廃園の亡霊のために【第五話】

文字数 1,111文字

理科よ。アウトラインは引けたかのぉ?
ぐー、ぐー、ぐー。(眠っている)
…………。
まあ、どうにか、ね。
逃げてもいいのじゃよ。ただの〈死〉が訪れることも、それはそれでしあわせじゃろう。あちしにはなんとも言えぬ。
わたしが死んだら、ちづちづをしあわせにしてくれるんでしょう? 違ったかしら。
違わぬ。うぬが死神になれば、十王庁は喜んで理科、うぬを迎え入れよう。
それは良かったわ。(ウィスキーのポケットボトルを瓶のまま飲む)
(ボソリと独り言をもらす)大変なことになってきてしまったのですね、……理科。
スキゾイドの狂気を了解可能になるようにする。記述による〈こころの可視化〉……と言ったら怒られるかしら。でも、『存在論的不安定』のひとがそういう気質から発症してしまうまでの流れ。
わたしなりの言葉で、ざっくりとまとめるわね。
〈彼〉には矛盾する二つの願いがある。しかし、それは〈彼〉にとっては重荷で、叶わない。気質なのだから、仕方がない、とも言える。
それは「見られたい、けど見られたらツラい。見られたくない、けど見られないことはツラい」と、いうことなの。そこで心の防衛機能が働く。
その防衛機能が発動し、〈偽りの自己〉=〈内的自己へのひきこもり〉を作り出す。
ただ、その〈防衛機能〉とは自分を捉えどころのない存在とさせることで。それによって、『自己』(内部)と『世界』(外部)の境界にある『肉体』の感覚が溶け出して、正常な自己感覚を崩壊させる。
それによって、〈彼〉の内面世界は肥大化するのね。
引き裂かれ、こころの『空想化』によってアイデンティティは失われ、非現実的な内的自己に生きることになる。そしてその内面はますます憎悪と恐れと妬みを抱くようになるのかもしれないわ。
…………。
ふむ。まー、いいじゃろー。ニュアンスをだいぶ変えてしまったよーじゃがのー。
じゃ、次に進みましょう。
存在論的不安定なひとの『自意識』の変化を追っていくことになるのです。この特徴を記述することによって、「理解」ができるようになる……と、いいのですが。
おっと、歯切れが悪いよーじゃのぉ、みっしーよ。
ひとの〈内的システム〉を記述することは、常に例外だけでできていて、それが特異点と呼ばれる〈個性〉であるわけですが、……あまり踏み込むのはオススメできないのです。
理科を死神にするのは、いくら適性があっても……。
サイコロはもう、振ったあとじゃぞ。
神じゃなくて、エンマの場合はサイコロを振るのね。
サイコロを振ったあとなのですから、どちらにしろ宿命論なのです。非常にコンスタティヴなのです。予定説なのですよ?
韜晦するのは死神少女の悪い癖じゃな。
今回は、あと少しね。
   次回へつづく!
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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