第十八話 立珂の成長

文字数 1,541文字

 今日は薄珂と立珂の家に人が集まっている。天藍と慶都一家だ。
 立珂が家から少し離れたところにお気に入りの場所を見つけたので、お弁当を持ってみんなでお出かけしようとなったのだ。

「薄珂。腸詰入れてね、腸詰」
「もちろん。いっぱい入れたから安心しろ」
「辛いの?」
「普通のも辛いのも」

 やったあ、と立珂は満面の笑みで万歳をした。
 よしよしと頭を撫でてやると抱っこをねだられ、薄珂は弁当片手にいつも通り立珂を抱き上げた。
 はしゃぐ立珂に案内され、到着したのはぽっかりと何も無い場所だった。周辺は雑草だらけだというのにそこだけ土がむき出しになっていて、木も切り倒されている。

「ここだよ! ここが最近お気に入りなんだ!」
「里に似てる!」
「でしょー!」

 実は、これは孔雀と芳明の提案を元に響玄が作ってくれた場所だった。
 初めて羽のくすみを経験して以来、立珂は今まで以上に薄珂にぺったりくっつくようになっていた。
 芳明が言うには、羽のくすみは子供のうちに経験して回復方法は自分で見付けるらしい。およそ五歳くらいまでに終えているらしいが、立珂はつい最近初めて経験したのだ。
 その他にも十歳までには済ませていることも未経験である場合も多く、少し不安定になっているらしい。
 ならば慣れ親しんだ場所と同じ環境があった方が心が休まるのではというので、里の広場と似たような形にしてくれたのだ。
 しかしわざわざ作ったとなると立珂が気に病むかもしれないので、過去に開拓しようと手を付けたがほったらかした場所がある――ということにした。
 立珂はすっかりここが気に入ったようで、響玄の店に行かない時は薫衣草畑かここのどちらかにいることが多い。
 立珂はぴょんっと薄珂の腕から飛び降りると、慶都と一緒に走り始めた。

「立珂ちゃん元気そうね」
「うん。普通は十歳までに済ませてる成長を今やってるんだって」
「やっぱり獣人とは違うわよね。困ったことがあれば言ってね」
「慶都が遊んでくれるだけで十分助かってるよ」

 薄珂と芳明の懸念は立珂が心を許せる相手が極端に少ないことだった。
 人里で生活する有翼人は学舎に通ったり働いたりして人と暮らす術を身に着け、その中で家族以外にも信頼できる相手を増やし心の安定を図るらしい。
 そんな立珂が唯一対等に遊べるのが慶都だ。獣人の里で仲良くなったということもあるが、おそらく精神年齢が同じくらいなのではと芳明は言っていた。
 こればかりは最も近い身内である薄珂では与えてやれないことだ。
 立珂を見ると、何やら慶都の服を弄っている。すると慶都が、わあ、と嬉しそうな声をあげた。

「どうしたの?」
「かーちゃん! この服すごいぞ! 獣化しても大丈夫なんだって!」
「立珂ちゃんが作ってくれたのよね」

 以前、慶都もお揃いの服が欲しいと言っていたので立珂はどんなのが良いか考え侍女に作ってもらった。
 それはゆったりとした服で、生地は薄く軽いので走り回る子供でも苦が無いらしい。

「これお着替えがらくちんなの。腰と肩の紐をほどくと全部脱げるの」
「これだな!」

 慶都は立珂が示した位置の紐をほどくと、前と後ろに生地が分かれてあっという間に脱げた。
 獣化は服を脱いでからしなくてはならないので緊急時に即はできないという難点がある。無理矢理獣化できなくもないが、鳥は腕が羽になるので長袖を着ていたらもう終わりだ。
 だがこうしてすぐ脱げさえすればすぐに獣化ができるというわけだ。

「この丸いのも凄いんだよ。慶都。鷹になってこれにお腹くっつけてみて」

 丸裸になっていた慶都はするすると身体を鷹に変えた。
 立珂が指示したのは脱いだ服の腰からぶら下がっていた共布で作られている。立珂が片手で握れる程度の大きさで、慶都はぴょんとそれに乗った。
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