天気読み/暗闇から手を伸ばせ

文字数 1,531文字

ちづちづは、お父さんお母さんと離れて暮らしていて、寂しくなったりはしないのですか。
え? そんなの考えたことなかったなぁ。あ、みっしー、ウィスキー飲む?
あ、飲むのです。ロックで頼むのです。
わかったよ、みっしー。ロックね。氷入れてくるねー。
わたしはストレートで飲むから、ボトル持ってきて、ちづちづ。
はーい。
理科。もとはといえば、理科が悪いのです。ちづちづのような中学生を親元から離れさせるっていうのが、どういうことかわかってんですかぁ?
ちづちづを連れてきてしまったことについては、いまだに良かったかどうか、悩んでいる。これからも、悩み続けるでしょうね。……わたしが死ぬ、その日まで。
おやおや、弱腰ですかぁ? 理科はちづちづを親元から引きはがした責任を、ちゃんと取ってから死ぬのですよ? まさか、病気でくたばって問題から「一抜け」するつもりじゃないでしょうね。
許さないのですよ、理科。もしも、そんなことになったら。
(ボソボソとちづちづに聞こえないようにしゃべる)みっしー。あんた、わたしの寿命が尽きようとしてるの知ってて言ってるでしょ。わたしにどうしろと。まさか、あのクソ親のところへちづちづを引き渡すような真似をしろ、と?
そうは言ってないのです。ただ、責任は取るのですよ。それが重要なのです(そして、そのために、〈縁切り〉の死神でもあるボクがこの姉妹の縁を断ち切るためにきたのです。あとくされがないように。だけど、しばしこの二人を眺めているつもりです、ボクは。縁を切るなんてことをしないで。ちづちづが納得できる解決方法がなにかあれば、それが一番なのです。)。
お姉ちゃん、みっしー。ウィスキー、グラスに入れて持ってきたよー。お姉ちゃんは、ボトルもねー。
お父さんとお母さんは別居してるんだー。みっしー、知らなかったよねっ?
え? あ、えーっと、知らなかったのです。驚きなのですよー(知ってましたが)。
田山総合病院理事長であり院長である、田山馬岱。それがうちの父親よ。正直、クソな奴よ。
クソとは。どうクソなのですか。総合病院の理事長で院長といえば、社会的ステータス高いじゃないですか。
女たらしでね。母は借金作って逃げた。
あー、囲っていたのですねぇ。女性を。それでブチ切れた母様が借金作って逃げた。よくある話なのです。
でも、お姉ちゃんを、医学部に入れてくれたよね、お父さんは。
あんな奴のことをお父さんだって呼ばなくていいんだよ、ちづちづ。あいつは、医学部を中退したわたしを捨てた。才能がなかったのが露呈したからね。それで、次の〈供物〉が、ちづちづだった。ヤバい、と思った。だから、ちづちづを連れて、ここまで一緒に逃げた。
逃走劇、憧れてたから、わたしはいいんだぁ。今、わたし、しあわせだよっ!
父母の馴れ初めとかどうして結婚したか、なんかには興味、ないのですか。
確かに、みっしーの推理通り。二人はそれでも恋愛結婚だったらしいわ。で、わたしを孕んだので、二人は結婚した。それだけのことよ。だから、わたしは呪われた子。学生時代も忌み嫌われていたわ。
ボソッ(だからこその、理科の〈死神適性〉なのですけどね)。
ここでの生活、わたしは好きだな。後悔なんて、するわけないじゃない。
わたしはいつも、お姉ちゃんの味方だよ?
田山馬岱との直接対決も考えなくてはならないですね。ちづちづをめぐって。
そうね。
天気読みのような日々ね。上昇する気温のせいでロードショウは続く。君のいつも切りすぎの前髪のような、変な気持ちだってどうにかなっていく。
上昇する魂の温度。「明日になって君が笑ってもいい」なのですよ?
お姉ちゃんとみっしーは吠えるがキャラバンは進む!
ですね。
さて、今宵はウィスキーを飲みましょうか……。
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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