第三十六話 広がる立珂の人気
文字数 2,027文字
蛍宮には色々な店や仕事がある。客商売だったり学舎だったり、役所などもある。
だが薄珂と立珂が日常生活で関わるのは露店と隊商くらいで、建物の中に入っている店や役所に関わることはない。
自宅のある南区から出ることはあまりないが、最近は立珂が街で過ごすことにも慣れてきたので少しずつ行動範囲は広がっている。
最も抵抗がないのは獣人保護区だ。皇太子の来賓ではなく『孔雀様のご友人』ということでみんなよくしてくれるので安心感もあり、保護区にある孔雀の出張診療所へ足を運ぶことも増えていた。
「孔雀せんせー!」
「おはようございます。おや、立珂くんは珍しい物を食べてますね」
「水飴! 昨日朝市でみっけたの」
「来る途中の屋台でも売ってたんだ」
「でも昨日のはもっときらきらしてた。宝石みたいだったの」
「南区はお金持ちが多いですからね。良い物が多いんです」
立珂は水飴がとても気に入ったようで、似たような物を見つけたので買ってやったのだ。
終始にこにこと笑顔で、やはり新しいものに触れるのは正解だった。
「そういえば、最近保護区で亮漣くんをよく見かけますよ」
「先生に会いに?」
「獣人はみんな孔雀先生に会いたいもんね」
「それはどうだか分かりませんが、東の伝承に詳しくて天然石の意味を教えてくれているんです」
「へー。そうなんだ」
「一緒に行ってみませんか? 女の子たちが立珂くんがお洒落だから紹介してほしいと頼まれてるんです」
「お洒落!? 行く!」
「よし。じゃあ広場に行くか」
そんな話をして広場へ出た。特に何をするでもなく獣人達が集い好きに過ごしている。
その中から一人、手を振りながら駆け寄ってくる少年がいた。
「おーい! 薄珂!」
「亮漣!」
「よかった! 会ったら礼言おうと思ってたんだ。もう天然石売れまくり!」
「それは孔雀先生効果だよ」
「そりゃあまあな。なんたって孔雀先生は英雄だ!」
孔雀先生、という言葉を聞きつけた獣人たちはすぐにざわつき集まり始めた。日を追うごとに孔雀の人気は上がっていて、もはや教祖のように崇める者もいる。
しかしその輪に入れず、遠巻きにじいっと立珂を見つめる少女がいた。
もじもじしているばかりだったので、孔雀がにこりと微笑み声を掛けた。
「立珂くんとお喋りしたいんですか?」
「あ、あの……あのぅ……」
「なあに?」
「……そ、その、かみのけ結んでるの……」
「これ? あ、欲しいの?」
「あ、う、うぅ……」
立珂はもともと髪型にはこだわりがなかった。暑ければ結うし寒ければ結わない。その程度だ。
けれどお洒落を覚えて服を楽しむようになってからは髪型にもこだわるようになっていた。美星が色々な髪型にしてくれるので、自分でもやるようになっている。
今日は横で一つ結びにしているが、留めているのは侍女と一緒に作った髪紐だ。天然石を使っているので目に留まったのだろう。
「立珂。作り方を教えてあげたらどうだ?」
「そうだね! うん! 僕ねえ、お裁縫道具持ち歩いてるんだよ」
「さすが立珂くん。じゃああちらで一緒にやりましょう。いらっしゃい」
「う、うん!」
少女は孔雀に手を引かれ、広場に設置されている机に向かった。
薄珂も立珂と亮漣を連れて向かい、背嚢から立珂の裁縫道具と多種多様な生地、それから天然石を取り出した。
「色んなのがある!」
「きれいでしょ。石は穴があいてるのも売ってるんだよ。そしたら紐に通して飾りにして、それを髪紐にくっつけるんだ」
「うわぁ……!」
「布をくっつけても可愛いよ。宮廷の侍女さんはみんなこうしてるよ」
「宮廷の!? おんなじがいい!」
「じゃあ布を選ぼう! 何色がいい?」
最初は立珂に針を持たせるのに不安があった。
けれど美星や侍女と話してお洒落を学ぶうちに、立珂は自分で作りたいをしたいと言い出したのだ。それは自立したいと思い響玄に商売を習い始めた薄珂と同じ成長で、ならばそれをもっと楽しくできるようにしてやろうと決めた。
ならばどこでも遊べるように天然石と端切れを持ち歩くのが良いだろうと美星が提案してくれた。だから薄珂の背嚢にはいつでも立珂の着替えとお洒落道具が入っている。
少女は次第に熱量も高くなり、そのはしゃぐ声に他の子供も集まってきた。
以前なら怯えて引き下がっていた立珂だが、今日は日との和の中心で楽しそうに盛り上がっている。人と話すことにも慣れ、こうして交流もできるようになった。立珂が好きなことを教えてやるだけで回りも楽しくいられるならこんなに良いことはない。
子供達もすっかり立珂と打ち解けて、いつもは何してるの、と色々な会話で盛りあがり始めた。
「ねーねー。りっかちゃんは鳥獣人なの?」
「僕は有翼人だよ。飛べないの」
「そっかあ。じゃあ違うね」
「何が?」
「あ、あれだろ! 殿下が鳥獣人を隠してるってやつ!」
「「「鳥獣人?」」」
亮漣が急に身を乗り出して目を輝かせた。これには薄珂と立珂、孔雀も思わず同時に声を上げざるを得なかった。
だが薄珂と立珂が日常生活で関わるのは露店と隊商くらいで、建物の中に入っている店や役所に関わることはない。
自宅のある南区から出ることはあまりないが、最近は立珂が街で過ごすことにも慣れてきたので少しずつ行動範囲は広がっている。
最も抵抗がないのは獣人保護区だ。皇太子の来賓ではなく『孔雀様のご友人』ということでみんなよくしてくれるので安心感もあり、保護区にある孔雀の出張診療所へ足を運ぶことも増えていた。
「孔雀せんせー!」
「おはようございます。おや、立珂くんは珍しい物を食べてますね」
「水飴! 昨日朝市でみっけたの」
「来る途中の屋台でも売ってたんだ」
「でも昨日のはもっときらきらしてた。宝石みたいだったの」
「南区はお金持ちが多いですからね。良い物が多いんです」
立珂は水飴がとても気に入ったようで、似たような物を見つけたので買ってやったのだ。
終始にこにこと笑顔で、やはり新しいものに触れるのは正解だった。
「そういえば、最近保護区で亮漣くんをよく見かけますよ」
「先生に会いに?」
「獣人はみんな孔雀先生に会いたいもんね」
「それはどうだか分かりませんが、東の伝承に詳しくて天然石の意味を教えてくれているんです」
「へー。そうなんだ」
「一緒に行ってみませんか? 女の子たちが立珂くんがお洒落だから紹介してほしいと頼まれてるんです」
「お洒落!? 行く!」
「よし。じゃあ広場に行くか」
そんな話をして広場へ出た。特に何をするでもなく獣人達が集い好きに過ごしている。
その中から一人、手を振りながら駆け寄ってくる少年がいた。
「おーい! 薄珂!」
「亮漣!」
「よかった! 会ったら礼言おうと思ってたんだ。もう天然石売れまくり!」
「それは孔雀先生効果だよ」
「そりゃあまあな。なんたって孔雀先生は英雄だ!」
孔雀先生、という言葉を聞きつけた獣人たちはすぐにざわつき集まり始めた。日を追うごとに孔雀の人気は上がっていて、もはや教祖のように崇める者もいる。
しかしその輪に入れず、遠巻きにじいっと立珂を見つめる少女がいた。
もじもじしているばかりだったので、孔雀がにこりと微笑み声を掛けた。
「立珂くんとお喋りしたいんですか?」
「あ、あの……あのぅ……」
「なあに?」
「……そ、その、かみのけ結んでるの……」
「これ? あ、欲しいの?」
「あ、う、うぅ……」
立珂はもともと髪型にはこだわりがなかった。暑ければ結うし寒ければ結わない。その程度だ。
けれどお洒落を覚えて服を楽しむようになってからは髪型にもこだわるようになっていた。美星が色々な髪型にしてくれるので、自分でもやるようになっている。
今日は横で一つ結びにしているが、留めているのは侍女と一緒に作った髪紐だ。天然石を使っているので目に留まったのだろう。
「立珂。作り方を教えてあげたらどうだ?」
「そうだね! うん! 僕ねえ、お裁縫道具持ち歩いてるんだよ」
「さすが立珂くん。じゃああちらで一緒にやりましょう。いらっしゃい」
「う、うん!」
少女は孔雀に手を引かれ、広場に設置されている机に向かった。
薄珂も立珂と亮漣を連れて向かい、背嚢から立珂の裁縫道具と多種多様な生地、それから天然石を取り出した。
「色んなのがある!」
「きれいでしょ。石は穴があいてるのも売ってるんだよ。そしたら紐に通して飾りにして、それを髪紐にくっつけるんだ」
「うわぁ……!」
「布をくっつけても可愛いよ。宮廷の侍女さんはみんなこうしてるよ」
「宮廷の!? おんなじがいい!」
「じゃあ布を選ぼう! 何色がいい?」
最初は立珂に針を持たせるのに不安があった。
けれど美星や侍女と話してお洒落を学ぶうちに、立珂は自分で作りたいをしたいと言い出したのだ。それは自立したいと思い響玄に商売を習い始めた薄珂と同じ成長で、ならばそれをもっと楽しくできるようにしてやろうと決めた。
ならばどこでも遊べるように天然石と端切れを持ち歩くのが良いだろうと美星が提案してくれた。だから薄珂の背嚢にはいつでも立珂の着替えとお洒落道具が入っている。
少女は次第に熱量も高くなり、そのはしゃぐ声に他の子供も集まってきた。
以前なら怯えて引き下がっていた立珂だが、今日は日との和の中心で楽しそうに盛り上がっている。人と話すことにも慣れ、こうして交流もできるようになった。立珂が好きなことを教えてやるだけで回りも楽しくいられるならこんなに良いことはない。
子供達もすっかり立珂と打ち解けて、いつもは何してるの、と色々な会話で盛りあがり始めた。
「ねーねー。りっかちゃんは鳥獣人なの?」
「僕は有翼人だよ。飛べないの」
「そっかあ。じゃあ違うね」
「何が?」
「あ、あれだろ! 殿下が鳥獣人を隠してるってやつ!」
「「「鳥獣人?」」」
亮漣が急に身を乗り出して目を輝かせた。これには薄珂と立珂、孔雀も思わず同時に声を上げざるを得なかった。