廃園の亡霊のために【第一話】

文字数 1,362文字

眠って起きてみたら和風な神殿の中に、いる……。どうなってるの、これ?
気づいたようじゃの、理科。
師匠!
あちしはうぬの師匠ではない、とこの前も言ったじゃろ。エンマちゃんじゃ!
わたし、どうしてこんな神殿の中に?
「こんな」とはなんじゃ! ここは焔魔堂。あちしの働いている、十王庁の裁判所のひとつ、みたいなところじゃ。
十王庁?(首をかしげる)
十王庁……死後、咎人を裁くための機関じゃ。あちしは嘘つきの舌を斬ったりするんじゃぞー。
うえー。
それはともかく、理科よ。なんでうぬがここに連れられてきたか、わかるかの?
やっぱり連れてこられたのね。
ベンゾジアゼピンでぐっすりじゃったぞ。
うひー。……って、それは置いといて、わたしはなんでここに連れてこられたのかしら? まったくわからないわ!
ふむ。理科よ。うぬには〈死神適性〉がある。死んだのち、死神に成れようぞ。自分の余命が残り少ないのも、自分で知っておるのであろう?
…………。
……知ってるわ。
ふむ。
よかろう。死期を悟るのも大切なことじゃからな。
〈死神適性〉がある、うぬのこころの解放を、生きているうちに行う。こころの殻を破るのじゃ。そうして、外の世界を知る必要がある。
失敗した場合は、そこまでの人物なだけじゃった、ということじゃ。まー、こころの殻を簡単に破れたら病気なんて根絶簡単にされるじゃろーけどのー。
肉体の病だけでなく、こころの病も併発しているうぬにこそ、逆に〈死神適性〉がある、とも言えるのじゃがの。『肉化されざる偽りの自己』を、まずは定義するのじゃ。
っと、それは現世でみっしーとディスカッションで行うと良い。良いか? 理科よ、うぬは自分の狂気および狂気に至る過程を了解可能なものとして、その身に飼い慣らすのじゃぞ。己の狂気を了解できぬはただのバーサーカーじゃ。その身に飼い慣らしたとき、その殻は破壊することもできよう。それは狂気が消えうせるのではない。狂気をプラスに働かせることができるようになる、ということじゃ。
狂気に至る過程を了解可能なものに、する……か。
うぬがこのあちしの閻魔帳に載らないうちに、そのこころが〈消滅〉せんように、な。精神薄弱に、ならんように。譫妄状態でここに来られても困るからのー。
自分を見つめるのじゃ。己も知らぬようでは、いかに適性があろうと、使い物にはならん。
もし……わたしが死神になれたら、ちづちづをあんたの力でしあわせにして頂戴よ。できるんでしょう、エンマ大王様。
あちしが天界の地蔵菩薩の化身でもあるのを、知っての発言じゃな。ふむ。十王庁の経典『預修十王七経』を知っているようじゃのぉ。いや、『地蔵十王経』か。さっきは首をかしげておったが、あれはフェイクか。くくく……面白い。死神向きの人材じゃの。
よかろう。請け負うぞ、うぬの妹とは現世の中学校で同級生をしておるしな。……それとあちしは「エンマちゃん」じゃからな。大王と呼ばれるのは、好かぬのじゃ。
はいはい。じゃ、もとの場所に戻してね。
そしてわたしは再び眠りに就く。夢うつつで観たまぼろし……じゃなさそうね。


アパートの部屋の布団で目を覚ましたわたしは、居間に向かう。

お姉ちゃん、おはよー。
寝起きすぐで悪いのですが、理科。狂気について、再考するのですよ。
どうやら、そういう流れのようね。
   次回につづく!
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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