探偵ボードレールと病める花々【第十七話】

文字数 1,704文字

今回は零落したヒーローとしてのボードレールについて、語っていくのね……。
盛者必衰!
黄金期ってのがあったかというと、微妙だけどね。だいたい、詩って、売れる時代は、とある評論家の書いた本の中では「現代だ」と言い切っていたくらいなの。それくらい、売れても売れたとは言い難いのが、詩というものよ。
えー? どーいうこと? お姉ちゃん。
ラッパーね。ラップは韻律文よ。つまり、詩。脚韻はつけるものでしょ。ヒップホップはラップ、ブレイクダンス、グラフィティアートを総称してヒップホップと名付けられているんだけどね、本当は。でも、音楽のジャンル分類としての、ヒップホップ、すなわち、ラップという詩をつくるラッパーのつくるライムが、お金になる時代は、現代にしか、ない。
エミネムさんなんて、誰でも知ってるもんねー。そのプロデューサーのドクター・ドレーさんも。
日本で居酒屋のトイレに入ると、相田みつをの書いた短い自由詩のカレンダーが貼ってあったりするし。そんなに人口に膾炙された時代は、ないわよ。特に、お金になった、という点では。
しかし、日本の詩壇は、何十年も前から「一人勝ち」状態なので、理科は現代詩を嫌っているのですよ。まあ、誰だかは言わないのですが。
そういうわけで、お金という意味じゃなく、影響力を持った、という意味では、ボードレールの詩は、凄かった。その話は、前にしたわね。
なるほどねー。話を折っちゃったね。ごめんね、お姉ちゃん、みっしー。
いいのですよ、ちづちづ。その代わり、今度ボクに身体で払うのですよ?
いやん。ていうか、みっしーはグイグイ攻めてくるけど、わたしは女の子で、みっしーも女の子だけど、いいの?
フッ、男なんて……。
地雷だったのかな?
こら、ちづちづ。ひとの傷をえぐらないの! めっ!
わかったでござるぅー。
零落しながら、いや、それ故にヒーローの姿をとる、ボードレール。剣をふるう詩人のイメージに視線を戻すと、それはともすると脱走兵のイメージとオーヴァーラップしてみえる、と言われますね。
よくわからないなぁ。
剣を振るいながら、山野をさまよっている傭兵のイメージだ、とベンヤミンは書いていますね。
具体的な話に潜っていくわよ。よろしくね、みっしー。
ボードレールの連作詩『小さな老婆たち』、目立たぬシンコペーションをもつ二行こそが、マルクスが語った社会的空洞の所在を映し出している、というのです。
これに関してプルーストは、「これ以上の達成は不可能に思われる」と書いているのです。
この詩のなかで「我々の」と語られる公園は、市民に開かれているのです。公園に集まる聴衆は、遊民の周囲を波のように流れていく人々とはだいぶ違うのです。それに関し、ボードレール自身が、1851年に書いたのです。以下、抜粋するのです。
「どの党派に属するひとであれ、この虚弱な住民たちの眺めに心を奪われないことはありえない。かれらは工場の埃や木綿屑を吸い込み、名品の制作に用いられる鉛白や水銀などのあらゆる毒物によって、体内組織を侵されている。この住民たちは奇跡に焦がれているが、生きている以上、かれらだってその権利はある。かれらは赤い血が血管に滾りたつのを感じつつ、大庭園の日差しと樹影に長いこと、憂愁のこもったまなざしを投げている」
この住民たちを背景として、ヒーローの輪廊は浮かび上がるのです。このイメージに、ボードレールは近代性(ラ・モデルニテ)という題をつけたのでした。
まとめると?
ヒーローが近代性の真の主体である、ということは近代(モデルヌ)を生きるためには、ヒロイックな精神状態を必要とする、ということなのですよ。
ヒロイックって言っちゃうと言葉がわるいかもしれないけど、でも、そういう精神状態も、必要だよね、生きるためには。ヒロイックな気持ちにならないと、やっていけないことが多いもん。
そう。その状態を強いるのが、〈近代〉という〈時代〉なのよね。〈現代〉にも通じる話よね、確かに。ちづちづの言う通りだわ。
そうなのです。では、次回はボードレールが近代を〈探偵して〉その相貌を探る話になるのです。
   それじゃ、次に進みましょう。

   つづく!!

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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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