探偵ボードレールと病める花々【第三話】
文字数 1,284文字
ボードレールは、韻文詩集は『悪の華』一冊だけで、晩年に出した『漂流物』は、あくまで『悪の華』の拾遺集でしかないのです。散文詩集『パリの憂鬱』も、生前、計画の半分まで書いたものが死後、全集でまとめられたものに過ぎないのです。
唯一の詩集である『悪の華』は、初版が出るや否や風俗壊乱の罪に問われ、罰金刑になったのです。そして詩を6編も削除するよう命じられたのです。これにより、ボードレールは悪名をとどろかせることとなったのです。惨めですねぇ。栄光とは程遠いのです、実はボードレールは。
ですが面白いのは、それにも関わらず、そのたった一冊の『悪の華』という詩集は、その後のフランスの、ひいてはヨーロッパの、そしてそこから影響を受けた日本も含む広汎な国々の詩の流れを決定させてしまったということなのです。
ロマン主義は、詩人がどんなテーマでどんな姿勢で歌おうが、その詩人の目なり感性なりは、最初から動かしがたい大前提として〈そこにあった〉のです。ところが、ボードレールは、その大前提そのものを〈相対化〉してしまったのです。
それは詩の言葉の成立の仕方を完全に違うものにしてしまうことであり、それによりはじめて、一つの時代と、その中にいる詩人の自我を一度に歌ってのける詩を創作することができるようにした、というわけなのです。それにより、詩が本当の意味で「同時代」のものとなったのです。
なるほどね。じゃあ、次は違う角度から見てみましょう。ボードレールは美術批評家をしていたり、探偵小説の元祖、エドガー・アラン・ポーの翻訳をして、自国にポーを紹介したことでも知られているのよね。深く潜るのはあとになるけど、その概要を、次回はしましょうか。
次回へ、つづく!