馴れ初め乙女(上)

文字数 1,212文字

みっしー、そんなに干し柿をがつがつ食べていると太るよ?
やけ食いなのです、放っておいてほしいです、ちづちづ。
なにがあったの、みっしー。
いや、そりゃボクはちづちづのことが大好きなのです。一宿一飯の恩を、ボクが忘れるわけがないのです。
一宿一飯?
あれだよ、ほら。ちづちづが拾ってきたんじゃない、この家出少女のみっしーを。そのことでしょ。
だって、かわいそうだったんだもん。
かわいそう……ねぇ。
死神は魂を運ぶのが役割なのですが、神通力をこの町で使いつくして行き倒れになっていたのですよ。ボクはひとや事物の縁を切って魂を運ぶ仕事をしているのです。ですが、さすがに大物の魂は手に余るものだったのです。力を使い果たしてしまっては、動くこともできず、電柱柱の横に置いてあったポリバケツで躓いてぶっ倒れてしまっていたのです。あのとき、ちづちづがボクを見つけて保護してくれなかったかと思うと……背筋が凍るです。
みっしー。アンタは恩があるからちづちづが好きなの? 好きに理由が必要なの?
どんな境遇でも、もしボクがちづちづと出会っていたら、恋をしていたと思うのですよ。恩があることも一因ではあるのですが、恩があるからってのも好きになった一因でしかない。大きく見たら多くの理由のひとつだし、理科が言った通り、好きに理由はいらないです。
それ、ある意味ビッチだよね。好きになるのに理由なんかないー、抱いてー、みたいな。チョロいよ?
どさくさに紛れてなに言ってんだ、ちづちづ。謝れ。全国のビッチどもに謝れ。
ああ、ビッチに謝るんだ……。それってどうなの。
だいたい、わたしもみっしーもちづちづも女の子でしょ。女子の「好き」や「かわいい」ほどあてにならないものはないよ。基本、上から目線だからね。
偏見だよー。
『高慢と偏見』が……。
そのネタ、まだ引きずるか、みっしー。
わたしは理科お姉ちゃんが好きだからなー。みっしーは二番目に大好きだよ!
言ってること、ちづちづは全然わかってねぇ……。
アタイ、ノンケでも食っちまうんだぜ? なのです。
こら、そういうこと言うのやめなさい。
ボクとちづちづの馴れ初めの話を、そろそろしたほうがいいのです。
特に聞きたくないけど、聞こうかしら。
それじゃ、日を改めて。
先延ばしにするこたないだろ、ちづちづ。
お姉ちゃんとみっしーが飲むお酒をスーパーで買ってくるね。
んん? ああ。そういうこと。わかったよ。日を改めて、っていうか、今夜はぐだぐだそれについて語るのね。馴れ初めを。
それじゃ、過去篇をやりますか、なのです。
なんだよ、過去篇って。
過去篇で理科を「囲い込む」のです。
価格コム?
囲い込むと価格コムは間違えないだろう。
理科もボクが死神だってわかってないみたいですし、ちょうどいい機会なのです。


つづく!

つづく! じゃねーよ。勝手に続き物にするもんじゃないわよ、みっしー。
インターリュード(幕間)だね!
そう……なのか? 緞帳は上げなくていいよ……。はぁ。
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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