アンチ・ヒーローよ語れ、ピカレスクの華を(中)
文字数 2,388文字
イカソウメンを焼いてマヨネーズをつける。バーナーで焼く手間をかけられるかどうか、これは重要なのです。ひと手間かけられない人間にキャラクター造型は向いてない……つまり、小説書きに向いてない、ということなです。
主人公のことを、プロタゴニスト、と呼ぶのです。特に純文学や中間小説と呼ばれるジャンル、『現代もの』とか『現代ドラマ』の主人公はプロタゴニストでしょう。一方、ジャンル小説の場合は、ヒーロー/ヒロインと呼ぶ場合があるのです。
なお、『ユリシーズ』はそれ自体がホメロスの『オデュッセイア』のパロディなので、ユリシーズのブルームはアンチ・ヒーローなのは当然だったのです。それに、セルバンテスだってドン・キホーテを騎士道物語の滑稽なパロディとしたのですから、アンチ・ヒーローなのもまた必然的にそうなったのだと思うのです。
ヌーヴォーロマンはプルースト、カフカ、ジョイスのさらに先を行こうとしたようです。ロブ=グリエやミッシェル・ビュトールあたりは日本でも紹介されてるのです。ヴィレヴァンあたりに平積みになってたりする大御所作家さんたちなのです。
逆に、SF小説、ニール・スティーヴンスンの『スノウ・クラッシュ』の主人公の名前が「プロタゴニスト」で、主人公は電脳世界で刀振り回して戦うのにヒーローと呼ばないでプロタゴニストなのがギャグだと気づくまでにずいぶんかかったっていうこともあったわ。
今でこそ電脳コイルはグーグルグラスとか出てきてオーギュメンテッド・リアリティだ、って理解がされてますが、辿っていけばあの手の作品で一番有名なのはギブスンの新三部作のうちの一作品『ヴァーチャル・ライト』ですね。新三部作のうちの、『あいどる』でヴァーチャルアイドルと結婚するひとがでてきますが、今となるとミクダヨーさんを彷彿とさせるのです。
もともと映画『マトリックス』は電脳三部作の『ニューロマンサー』を映画化する予定だったのが、「ピカレスクだからダメ!」と、当時のハリウッドの暗黙の規則によってシナリオ書き直しされた、という経緯があって生まれたものなのです。
ピカレスク。悪漢小説のことね。ピカレスクとアンチ・ヒーローは違うのよね。本当は。だから、『一方通行(アクセラレータ)』は、アンチ・ヒーローって呼ぶのはちょっと違う、……っと、重箱の隅をつつくのはやめましょうか。
「英雄的資質と著しく反する行動を取る」というアンチ・ヒーローの定義をどう解釈するかによるのですよ。その意味では、理科が思う、スノッブ(俗物)をヒーローのアンチと考えるのと解釈が違うのだと思うのですよ。アンチ・ミステリにしても、同じように定義づけによってかなり違うのです。
話は、あともうちょっとだけ続くの。
良かったら、もう少しのお付き合いを。
と、いうわけで、つづく!