地下室からのコナトゥス【第九話】

文字数 1,937文字

〈「悟性」章〉での〈説明〉こそが「欲望を可能にする存在論的〈舞台〉」だった。そしてその説明のレトリカルなドラマはこれから〈開演〉される〈欲望のドラマ〉において、より具体的な水準で再現されることになるのね。
意識が対象、ないし世界から存在論的に区別されたものであったにも関わらず、「意識自身がその世界の真理の規定に参与している」というパラドクスを示し、かくして意識が「絶対的現実を規定するという主要な存在論的役割を担う」。
これ、実は「意識」は「世界」に対する「他者」として世界を「媒介」してたのです。
そんな〈意識〉さんですがー、ってね。意識の話はまだ続いていく。
「説明のドラマ」は、意識が対象を志向し没入する限りで反省性を実現できず、対して反省性を実現すれば意識の対象である世界を失うというパラドクスを示すものだったのは、説明した通りなのです。
したがって、「感覚的・知覚的世界」がなんらかの仕方で意識と「統一」されなければならないことが次第に明らかになっていくのです。
この「意識と世界の存在論的不均等」を乗り越えようとする努力が〈欲望〉なのでした。
欲望……かぁ。強い言葉だよね。なんだかんだで。
パラドクスを乗り越えるために、欲望の経験は運動と他性の総合として内的に現れるのです。言い換えましょう。「説明」のドラマでは「外的差異」として現れた意識と世界の不一致が、「欲望」においては「内的差異」として再演されるのです。
では、その「欲望」にとって「適切な対象」とはなにか、なのです。ヘーゲルによればそれは「生命」なのです。生命は欲望が消費する対象であるとともに、自己自身がそこに属する普遍運動だからなのです。
生命とは、他性と運動を同時に含んだものなのです。なので、生命が欲望の〈舞台〉となるのです。欲望は生命の舞台で説明のドラマを内的に反復することになるのです。あの、説明のレトリカルなドラマを。
ふぅ。やっと堂々巡りの説明を抜けるわね。
そうですね、次に行きましょう。
『現象学』によれば、欲望がはじめにとる形態は「消費」なのです。欲望は「動物的な飢え」として現れるのです。この意味で、欲望は「この生きている対象」を破壊し、食べることで自己自身に「ポジティヴな形態」を与えようとするのです。
動物的欲求の〈飢え〉で食べたらポジティヴになれるわよね。これが「消費」か……。
しかし、なのです。バトラーによればそれは「パラドキシカルでレトリカルな結論」を導くといいます。「消費する欲望」は「この生きている対象」を破壊し、否定する。そしてこの否定作用を通して、「欲望は生命における一種の死の経験になる」と、バトラーをして言わせることになるのです。
「消費する欲望」は「説明のドラマ」を反復するのです。違う言葉で言えば、生命を欲望するとその主体は「自己を失う」。生命の破壊は、自己自身の生命の喪失に陥るのです。
この経験を通して欲望が学ぶのは、逆説的にも対象の自立性であり、その対象への依存だ、ともとれるものなのです。「消費する欲望」の「否定」は、その否定が可能になるために対象を必要とする。そのために、その欲望は自己の〈他〉のものへの「依存」を見出すのです。
「消費する欲望の経験はふたたび自己意識とその対象の媒介された関係を明示している。なぜなら、欲望の経験は、独立した対象にまず関係づけることなしには自己確信を与えることができないからだ。結果的に、破壊する行為主体は破壊される世界なしにはどんな同一性も持たない。したがって、この存在、すなわち、生命からの彼の追放を認めながら、すべての生きている事物を破壊しようと努めるこの存在は、ついに逆説的にも生きているものの世界への彼の本質的な依存をドラマ化することになる」と、バトラーは言うのです。
バトラーは「消費する欲望」の〈経験〉はそれが否定する対象が実は「生命そのものと同じではない」ことを知る道程でもあると指摘するのです。
もうひとつ、バトラーから。「欲望は欲望している行為主体がつねにそれ自身に対して他なるものであることを示す。すなわち、自己意識は自己自身を取り戻すために、脱ー自的な存在であり、それ自身の外側にあるのだ。欲望の対象の増殖は自己意識に対して永続的な他性の領野を確約する」。
「欲望はそれが生きたものであるために〈否定的なもの〉を耐え忍ぶのであり、言い換えれば、欲望はその満足をついに奪われている。欲望は構成的に『他性の終わりのない増殖を要求する』ため、その主体をつねに『自己の外に』置くのである。『欲望はつねに欲望の行為主体をそれ自身に本質的に他なるものとして示す』」
まとめは次回、することにするわね。
     それでは、次回へつづく
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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