理性の系譜【第一話】

文字数 1,466文字

幻聴が聴こえるAさんがいたとします。問題です。このAさんは病気でしょうか、なのです。
このAさんが幻聴を気にして、生活に支障をきたすならば、それは立派な病気ね。
では、生活に支障をきたさないならば、病気ではない、と。
ある意味、その通りよ。「まわりがAさんをどう思うか」が、この場合、一番問題となる。または、Aさん自身の心身の失調が起これば、大問題。逆に、幻聴(ヒアリングヴォイシズ)が聴こえたとしても、跳ね返せるなら病院へ無理に行かなくてもいいわ。難しいけどね。なぜ難しいかというと、「幻聴は自分じゃどうにもできない」からよ。
幻聴が聴こえるなら、その心を鈍麻するダウナー系のこころのおくすりを処方してもらって、「気にしない状態」にもっていくしかない。逆を言えば、今の精神医学は、それくらいしかできない。
なーに、ダウナーって?
合法、非合法を問わず、こころに作用するくすりは大別すると、アッパー系とダウナー系にわかれるのです。交感神経で活発になるのがアッパー、副交感神経で活発になるのがダウナー、という例を出せばわかりやすいかもしれないですね。こころのおくすりだと脳内報酬系の分類です。
アッパーは気分の高揚、ダウナーは鎮静、ね。処方箋薬でダウナーにして、鈍麻させないと切り抜けられない状態っていうのも、ひとにはあるものよ。なんでも「明るく、元気に」なんて、嘘よ。落ち着くのが処方だ、ってことも、たくさんあるの。特に、この幻聴のようなものの場合、鋭敏な感覚でいたら、自分の精神がやられてしまうわ。その対処療法としての、感覚の鈍麻ね。
理科という小娘は、出身を抜きにしても、米文学などからの知識で、そういうのに詳しいのですよ。ですが、そういうのは語りづらい世の中になったもんですねぇ。
話を戻すと、精神の病気は、社会的な病だっていうことを、何回も話したわよね。みっしーが今出した問題も、その範疇よ。
今回はフーコー『狂気の歴史』のお話です。もう一度、ボクらが何度も話しているテーゼについて、考えてみるのです。「精神の病は、社会的な病である」とした場合の、「社会」とは、いったいなにを指すのか? 言い換えれば「理性」とは、いったいなんなのか。議論を先取りすると、「社会」も「理性」も、その定義が時代によって異なるのです。それを解きほぐし、精神医学と「理性/狂気」の歴史について見ていくのです。
はぁ……(また、エンマちゃんに言われて、これも〈死神化〉への、特訓なんだろうなぁ)。
なーに、ため息をついているのですか。ボクらの主張を強化するチャンスでもあるのですよ?
クッパ! カルビクッパが食べたいでござる~。
どうしたの、ちづちづ。カルビクッパ。
病院じゃ食べられないであろう、カルビクッパを食べてエンジョイしよーよ! どうせまた、辛気臭いお話になるんでしょ? 時代はカルビクッパだよっ!
時代はカルビクッパだったのですか、ちづちづ。
じゃ、話が終わったら焼き肉屋でカルビクッパを食べに行こう。
ござるござる~!
ふぅ。まあ、いいでしょう。そういえば料理に関しては、ちづちづに任せることがあまりに多いのですよ。理科が金を出して焼肉を食べ、カルビクッパやビビンバを食すのも、悪くないですねぇ。
いや、みっしーも出しなよ、焼き肉屋代。
狂気の沙汰も金次第! 二人とも、ご飯代で散財するんだよー! そうしないとまた「愛の説教部屋」行きだよーっ!
   そんなわけで、今回は「狂気」および「理性」の変遷をたどっていくわ。

   長丁場にはしないつもりだけど、よろしくね。

   つづく!

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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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