6 「今、やるしかない」
文字数 2,783文字
「あたしたちは世界に君臨する力がある。それを同士討ちで潰しあうなんて愚かなことよ」
バネッサさんがため息をついた。
世界に君臨うんぬんはともかくとして、確かに愚かなことだ。
俺たちが戦うべき相手は、同じスキル保持者 じゃない。
人に仇なす魔の者たちのはずなのに……。
だから、リリスもアリスも守ってみせる。
「たとえ、愚かな同士討ちをすることになったとしても」
俺はジャックさんを見据えた。
「殺させない。俺が──!」
意志の高まりとともに、俺の眼前に翼を広げた天使を思わせる紋様が浮かび上がる。
『護りの女神の紋章 』──スキル保持者の持つ紋様が。
いや、俺だけじゃない。
見れば、ジャックさんやバネッサさんの体にも、それぞれの神の紋様が浮かんでいた。
「それぞれのスキルが共鳴している……!?」
つぶやくバネッサさん。
神の力は共鳴し合う。
その共鳴によって、俺たちのスキルはさらに強さを増す。
今までに何度も体感した現象だ。
ただし、今はそれが悪い方向に傾く気がしてならなかった。
俺のスキルは強くなるかもしれないけど、それはジャックさんも同じだろう。
より強大になった彼を止めるために、一体どうすればいいのか──。
虚空への封印 だけで最後まで完封できるのか。
背筋に嫌な予感が走り抜ける。
「があっ!」
ジャックさんが短く吠えて、俺に拳を叩きつけた。
だけど、その一撃は羽毛に撫でられたほどの衝撃すらない。
竜戦士の全身を覆う虹色のオーラ……虚空への封印 が完全に破壊力をゼロにしているからだ。
「やはり、効かない……!? それなら……!」
ジャックさんは隣のバネッサさんに蹴りを繰り出す。
当然これもノーダメージ。
「……俺の攻撃力そのものが無になっているわけか……」
「そうだ、気持ちが落ち着くまで誰もいない場所に行ってくれないか」
俺はふと思いついて言った。
「その間に、ジャックさんの状態を元に戻す方法を考えるから──」
「無理……だな」
ジャックさんは冷然と告げる。
「それに、お前のスキルを破る方法を……思いついた」
言うなり、竜戦士の姿が消えた。
いや、これは視認できないレベルの高速移動──!
でも、ジャックさんの攻撃力は封じられている。
たとえ超スピードで幻惑しようと、誰も傷つけることはできないはず、
「解けたぞ、ハルト……!」
一瞬の後、眼前に現れたジャックさんの体からは虹色のオーラが──虚空への封印 の輝きが消えていた。
「ど、どうして……!?」
俺のスキルが解除されている。
そんな馬鹿な……!
「両足の加速力を最大限まで『強化』して、お前から距離を取った。スキルの効果範囲から逃れられる距離まで……そして超速で戻ってきた……」
淡々と告げるジャックさん。
しまった、その手があったか──。
「終わりだ」
──形態変化 。
──護りの障壁 。
俺はとっさに、自分たちの周囲に防壁を生み出した。
仲間を含めて全員を守れる範囲で防御スキルを張る。
ジャックさんにもう一度、虚空への封印 をかけようかとも思ったが、超スピードで避けられたら終わりだ。
直後、がいん、と金属質な音が鳴り、眼前で虹色のスパークが弾けた。
まさに間一髪、ジャックさんの拳打を俺のスキルが防いだのだ。
「……埒があかないみたいね」
俺の側でバネッサさんが息をついた。
「天翼転移 」
つぶやき、リリスとアリスに向かって手を伸ばす。
「えっ……!?」
二人の戸惑いの声が重なった。
次の瞬間、彼女たちは虹色のドーム──護りの障壁 の防壁の外に出現している。
スキルを使って、転移させたのか!?
「な、何をやっているんだ!」
俺は慌ててスキルを調整して、二人を防壁の範囲内に包み直す。
「天翼転移 」
と思った瞬間、ふたたび彼女たちは別の場所に転移させられた。
「ジャックさんが暴走しているのは、魔を宿した杖を持つ彼女たちでしょう? 差し出すから好きに殺しなさい」
「やめろ!」
俺は慌ててバネッサさんに詰め寄った。
「あら、これが一番手っ取り早い解決じゃない」
彼女は動じない。
「あたしたちスキル保持者 は誰も傷つかずに済む。来たるべき大いなる戦いに備えて、貴重な戦力を温存する──そのためなら、小娘二人の犠牲くらい安いものでしょう」
「ふざけるなっ!」
俺はもう一度防壁を変形させ、リリスとアリスを範囲内に入れ直そうとする。
と、
「ふふ。駄目よ、これ以上は」
背後からバネッサさんが抱きついてきた。
柔らかくてしなやかな体が俺に密着している。
「そろそろ精神力 が尽きるから、これで最後の移送にするわ。あたしたちだけ、この場から離れましょう?」
駄目だ──。
俺は絶望する。
防御スキルで防ぐことができるのは『攻撃』だけだ。
バネッサさんのように直接攻撃じゃないスキルは防ぐことも無効化することもできない。
このまま違う場所まで移動させられたら、残されたリリスたちは全員殺されるかもしれない。
いや、今の暴走状態のジャックさんを見ていれば、この場にいる者はみんな死ぬだろう。
嫌だ。
リリスたちが殺されるなんて。
かけがえのない彼女たちを失うなんて。
絶対に。
絶対に──!
「今、やるしかない……!」
決意が、みなぎる。
バネッサさんのスキルが発動する、次の一瞬までに。
俺が、なんとかするんだ──!
突然、目の前に純白の空間が広がった。
「これは──」
眼前には真っ白い神殿がそびえている。
以前にも何度か現れたことがあった。
俺の心の核。
その象徴たる、神殿だ。
※ ※ ※
いよいよ本日(7月2日)にKラノベブックス様より、書籍版1巻が発売されました。特に初週の売り上げが重要になりますので、2巻、3巻と続けていくためにも、ぜひ応援よろしくお願いします~!
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バネッサさんがため息をついた。
世界に君臨うんぬんはともかくとして、確かに愚かなことだ。
俺たちが戦うべき相手は、同じスキル
人に仇なす魔の者たちのはずなのに……。
だから、リリスもアリスも守ってみせる。
「たとえ、愚かな同士討ちをすることになったとしても」
俺はジャックさんを見据えた。
「殺させない。俺が──!」
意志の高まりとともに、俺の眼前に翼を広げた天使を思わせる紋様が浮かび上がる。
『
いや、俺だけじゃない。
見れば、ジャックさんやバネッサさんの体にも、それぞれの神の紋様が浮かんでいた。
「それぞれのスキルが共鳴している……!?」
つぶやくバネッサさん。
神の力は共鳴し合う。
その共鳴によって、俺たちのスキルはさらに強さを増す。
今までに何度も体感した現象だ。
ただし、今はそれが悪い方向に傾く気がしてならなかった。
俺のスキルは強くなるかもしれないけど、それはジャックさんも同じだろう。
より強大になった彼を止めるために、一体どうすればいいのか──。
背筋に嫌な予感が走り抜ける。
「があっ!」
ジャックさんが短く吠えて、俺に拳を叩きつけた。
だけど、その一撃は羽毛に撫でられたほどの衝撃すらない。
竜戦士の全身を覆う虹色のオーラ……
「やはり、効かない……!? それなら……!」
ジャックさんは隣のバネッサさんに蹴りを繰り出す。
当然これもノーダメージ。
「……俺の攻撃力そのものが無になっているわけか……」
「そうだ、気持ちが落ち着くまで誰もいない場所に行ってくれないか」
俺はふと思いついて言った。
「その間に、ジャックさんの状態を元に戻す方法を考えるから──」
「無理……だな」
ジャックさんは冷然と告げる。
「それに、お前のスキルを破る方法を……思いついた」
言うなり、竜戦士の姿が消えた。
いや、これは視認できないレベルの高速移動──!
でも、ジャックさんの攻撃力は封じられている。
たとえ超スピードで幻惑しようと、誰も傷つけることはできないはず、
「解けたぞ、ハルト……!」
一瞬の後、眼前に現れたジャックさんの体からは虹色のオーラが──
「ど、どうして……!?」
俺のスキルが解除されている。
そんな馬鹿な……!
「両足の加速力を最大限まで『強化』して、お前から距離を取った。スキルの効果範囲から逃れられる距離まで……そして超速で戻ってきた……」
淡々と告げるジャックさん。
しまった、その手があったか──。
「終わりだ」
──
──
俺はとっさに、自分たちの周囲に防壁を生み出した。
仲間を含めて全員を守れる範囲で防御スキルを張る。
ジャックさんにもう一度、
直後、がいん、と金属質な音が鳴り、眼前で虹色のスパークが弾けた。
まさに間一髪、ジャックさんの拳打を俺のスキルが防いだのだ。
「……埒があかないみたいね」
俺の側でバネッサさんが息をついた。
「
つぶやき、リリスとアリスに向かって手を伸ばす。
「えっ……!?」
二人の戸惑いの声が重なった。
次の瞬間、彼女たちは虹色のドーム──
スキルを使って、転移させたのか!?
「な、何をやっているんだ!」
俺は慌ててスキルを調整して、二人を防壁の範囲内に包み直す。
「
と思った瞬間、ふたたび彼女たちは別の場所に転移させられた。
「ジャックさんが暴走しているのは、魔を宿した杖を持つ彼女たちでしょう? 差し出すから好きに殺しなさい」
「やめろ!」
俺は慌ててバネッサさんに詰め寄った。
「あら、これが一番手っ取り早い解決じゃない」
彼女は動じない。
「あたしたちスキル
「ふざけるなっ!」
俺はもう一度防壁を変形させ、リリスとアリスを範囲内に入れ直そうとする。
と、
「ふふ。駄目よ、これ以上は」
背後からバネッサさんが抱きついてきた。
柔らかくてしなやかな体が俺に密着している。
「そろそろ
駄目だ──。
俺は絶望する。
防御スキルで防ぐことができるのは『攻撃』だけだ。
バネッサさんのように直接攻撃じゃないスキルは防ぐことも無効化することもできない。
このまま違う場所まで移動させられたら、残されたリリスたちは全員殺されるかもしれない。
いや、今の暴走状態のジャックさんを見ていれば、この場にいる者はみんな死ぬだろう。
嫌だ。
リリスたちが殺されるなんて。
かけがえのない彼女たちを失うなんて。
絶対に。
絶対に──!
「今、やるしかない……!」
決意が、みなぎる。
バネッサさんのスキルが発動する、次の一瞬までに。
俺が、なんとかするんだ──!
突然、目の前に純白の空間が広がった。
「これは──」
眼前には真っ白い神殿がそびえている。
以前にも何度か現れたことがあった。
俺の心の核。
その象徴たる、神殿だ。
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