第二十七話 新生立珂

文字数 1,969文字

「有翼人のお医者さん!?」
 薄珂と立珂はぐりんと孔雀を見ると、孔雀はくすっと小さく笑って大きく頷いた。
「立珂君の羽を小さくして下さるそうですよ」
「ほっほっほ。これほど見事だと惜しい気もするね」
「惜しくない! どうしたらいいの!? ぼくがんばるから教えて!」
「ほ? 頑張ることなんかありゃしませんよ。ちょっと失礼」
 芳明は立珂の羽にずぼっと手を突っ込むと、わさわさと掻き分け何かを探しているようだった。なかなか見つからないようで、ちょいとごめんよ、と自分まで羽に入ってしまう。
「お、おじいちゃん。大丈夫?」
「おお、あったあった。ふんっ」
「ふやぁぁぁ!」
「立珂!? 立――……わああ!」
 芳明が何かしたようで、立珂は叫んで薄珂にしがみ付いた。震える立珂を抱きとめたが、しかし薄珂の目線は立珂の羽に釘付けになっていた。
「ぞわぞわするぅ」
「お、おい、立珂。見てみろ」
「う?」
 薄珂と立珂は一緒に床を見た。そこは一面立珂の羽根だった。しかし背中に生えている物では無い。背中からごっそり抜け落ちた羽根だった。立珂は目を丸くして首を傾げた。
「……ぼく病気?」
「普通だよ。有翼人の羽は一本が連なってるんだね。大元を抜けば一斉に抜ける」
「え、あの、これが普通なの?」
「普通だね。大きくなる前に間引くもんだが、親が有翼人じゃないと知らん子が多いね。これは誰かがやってやらんといけないね」
「薄珂ぁ」
「俺やる」
「よしよし。付け根を触ってごらん。ぷっくりしてるとこがある」
「ぷっくり……?」
 薄珂は芳明と同じように立珂の羽に腕を突っ込み掻き分けた。根元の辺りをさすっていくと、くすぐったいのか立珂はきゃあと身をよじった。じゃれるようにしながら探すと、薄珂の指先がぷくりとした物に辿り着いた。
「あ、あった」
「そうそう。そこのを抜く。抜いてみい」
「まってー! またぞわぞわする!?」
「するね。お前さん随分ため込んでるから」
「うう~……」
「抜くぞ、立珂」
「うん……」
 立珂は違和感に身構えて、薄珂はえいっと一枚引き抜いた。するとずるんと一列丸ごと抜け落ちていく。
「ひゃああああ!」
「立珂! 大丈夫か!」
「我慢せえ。歩けない方が困るだろうに」
「う!」
 言われて立珂はしゃきっと背を伸ばし。ぐっと拳を握りした。
「薄珂ぬいて! どんどんぬいて!」
「あ、ああ。これどのくらい抜くもの?」
「好きなだけ。抜けるとこ全部抜いたら儂くらいになるよ」
「でも血液みたいに無くなりすぎると困るんじゃないの?」
「それは嘘だ」
「は?」
「しょうがないだろ。抜き放題なんて密売し放題だ。ああ言っとけば抜かないだろ」
「あそっか」
「けど一度抜くとまた生やすのが大変だ。売るなら多めに残した方が良いね」
「お金になるんだっけ」
「んにゃっ! 腸詰買う!」
 立珂は両手を上げて万歳をした。お金を欲しいと思った事は無かったけれど、お洒落を満喫するならそれなりに必要になるだろう。
「とりあえず歩ける程度にしよう。下から抜いた方がいいかな」
「いや全体的にしんしゃい。下だけ抜いたら上に重心が偏り歩きにくい」
「じゃあ二段重なってるところを抜くのがいい?」
「そうそう。形が変わらないように抜くと美人さんのまんまだ」
「難しいな……」
「最近は有翼人の羽専門美容室があるよ」
「そ、そんなのあるの」
 薄珂は羽の中をごそごそと探り、ここだな、と目星を付けると一気に引き抜いていく。その度に薄珂はひゃあと身震いさせたが、なんとか堪えてひとしきり抜き終わった。すると――
「か、かる~い!」
「立珂、ちょっと立ってみろ。長さ見よう」
「うん!」
 立珂は慶真に支えられ立ち上がろうとしたが、今までと同じくらいの力を込めてしまったのか、こけっとつんのめった。それも予想したのか、慶真はぽすんと立珂を抱き留めてくれる。
「……立つのってこんなかんたんなんだね」
「ほっほっほっ。最初は力加減が分からんだろうから傍にいる人は気をつけてあげて」
「うん。立珂には俺が」
「立珂! 俺が歩き方教えてやる!」
「え?」
「安心しろ、立珂! 俺が守ってやるから大丈夫だぞ!」
 薄珂と立珂の間に入ってきたのは慶都だ。立珂もわあと喜んで抱き着いてしまい、一瞬にして立珂を奪われた薄珂の手は行き場を失った。大人たちはくすくすと笑い、天藍はぽんぽんと薄珂の頭を叩いた。
「取られたな」
「お、おれ、俺が立珂の世話する……」
「薄珂君はそろそろ弟離れの時期ですねえ」
「嫌だ! 立珂は俺の立珂だ!」
 薄珂は大人げなく慶都から立珂を奪い返し、俺が世話するんだ、と慶都を威嚇した。けれど慶都も譲らず、俺が世話する、と喚いている。当の立珂はきゃっきゃと笑っていて、今度はその笑顔をどちらが一人占めするかの争いになった。
 この争いは幼い慶都の体力が先に尽きて眠ったことでやっと幕を引いたのだった。
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