2 「すごかったでしょ?」
文字数 2,717文字
長剣を構えたルカが、巨大な蜥蜴の魔物と対峙していた。
二体のキングリザードを倒し、残りは一体だ。
「今までのわずかな動きで分かった。このキングリザードは通常の個体よりもパワーもスピードも数段上」
つぶやくルカの雰囲気が、いつもと違う、
彼女の背中を見ているだけで、強烈な安心感が湧き上がるのだ。
ルカがいれば、この戦いは大丈夫だ──と。
そんな安心感を。
「ハルトたちは下がっていて。後は私がやるわ」
一人で大丈夫なのか、と聞く必要はなかった。
ルカがやるというなら、その自信があるはずだ。
「頼んだ」
俺は彼女を信頼し、不測の事態に備えて、いつでもスキルでフォローできるように集中を高めた。
「光双瞬滅形態 」
鎧を外し、アンダーウェア姿になったルカは、長剣を双剣へと変形させた。
同時に、その姿が光と化す。
戦神竜覇剣 によって速力を爆発的に高め、亜光速の動きを体現したのだ。
閃光となったルカが、キングリザードに突進する。
迎撃のブレスが、爪が、尾が、次々と繰り出される。
「炎刃剛滅形態 」
ルカはすかさず双剣を大剣へと変形させ、赤く輝く斬撃でそれらを弾き返す。
今度は破壊力重視の形態で、キングリザードの膂力に対抗したか。
その後も、ルカは手にした戦神竜覇剣 を双剣モードや大剣モードにめまぐるしく変形させながら、キングリザードを翻弄する。
ぐるるるるおおおおおおおおんっ!
光の軌跡を残し、赤い輝きを放ち、斬撃を繰り返すルカに魔獣は苛立ったような声を上げた。
巨大な斧を大きく振りかぶる。
「戦場において怒りにとらわれ、理性をなくすのは下の下──隙だらけよ」
声が、響く。
キングリザードの首筋から。
まるで空間から溶け出たように、褐色の踊り子がそこに立っていた。
「──エルゼ式暗殺術隠密 歩 法 『竜瞬伊吹 』」
静かに告げたのは、サロメだ。
風が、長い紫色の髪をたなびかせる。
「気配を完全に断った私 を捕える術はない──さよなら、蜥蜴さん」
冷たく言い放ったサロメが、ナイフを振り下ろす。
青い鮮血がしぶき、キングリザードは倒れ伏した。
ふわり、とサロメは軽やかな身のこなしで地面に降り立った。
まるで羽でもはいるかのような身軽さだ。
「横取りしてごめんね、ルカ。私も、修業の成果を試したかったから」
彼女も──以前とはどこか違う。
何か新しい技でも身に付けてきたんだろうか。
さっき使ったのは、魔将ガイラスヴリム戦で見せた気配を殺して攻撃する歩法みたいだけど……。
「二人とも強くなってるな」
「修業、したから」
言いながら、ルカは頬を赤らめた。
「あなたの側で……た、戦うために」
あれ、照れてる?
「ボクもボクも。えへへ、すごかったでしょ?」
いつもの口調に戻ったサロメがにっこり笑って、俺の腕にしがみつく。
豊かな胸がむにゅうっと押しつけられた。
「あ、どさくさに紛れてハルトにくっついてる!」
「じゃあ、リリスもくっついたら?」
叫んだリリスにサロメがふふんと笑う。
「むー……じ、じゃあ、あたしだってっ」
いや、そこで対抗心を燃やす必要はないんじゃないか?
ツッコもうとしたところで、リリスが小さく「えいっ」と叫んで、サロメとは反対側から俺の腕にしがみついてきた。
こっちも柔らかくて弾力のある感触が二の腕に当たる。
こ、これはいい……!
両サイドから美少女二人のおっぱいを押しつけられて、なんだか全身が蕩けそうだ。
「……デレデレしてる」
ルカがなぜか眉を寄せていた。
「……デレデレしてますぅ」
アリスもなぜか眉を寄せていた。
俺はリリス、アリス、ルカ、サロメとともに冒険者ギルドの本部へやって来た。
さすがにすべての冒険者ギルドを束ねる本部だけあって、支部と比べても一段と立派な建物である。
王都のギルド支部もすごく豪華な造りだと思ったけど、ここは完全に桁が違う。
たぶん、下手な国の王城よりもはるかに荘厳で、巨大で、お金もかかってそうだ。
「すごい建物だな……」
「あたしも初めて見た」
「私もです~」
俺とリリス、アリスはそろって圧倒されていた。
「ボクは何度か来たことがあるよ。一階の食堂のごはんがすごく美味しいんだよっ」
嬉しそうに説明するサロメ。
「後で食べにいかなきゃ」
「よだれが垂れているわよ、サロメ」
「えへへ、つい……じゅるり」
ルカの指摘に口元をぬぐうサロメ。
──広いホールには、すでに数十人の冒険者が集まっていた。
「これだけ大規模なクエストは初めてらしいぞ」
「ああ、ランクSも二十人近くくるらしい」
「確か、噂に聞くランクSの三強も──」
などと、冒険者たちが話している。
「ランクAも呼ばれてる、ってことは……もしかしてアイヴィやダルトンさんも来るのかな?」
アイヴィは、ルカの妹分のような勝気な女戦士。
ダルトンさんは、俺がギルドの入会審査を受けたときの試験官だ。
ともにランクAの実力者だった。
「アイヴィは遠方の国までクエストに出向いているから、今回は辞退するそうよ。ダルトンも入会審査やアドニスでのクエストなどで手がふさがっていて辞退するとか」
ルカが説明した。
「じゃあ、二人は来ないのか」
「これだけ猛者たちが集まれば、どんなクエストでも平気平気」
あっけらかんと言ったのはサロメだ。
「猛者……か」
確かに周囲は強そうな人たちばかりだ。
しかも、これからまだ大勢の冒険者たちが加わってくるはず。
初めて体験する大人数での──大規模クエスト。
緊張感が込み上げてくる。
と、
「お、おい、あれって──」
「見たことがあるぞ。確か三強の……」
冒険者たちが前方でざわめいている。
そっちに視線を向けると、一人の男がいた。
身長二メティルを超える堂々たる体躯。
燃えるような真紅の全身鎧 。
「あの人は──」
見ただけでゾクリと全身が粟立つような感覚。
「『天槍 』の二つ名を持つルドルフ・ライガ」
ルカが告げた。
「ランクS冒険者の中でも三強と呼ばれる戦士よ」
二体のキングリザードを倒し、残りは一体だ。
「今までのわずかな動きで分かった。このキングリザードは通常の個体よりもパワーもスピードも数段上」
つぶやくルカの雰囲気が、いつもと違う、
彼女の背中を見ているだけで、強烈な安心感が湧き上がるのだ。
ルカがいれば、この戦いは大丈夫だ──と。
そんな安心感を。
「ハルトたちは下がっていて。後は私がやるわ」
一人で大丈夫なのか、と聞く必要はなかった。
ルカがやるというなら、その自信があるはずだ。
「頼んだ」
俺は彼女を信頼し、不測の事態に備えて、いつでもスキルでフォローできるように集中を高めた。
「
鎧を外し、アンダーウェア姿になったルカは、長剣を双剣へと変形させた。
同時に、その姿が光と化す。
閃光となったルカが、キングリザードに突進する。
迎撃のブレスが、爪が、尾が、次々と繰り出される。
「
ルカはすかさず双剣を大剣へと変形させ、赤く輝く斬撃でそれらを弾き返す。
今度は破壊力重視の形態で、キングリザードの膂力に対抗したか。
その後も、ルカは手にした
ぐるるるるおおおおおおおおんっ!
光の軌跡を残し、赤い輝きを放ち、斬撃を繰り返すルカに魔獣は苛立ったような声を上げた。
巨大な斧を大きく振りかぶる。
「戦場において怒りにとらわれ、理性をなくすのは下の下──隙だらけよ」
声が、響く。
キングリザードの首筋から。
まるで空間から溶け出たように、褐色の踊り子がそこに立っていた。
「──エルゼ式暗殺術
静かに告げたのは、サロメだ。
風が、長い紫色の髪をたなびかせる。
「気配を完全に断った
冷たく言い放ったサロメが、ナイフを振り下ろす。
青い鮮血がしぶき、キングリザードは倒れ伏した。
ふわり、とサロメは軽やかな身のこなしで地面に降り立った。
まるで羽でもはいるかのような身軽さだ。
「横取りしてごめんね、ルカ。私も、修業の成果を試したかったから」
彼女も──以前とはどこか違う。
何か新しい技でも身に付けてきたんだろうか。
さっき使ったのは、魔将ガイラスヴリム戦で見せた気配を殺して攻撃する歩法みたいだけど……。
「二人とも強くなってるな」
「修業、したから」
言いながら、ルカは頬を赤らめた。
「あなたの側で……た、戦うために」
あれ、照れてる?
「ボクもボクも。えへへ、すごかったでしょ?」
いつもの口調に戻ったサロメがにっこり笑って、俺の腕にしがみつく。
豊かな胸がむにゅうっと押しつけられた。
「あ、どさくさに紛れてハルトにくっついてる!」
「じゃあ、リリスもくっついたら?」
叫んだリリスにサロメがふふんと笑う。
「むー……じ、じゃあ、あたしだってっ」
いや、そこで対抗心を燃やす必要はないんじゃないか?
ツッコもうとしたところで、リリスが小さく「えいっ」と叫んで、サロメとは反対側から俺の腕にしがみついてきた。
こっちも柔らかくて弾力のある感触が二の腕に当たる。
こ、これはいい……!
両サイドから美少女二人のおっぱいを押しつけられて、なんだか全身が蕩けそうだ。
「……デレデレしてる」
ルカがなぜか眉を寄せていた。
「……デレデレしてますぅ」
アリスもなぜか眉を寄せていた。
俺はリリス、アリス、ルカ、サロメとともに冒険者ギルドの本部へやって来た。
さすがにすべての冒険者ギルドを束ねる本部だけあって、支部と比べても一段と立派な建物である。
王都のギルド支部もすごく豪華な造りだと思ったけど、ここは完全に桁が違う。
たぶん、下手な国の王城よりもはるかに荘厳で、巨大で、お金もかかってそうだ。
「すごい建物だな……」
「あたしも初めて見た」
「私もです~」
俺とリリス、アリスはそろって圧倒されていた。
「ボクは何度か来たことがあるよ。一階の食堂のごはんがすごく美味しいんだよっ」
嬉しそうに説明するサロメ。
「後で食べにいかなきゃ」
「よだれが垂れているわよ、サロメ」
「えへへ、つい……じゅるり」
ルカの指摘に口元をぬぐうサロメ。
──広いホールには、すでに数十人の冒険者が集まっていた。
「これだけ大規模なクエストは初めてらしいぞ」
「ああ、ランクSも二十人近くくるらしい」
「確か、噂に聞くランクSの三強も──」
などと、冒険者たちが話している。
「ランクAも呼ばれてる、ってことは……もしかしてアイヴィやダルトンさんも来るのかな?」
アイヴィは、ルカの妹分のような勝気な女戦士。
ダルトンさんは、俺がギルドの入会審査を受けたときの試験官だ。
ともにランクAの実力者だった。
「アイヴィは遠方の国までクエストに出向いているから、今回は辞退するそうよ。ダルトンも入会審査やアドニスでのクエストなどで手がふさがっていて辞退するとか」
ルカが説明した。
「じゃあ、二人は来ないのか」
「これだけ猛者たちが集まれば、どんなクエストでも平気平気」
あっけらかんと言ったのはサロメだ。
「猛者……か」
確かに周囲は強そうな人たちばかりだ。
しかも、これからまだ大勢の冒険者たちが加わってくるはず。
初めて体験する大人数での──大規模クエスト。
緊張感が込み上げてくる。
と、
「お、おい、あれって──」
「見たことがあるぞ。確か三強の……」
冒険者たちが前方でざわめいている。
そっちに視線を向けると、一人の男がいた。
身長二メティルを超える堂々たる体躯。
燃えるような真紅の
「あの人は──」
見ただけでゾクリと全身が粟立つような感覚。
「『
ルカが告げた。
「ランクS冒険者の中でも三強と呼ばれる戦士よ」