この美術館の可視/不可視のフレームはなにか、について(中)

文字数 1,580文字

さて。国立西洋美術館、『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』展の話だったわね。
るるせは観に行ったとき、自分が意図せず他人に不快を与えそうになった箇所が、二箇所あったそうなのです。ひとつが展示のナルシズムを妨害するかたちになってしてしまった箇所、もうひとつが通せんぼをしたかたちになってしまった箇所、だというのです。
順番に観ていこうかしら。
一カ所目はペインターFさんの歌っている映像のプロジェクター配置の問題なのです。
ペインターFさん?
説明すると長いので省略しますが、ペインターFさんの展示は、正面奥にプロジェクターから歌っている動画を再生し、両サイドに絵画が配置されている、というものです。ペインターFさんはどうしても自画像を描いてしまうのですね。そして、映像は自伝的要素のある動画と自分を語る歌なのでした。よって、どう見積もってもナルシズムを堪能してもらおうという意図がありますし、それは成功していたのです。みなさん、食い入るように映像と歌を観て聴いていたのです。
ふぅん、よかったじゃない、成功していたなら。それがどうしたの。
この展示、奥へ行ってから左に違う方の展示があるのですね。で、行き止まりになっていて、次はペインターFさんの展示を横切って右に進むようになっているのです。
要するにペインターFの展示を観たら違う人の展示に行ってから、ペインターFに戻って次に進まないとならないのね。
まっすぐ突っ切ろうと思うと、プロジェクター映像を遮ってしまうことになるのです。つまり、遮らないで次に進むためには、大きく迂回してから進まないとならない。ところがるるせの奴、突っ切ってしまったためにプロジェクターに投影する映像を妨害してしまったのです。
プロジェクターに見入っていたひとたちの陶酔を邪魔してしまったわけね。それは怒られるわね。
そうなのです。るるせ、プロジェクターを遮ってしまったら、知らないお姉ちゃんに「あんた、わかってる?」といらつく声で言われてしまったそうなのです。
自分が意図せず他人に不快を与えそうになった箇所の一つ目がそれね。もうひとつは?
二カ所目は、行き止まりの場所に細かい文字がびっしり書いてある展示スペースです。
具体的には? 短くお願いね。
やはり行き止まりのスペースなのですが、ひとが一人入ることが出来ることしか出来ないくらいの大きさのスペースなのです。そこで、熱心に文面を読んでいたお姉さんがいたのです。書いてある文面が興味深いので、るるせも読もうと、スペースをのぞき込んだらしいのです。それでお姉さんがるるせがいることに気づいたそうなのですが、こっちを見て身体が震えたそうなのです。そりゃそうなのです。入り口を塞いだかたちになってしまったのです。通せんぼです。しかも暗がかりになりそうな場所。これが悪意を持った男性だったら、と思って恐怖したのだと思うのです。
これが自分が意図せず他人に不快を与えそうになった二カ所目、ね。
第3章「この美術館の可視/不可視のフレームはなにか?」における、特に田中功起が提示した問題、に話を戻しましょう。
田中の議論は、ふだん当然のように設定しているフレームとそこから無意識に排除してしまっているものはなにか、という話だったわね。
るるせの場合、今話してきたことは、まず順路という問題と接続されますね。次いで、どこまで良識やルールを客に委ねてどこまで設計に頼るか
るるせは学識のない人間で、暗黙のルールがあまり通用しないし、他者への気遣い、配慮が足りないのでルールを理解していない。実際怒られたり恐怖されたりしているわけで、ルールの外部なのは明白。この「美術館という制度」が排除しているのがなにか、不可視だったのに、こうして考えると可視化されるわね。
それじゃ、ここで区切ってまとめにはいろうね!!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色