探偵ボードレールと病める花々【第三話】

文字数 1,284文字

十九世紀フランスを代表する『大詩人』と言ったら誰を連想します、理科は?
迷うことなくヴィクトル・ユゴーでしょうね。
ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)に比べると、シャルル・ボードレール(1821-1867)というユゴーより19歳下の彼の立場は、惨めなものでしかなかった、とひとは言うのです。
ボードレールは、韻文詩集は『悪の華』一冊だけで、晩年に出した『漂流物』は、あくまで『悪の華』の拾遺集でしかないのです。散文詩集『パリの憂鬱』も、生前、計画の半分まで書いたものが死後、全集でまとめられたものに過ぎないのです。
惨めなものに過ぎないというのは、裁判の話かな。
唯一の詩集である『悪の華』は、初版が出るや否や風俗壊乱の罪に問われ、罰金刑になったのです。そして詩を6編も削除するよう命じられたのです。これにより、ボードレールは悪名をとどろかせることとなったのです。惨めですねぇ。栄光とは程遠いのです、実はボードレールは。
ついでに言うとその罰金が払えなくて、ナポレオン三世の皇后に嘆願状を書いて、罰金をまけてもらったのよね。
ですが面白いのは、それにも関わらず、そのたった一冊の『悪の華』という詩集は、その後のフランスの、ひいてはヨーロッパの、そしてそこから影響を受けた日本も含む広汎な国々の詩の流れを決定させてしまったということなのです。
ボードレールの詩は、詩を書くという作業を水平に広がることから、垂直に深めるという図式に変えた、と評されるわね。
そのことについて説明するのですよ。
ロマン主義が、さらに先立つ古典的・客観主義的な詩の理解の仕方への挑戦状として、強烈な主観主義的態度を投げつけたのですが、ボードレールはそのロマン主義の主観そのものの根本に問いかけたのです。
挑戦状の挑戦状。探偵趣味のボードレールらしいわね。
ロマン主義は、詩人がどんなテーマでどんな姿勢で歌おうが、その詩人の目なり感性なりは、最初から動かしがたい大前提として〈そこにあった〉のです。ところが、ボードレールは、その大前提そのものを〈相対化〉してしまったのです。
それは詩の言葉の成立の仕方を完全に違うものにしてしまうことであり、それによりはじめて、一つの時代と、その中にいる詩人の自我を一度に歌ってのける詩を創作することができるようにした、というわけなのです。それにより、詩が本当の意味で「同時代」のものとなったのです。
とても危険視されたでしょうね、ボードレールは。
そうなのです。ですが、第二帝政時代の社会から毛嫌いされ、危険視されながらも、ボードレールがともした炎はすぐさま、ヴェルレーヌ、マラルメ、ランボー、ロートレアモンたちに飛び火してくこととなったのです。
なるほどね。じゃあ、次は違う角度から見てみましょう。ボードレールは美術批評家をしていたり、探偵小説の元祖、エドガー・アラン・ポーの翻訳をして、自国にポーを紹介したことでも知られているのよね。深く潜るのはあとになるけど、その概要を、次回はしましょうか。
この探偵・ボードレールの活動を、さらりと紹介、していくのですよ?
   次回へ、つづく!
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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