変わる意識と走れ、メロンパン(上)

文字数 959文字

うぎゃー!
ただいまー。って、え、なに? どうしたの、ちづちづ?
お姉ちゃん、おかえりなさい。今の声はね、心の声が、口になってしまったの。ていうか、家の中に誰もいなかったし、声に出してもいいかなーって。
びっくりしたー。帰宅早々、また厄介ごとに巻き込まれるんじゃないかと思ってしまったわ。
わたしは大丈夫だよー。
大丈夫じゃなかったじゃないの。うぎゃー、なんて声を出しちゃって。一体、どうしたって言うの、ちづちづ。
そうなのですよ、ちづちづ。ボクに話してみるのです。理科姉ちゃんに愛想をつかしたならば、ボクがいつでも抱きしめてあげるのですよ?
あ。みっしーも、おかえりなさい。
ただいまー、なのです。さぁ、ボクとチューをするのです。熱い口づけを。チューだけに愛のチュートリアルなのですよ? まずはキスを。さぁ!
こら! やめなさい、みっしー。わたしの妹に手を出そうとするのをやめなさいって、ずーっと言ってるでしょうが。
さぁ、奥歯も凍るような、死神のキスを……。
いやん。そんな恋もしたいなーって思っちゃうなぁ、わたし。(照れる)
いや、そうじゃなかったわ。さっきは悲鳴を上げて、どうしたの、ちづちづ。
んん? ああ、それな!
「それな!」じゃないわよ。まったく。どうしたっていうの。
これのことなの。(スッと齧りかけのメロンパンを見せる)
メロンパン?
そうなの、お姉ちゃん。メロンパンに、思わず声を荒げてしまったの!
はぁ? どうして。おいしいじゃん、メロンパン。
だよね! わたしも大好き、メロンパン! でもね。
でも、どうしたっていうの?
最近のメロンパンは、メロン味なの!
そりゃ、メロンパンだもん、メロン味でしょ。
お姉ちゃん、数年前までのメロンパンを忘却してしまったの?
え? どういうこと?
少し前までのメロンパンは「メロンパン味」で、決して「メロン味」ではなかった! それが今ではメロンパンと言えばメロン味! これは欺瞞だわ!
そういえば、……メロンパンはメロン味じゃなかったわね。
欺瞞。……『知の欺瞞』とはよく言ったものなのです。
その話をするか、そこで……。
メロンパンはメロン味じゃなかった!

それが今じゃ、立派にメロン味。

これは欺瞞だ、とちづちづは言うけれど。

わたしたちはメロンパンとどう向き合えばいいのか。


そんなことを引きずりつつ、次回へつづく!!

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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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