第二十話 薄珂と立珂の出生

文字数 967文字

 薄珂は立珂を抱えたまま座って弁当を広げた。腸詰を食べさせてやり、おいしいー、と喜ぶ姿もまた愛しい。
 もぐもぐと頬張る立珂を撫でながら、ううん、と少し首を傾げた。

「俺は母さんが他所で作った子供で立珂は実子だって言ったんだ。でも変じゃない? 浮気して消えた女の子供引き取って、二年後に再会して子供作って引き取ってまた別れたってことだよ。そんなことある?」
「……ちょっとないな」
「それに僕って父さんと全然似てないの。でも父さんと薄珂は似てる」
「じゃあ立珂は生まれた時は母親と暮らしてたのか?」
「覚えてない。僕を育ててくれたの薄珂だもん」
「薄珂? 親父さんじゃなくてか?」
「だって食事はいっつも薄珂が食べさせてくれてたし、寝るのも薄珂と一緒だし、水浴びするのも薄珂と一緒だし、いつも薄珂が抱っこしてくれてたし」
「なんか親父さん可哀そうだな……」
「もちろん仲良しだったよ。でも育ててくれたの誰って聞かれたら薄珂って答える」

 話がややこしくなり、全員がええと、と考え込んでしまった。
 何の広がりもなく明るくもならない話をして悪かったなと思い、薄珂はそうだ、と話題を変えた。

「孔雀先生この前里に行ってきたって聞いたけどほんと?」
「ああ。蛍宮への移住を提案してもらったんだが断られたとさ」
「そっか。まあ、離れがたいのも人里が怖いのも分かるよ」
「はーい! 今度みんなで遊びに行こう! 蛍宮いいとこだよって教えてあげよう!」
「そうですね。みんなで説得すれば気が変わるかもしれませんし」
「公佗児についても聞いてみた方がいいな。薄珂自身に関わることだ」
「そうね。本当のお父さんのことも知ってるかも知れないわよね」
「んー。でも会いたいってわけじゃないし。俺は立珂がいればそれだけで幸せだ」
「僕も薄珂と一緒でしあわせだよ」

 立珂はまた頬ずりをしてくれて、薄珂も嬉しくてぐりぐりと顔を押し付ける。
 そのまま地面に転がると、立珂はきゃあきゃあと嬉しそうに笑って薄珂に抱き着いた。
 二人を見た天藍はくすっと笑い、そっと頭を撫でてくれた。

「まったく。仲良くて羨ましいことだ」
「あっかんべー」

 立珂は勝ち誇った顔で天藍の手をしっしっと追い返す。
 ぐぬっと天藍は拳を震わせた。それを見ると少し嬉しかったけれど、薄珂は腕の中にある立珂の温かさを確かめるように強く抱きしめた。
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