうためなのだ。
「お姉さま、ここはあたしが! ハルト・リーヴァ、あなたも手出しは無用ですっ!」
叫んだアイヴィが鞭を構えた。
繰り出した鞭がうなり、戦士型の魔族『ヘルズアーム』に叩きつけられる。
いきなりの先制攻撃だった。
さらに──、
「火焔撃 !」
声とともに、鞭の先端から猛烈な勢いで火炎が噴き出した。
「ぐうっ……!」
たまりかねたように後退するヘルズアーム。
「どう? あたしの鞭は炎を発する特別製よ」
得意絶頂の様子で、アイヴィが胸を張る。
今の火炎は魔法攻撃ってわけじゃなく、武器自体の特殊効果らしい。
「こざかしい。我が魔法で消えるがいい──」
魔法使い型の魔族『ミスティック』が右手の杖を振りかざした。
「撃たせないわっ!」
彼女の左手から投げナイフが飛ぶ。
放たれたナイフは全部で、五本。
それらすべてが狙いあやまたず、ミスティックの胸元に吸いこまれた。
「うう、ぐっ……」
先ほどのヘルズアーム同様、ミスティックも苦鳴を上げて後退する。
さらに鞭を、ナイフを、立て続けに繰り出し、放ち──二体の魔族を追いこんでいく。
「爆熱の連撃 ・一の型 ──あたしがもっとも得意とするコンビネーションよ」
アイヴィが得意げに胸を張った。
「強い──」
「アイヴィの主戦法は鞭と投げナイフによる連続攻撃。中距離からの戦いでは一流の戦士よ。近距離の間合いを苦手としているのが課題だけれど」
ルカが解説する。
「──って、加勢しなくていいのかよ、ルカ」
「いざとなれば。だけど、無用な加勢は彼女が望まない」
と、ルカ。
「アイヴィが志向するものは、強さ。誰よりも強くありたいという気持ちが、彼女の根幹。私と同じく戦いに生きる人間。だから──不必要に手助けをしても、成長の妨げになる」
相変わらずの淡々とした口調だけど、その言葉にはルカなりの思いがこもっているみたいだった。
「調子に乗るなよ、女っ!」
今度は戦士型のヘルズアームが突進してきた。
「非力な貴様など接近戦に持ちこめば──」
「いいえ、持ちこませないっ」
アイヴィは鞭や投げナイフで牽制するものの、ヘルズアームの突進力は強烈だった。
四種の武器を続けざまに打ちこみ、鞭を、ナイフを次々と弾く。
四本の腕を利した連続攻撃は手数も多く、一撃一撃が重い。
さらに後方からは魔法使い型のミスティックが断続的に魔法を撃って、ヘルズアームを援護してくる。
「くっ……うう……!」
二体の連携にアイヴィはじりじりと間合いを詰められていった。
得意とする中距離から、苦手である近距離の間合いへと──。
「アイヴィ──」
手出し無用と言われたけど、やっぱり加勢したほうがよさそうだ。
俺はスキルを飛ばすスキル──『宝珠の飛翔 』を発動しようと構え、
「二対一は荷が重いみたいね。私が出るわ」
ルカがそれを制して、突進した。
まさしく神速で距離を詰め、アイヴィの前まで行く。
「お姉さま……あたしは、まだ」
「無理は禁物」
ルカはアイヴィに告げると、間近に迫ったヘルズアームの長剣を、短剣を、槍を、斧を──長剣『戦神竜覇剣 』で続けざまにさばいた。
「こ、こいつっ……!?」
驚きの声を上げる魔族。
「ハルトはいざというときの守りをお願い」
ルカは魔族と対峙したまま告げた。
「ああ、任せろ」
彼女が卓越した騎士であることは、よく分かっている。
近接戦闘は任せていいだろう。
俺は魔法防御や攻撃の流れ弾の被害を抑えることに専念しよう。
「この俺の四連撃をしのいだ、だと」
「あなたの攻撃は重い。だけどスピードが足りない」
ルカがふたたび疾走する。
残像が生み出されるほどの超速でヘルズアームの攻撃をかいくぐり、長剣を閃かせる。
「がっ!?」
青い鮮血がしぶいた。
胸元を切り裂かれて後退するヘルズアーム。
ルカは容赦なく、さらに追撃する。
一閃、二閃──繰り出した剣が魔族を切り裂き、青い血の花を咲かせた。
「なんだと!? どんどん速くなる──」
慌てる魔族に、ルカは確実に斬撃を当て、ダメージを重ねていく。
「ちっ、ならばこれでぇっ!」
後方に控えていたミスティックが杖を振るった。
その先端から飛び出した火球がルカに向かう。
ヘルズアームとの戦いに気を取られている、彼女に──。
「お姉さま!」
アイヴィが悲鳴を上げた。
──飛べ。
俺は即座に念じて、火球に向かってスキルを飛ばした。
第五の形態、宝珠の飛翔 。
虹色の光球が魔族の火球に命中し、大きく弾き飛ばした。
……まあ、ルカなら俺がわざわざ防がなくても、自力でどうにかしそうだけど。
フォローするに越したことはない。
「護りの女神の紋章 だと……!?」
「貴様は一体──」
驚く二体の魔族。
その一瞬の動揺が、勝負を分けた。
「よそ見をしていていいのかしら?」
ルカがすかさず間合いを詰める。
戦神竜覇剣 が白銀の軌跡を描く。
「ぐあっ……」
ヘルズアームは脳天から真っ二つに両断された。
これで残るはミスティックだけだ。
「す、すごい……じゃなかった! あたしだって──」
負けじと、アイヴィが鞭を振るった。
「助けてもらってばかりじゃいられない! お姉さまにいいところを見せるんだからっ!火焔撃 !」
その先端が炎を発して叩きつけられる。
「ちいっ!」
ミスティックは氷の防壁を作り、それを防いだ。
「俺はそう易々とはやられん!」
反撃の魔力弾をアイヴィに放つ。
バックステップでそれを避ける彼女だが、
「まだだぞ、人間──」
ミスティックがほくそ笑んだ。
魔力弾は空中で軌道を変えて、なおもアイヴィへと向かったのだ。
「追尾弾 タイプ!? しまっ──」
バックステップで体勢が崩れた彼女は避けきれない。
魔力弾が直撃し──、
バチィッ!
まばゆい火花とともに、あっさりと跳ね返される。
直前に俺がスキルを飛ばし、アイヴィの体を護りの障壁 で覆ったのだ。
「大丈夫か、アイヴィ」
「……た、助かり……ました」
青ざめた顔で俺を振り返るアイヴィ。
「おのれ、どこまでも邪魔を──」
魔族が怒りの声を上げた。
「小技を受け止めたくらいでいい気になるなよ! この辺り一帯を吹き飛ばしてくれよう!」
杖を振り上げて叫ぶ。
今度は広範囲爆発タイプの魔法を放つ気か。
「さあ、消えろ──」
振り下ろした杖から爆雷が周囲に広がり──。
それだけだった。
「な、何っ……!?」
「封じさせてもらった。魔法そのものを」
すでに俺の意志により、アイヴィの体を覆っていた輝きは半径五十メティルほどにまで広がっている。
第二の形態、不可侵領域 。
魔法の発動自体を無効化するスキルだ。
元気よく前に飛び出したのは、アイヴィだ。
「人間か……」
「恐怖せよ……それが、我らの糧になる……」
二体の魔族が笑う。
魔の者は、人間の恐怖や苦しみなどの『負の感情』をエネルギー源にするという。
基本的に、こいつらが人間を襲うのは恐れさせ、その感情エネルギーを餌として食らうためなのだ。
「お姉さま、ここはあたしが! ハルト・リーヴァ、あなたも手出しは無用ですっ!」
叫んだアイヴィが鞭を構えた。
繰り出した鞭がうなり、戦士型の魔族『ヘルズアーム』に叩きつけられる。
いきなりの先制攻撃だった。
さらに──、
「
声とともに、鞭の先端から猛烈な勢いで火炎が噴き出した。
「ぐうっ……!」
たまりかねたように後退するヘルズアーム。
「どう? あたしの鞭は炎を発する特別製よ」
得意絶頂の様子で、アイヴィが胸を張る。
今の火炎は魔法攻撃ってわけじゃなく、武器自体の特殊効果らしい。
「こざかしい。我が魔法で消えるがいい──」
魔法使い型の魔族『ミスティック』が右手の杖を振りかざした。
「撃たせないわっ!」
彼女の左手から投げナイフが飛ぶ。
放たれたナイフは全部で、五本。
それらすべてが狙いあやまたず、ミスティックの胸元に吸いこまれた。
「うう、ぐっ……」
先ほどのヘルズアーム同様、ミスティックも苦鳴を上げて後退する。
さらに鞭を、ナイフを、立て続けに繰り出し、放ち──二体の魔族を追いこんでいく。
「
アイヴィが得意げに胸を張った。
「強い──」
「アイヴィの主戦法は鞭と投げナイフによる連続攻撃。中距離からの戦いでは一流の戦士よ。近距離の間合いを苦手としているのが課題だけれど」
ルカが解説する。
「──って、加勢しなくていいのかよ、ルカ」
「いざとなれば。だけど、無用な加勢は彼女が望まない」
と、ルカ。
「アイヴィが志向するものは、強さ。誰よりも強くありたいという気持ちが、彼女の根幹。私と同じく戦いに生きる人間。だから──不必要に手助けをしても、成長の妨げになる」
相変わらずの淡々とした口調だけど、その言葉にはルカなりの思いがこもっているみたいだった。
「調子に乗るなよ、女っ!」
今度は戦士型のヘルズアームが突進してきた。
「非力な貴様など接近戦に持ちこめば──」
「いいえ、持ちこませないっ」
アイヴィは鞭や投げナイフで牽制するものの、ヘルズアームの突進力は強烈だった。
四種の武器を続けざまに打ちこみ、鞭を、ナイフを次々と弾く。
四本の腕を利した連続攻撃は手数も多く、一撃一撃が重い。
さらに後方からは魔法使い型のミスティックが断続的に魔法を撃って、ヘルズアームを援護してくる。
「くっ……うう……!」
二体の連携にアイヴィはじりじりと間合いを詰められていった。
得意とする中距離から、苦手である近距離の間合いへと──。
「アイヴィ──」
手出し無用と言われたけど、やっぱり加勢したほうがよさそうだ。
俺はスキルを飛ばすスキル──『
「二対一は荷が重いみたいね。私が出るわ」
ルカがそれを制して、突進した。
まさしく神速で距離を詰め、アイヴィの前まで行く。
「お姉さま……あたしは、まだ」
「無理は禁物」
ルカはアイヴィに告げると、間近に迫ったヘルズアームの長剣を、短剣を、槍を、斧を──長剣『
「こ、こいつっ……!?」
驚きの声を上げる魔族。
「ハルトはいざというときの守りをお願い」
ルカは魔族と対峙したまま告げた。
「ああ、任せろ」
彼女が卓越した騎士であることは、よく分かっている。
近接戦闘は任せていいだろう。
俺は魔法防御や攻撃の流れ弾の被害を抑えることに専念しよう。
「この俺の四連撃をしのいだ、だと」
「あなたの攻撃は重い。だけどスピードが足りない」
ルカがふたたび疾走する。
残像が生み出されるほどの超速でヘルズアームの攻撃をかいくぐり、長剣を閃かせる。
「がっ!?」
青い鮮血がしぶいた。
胸元を切り裂かれて後退するヘルズアーム。
ルカは容赦なく、さらに追撃する。
一閃、二閃──繰り出した剣が魔族を切り裂き、青い血の花を咲かせた。
「なんだと!? どんどん速くなる──」
慌てる魔族に、ルカは確実に斬撃を当て、ダメージを重ねていく。
「ちっ、ならばこれでぇっ!」
後方に控えていたミスティックが杖を振るった。
その先端から飛び出した火球がルカに向かう。
ヘルズアームとの戦いに気を取られている、彼女に──。
「お姉さま!」
アイヴィが悲鳴を上げた。
──飛べ。
俺は即座に念じて、火球に向かってスキルを飛ばした。
第五の形態、
虹色の光球が魔族の火球に命中し、大きく弾き飛ばした。
……まあ、ルカなら俺がわざわざ防がなくても、自力でどうにかしそうだけど。
フォローするに越したことはない。
「
「貴様は一体──」
驚く二体の魔族。
その一瞬の動揺が、勝負を分けた。
「よそ見をしていていいのかしら?」
ルカがすかさず間合いを詰める。
「ぐあっ……」
ヘルズアームは脳天から真っ二つに両断された。
これで残るはミスティックだけだ。
「す、すごい……じゃなかった! あたしだって──」
負けじと、アイヴィが鞭を振るった。
「助けてもらってばかりじゃいられない! お姉さまにいいところを見せるんだからっ!
その先端が炎を発して叩きつけられる。
「ちいっ!」
ミスティックは氷の防壁を作り、それを防いだ。
「俺はそう易々とはやられん!」
反撃の魔力弾をアイヴィに放つ。
バックステップでそれを避ける彼女だが、
「まだだぞ、人間──」
ミスティックがほくそ笑んだ。
魔力弾は空中で軌道を変えて、なおもアイヴィへと向かったのだ。
「
バックステップで体勢が崩れた彼女は避けきれない。
魔力弾が直撃し──、
バチィッ!
まばゆい火花とともに、あっさりと跳ね返される。
直前に俺がスキルを飛ばし、アイヴィの体を
「大丈夫か、アイヴィ」
「……た、助かり……ました」
青ざめた顔で俺を振り返るアイヴィ。
「おのれ、どこまでも邪魔を──」
魔族が怒りの声を上げた。
「小技を受け止めたくらいでいい気になるなよ! この辺り一帯を吹き飛ばしてくれよう!」
杖を振り上げて叫ぶ。
今度は広範囲爆発タイプの魔法を放つ気か。
「さあ、消えろ──」
振り下ろした杖から爆雷が周囲に広がり──。
それだけだった。
「な、何っ……!?」
「封じさせてもらった。魔法そのものを」
すでに俺の意志により、アイヴィの体を覆っていた輝きは半径五十メティルほどにまで広がっている。
第二の形態、
魔法の発動自体を無効化するスキルだ。