探偵ボードレールと病める花々【第十二話】

文字数 1,830文字

今回は生理学ものが廃れる話からスタートするのね。
そうなのです。生理学ものの作者たちが売りまくった気休めの手段は、まもなく廃れたのです。
これに対して、都市生活の不安な側面、危険な側面に依拠した文学には、未来が大きく開けてくることになる。この〈文学〉の方も大衆と関りがあったけれどもそのやりかたは生理学ものとは違う。
この文学は、諸類型の定義づけを重大視せずに、大都市の大衆に特有の諸機能を追求したの。
ここでは大衆が、非社会的人間を迫害の手から守る避難所として出現しているのよ。危険な諸側面のうちでもっとも早期に名乗り出てきたのがこの側面で、それは〈探偵小説の原点〉だったの!
あ、ここで探偵さん、登場だね、お姉ちゃん。
むっ? もしかしてちづちづはボクと理科が話していたのを、隠れてみていたのですか? 確か探偵の話をしていたのは聞いていなかったはずなのですよ?
ごめん、お姉ちゃんとみっしー。わたし、聴いてた。
え? どこから?
『悪の華』詩集をわたしに見せたくないって、お姉ちゃんが言ってたところから。
最初からじゃん……。
わたしも探偵しちゃってたんだよ?
誰もが陰謀めいたところを身につけているテロルの時代には、誰もがまた、探偵の役を演ずる巡り合わせになるのです。遊歩が彼に、その代わりへの期待をもっともよく膨らませたのです。
遊歩。パサージュね。
ボクのアイドルであるちづちづもまた、探偵の役を演ずることになる。これは必然なのです。現在だって、テレビつければ探偵や刑事ドラマのオンパレードなのです。そこと重ね合わせて、見てほしいのです。そして現代はまた、テロルの時代でもあるのです。
きゃっ☆ わたしって、探偵さんだねっ♪
ボードレールは言うのです。「観察する者は、お忍びでいたるところを歩く帝王だ」と。
ベンヤミンはこう解説するのです。「こうして遊民が知らず知らず一種の探偵になることは、彼にとって、社会的にまことに都合が良い。遊情が公認されるからである。彼の怠惰は外見だけのものであり、その背後には悪者を見逃さぬ観察者の油断なさがある。探偵の自負心はこうして膨らむ。大都市のテンポに相応しい反応方式を鍛え、ものごとをすばやく補足する。そのことによって彼は自分が芸術家に近い存在だと夢想することができる。スケッチを描く画匠の筆の速さは万人の嘆賞のまとであり、バルザックの主張によれば、そもそも芸術家はすばやい把握能力と不可分である、という」と。
たんに犯罪を描く小説ならば必ずしも必要としない論理的構成を大いに重要視する探偵物語は、フランスにとっては、ポーの『マリー・ロジェの秘密』『モルグ街の殺人』『盗まれた手紙』の翻訳で、初めて出現する。
これらの本を訳出してそのジャンルを持ち込んだのが、ボードレールだったのよ!
ボードレールの作品にも、ポーの作品が深く浸透しているわ。このことを強調して、ボードレールはポーが取り組んだいくつかのジャンルで用いた方法に連帯したの。
エドガー・アラン・ポーは近代文学の最大の技術者の一人であり、ヴァレリーが指摘したように、科学小説を、近代宇宙論を、病理学的現象の叙述を、初めて手掛けているのです。こういったジャンルが、一般的に適用できるとポーが考えた方法の、精密な産物と思われたのです。まさにその点で、ボードレールはポーに与して、ポーの意向を体してこう書いているのです。
「遠からず人々は、科学や哲学と仲良く手を組んで歩むことを拒否するような文学が、人殺し文学であることを理解するようになるだろう」と。含みがある言い方なのです。
ポーの技術的成果のうちで、一番影響力が大きかったのは探偵小説だけど、これはボードレールの要請を満たした文学だった。なのでポーの作品を分析することは、ボードレール自身の作品を分析する一助となると言われているわ。
……もっとも、ボードレールは探偵小説は書かなかったのですが。
探偵ボードレールさんが、やっとこの物語に登場したね!
思ったより時間がかかったのです。
みっしー、お茶飲む? お姉ちゃんも。
ボクは飲むのです。そして理科の分はなくていいのです。
なんでよー?
ここからが本番なのです。気合続行なのです!
絶対飲む! お茶飲む!
お姉ちゃん、はい、どーぞ。
ゴクゴク……(お茶を飲む)。
うげらっ! このお茶、焼酎が入ってる!
キツケ薬代わりだよ?
ちづちづ、粋な真似を! ゴクゴク。ぷはー。(飲み干す)……じゃ、次行くわよ!
   次回へつづく!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色