探偵ボードレールと病める花々【探偵お茶会・1】

文字数 1,407文字

今回は話をぶった切って、ベンヤミンそのもののことについて、理科が話したい、ということなのですが。なんなのです、理科。
広義における、教育について。もしくは、ミメーシスの覚え書きみたいなことを、ちょっとね。
あれ? 聞いた話では、お姉ちゃんはお師匠さんから、「啓蒙主義にお前は関わるな!」ってきつく言われた、ってことなんだけど? どーしたの、いきなり。お姉ちゃん、教育だなんて、ちょっと変になっちゃった?
理科はもともと変な奴なのです。あと、そのお師匠さんとか言う奴の言う通りなのです。近所のやんちゃ坊主たちにペインティングナイフで応戦しているこのバカ理科お姉ちゃんの言うことなんて、啓蒙とは正反対なのですよ?
今、ベンヤミンの話を間接的にしてる途中じゃない。それで、ね。
メタ的発言をありがとう、お姉ちゃん。今やってる話っていうのは『探偵ボードレールと病める花々』のことだよっ!
複製技術時代における芸術作品、とパサージュ論の話を、したいようですねぇ、理科。
そのうち、ジョイスの話でもしたいとわたしは思っているのだけど。ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』は、同じくジョイスの『ユリシーズ』もだけど……とてもハイコンテクストなのよね。
はいこん……なに? わかんないよ、お姉ちゃん。
理科が言ってるのは、文脈性が高いということなのです。文脈の理解度が読者の方で高くないと、そのテクスト自体が「なに言ってるかわかんない」ってことなのです。この理解度を強いるのが、ハイコンテクスト、と呼ばれるわけなのです。
具体的には? そのジョイスってひとの作品、読んでないわたしにわかるようにして!
ちづちづ、大丈夫なのです。実は日本の「漫画」も、相当ハイコンテクストなのです。
え? わたし、さくさく読めるけど? どーいうこと、みっしー?
例えば、汗をかいたときの表現。ひらがなの「し」みたいな『記号』が、顔のなかに描かれるのですが、漫画のわからない国のひとの多くは、「し」が描いてあっても、それが汗だとわからないのです。手塚治虫が開発した『記号』と、その『派生物』によるその漫画の『記法』は、ハイコンテクストと言えるのです。
そう。これを『間テクスト性』と呼び変えてもいいの。でも、それ自体が〈パスティーシュ〉……日本語訳すると〈剽窃〉とも、言い換えることができてしまう。
剽窃……。お姉ちゃんは難しい言葉を使うけど、それって要するに「パクリ」って話だよねっ!
その通りなのです。偉いですね、ちづちづ。ボクとちゅーをするのです。パーフェクトキスをするのです!
剽窃。例えば、実はシェイクスピアはその題材の大部分を他人の作品から借用しているのよ。
えっ! あのシェイクスピアさんが!?
エリザベス朝時代劇作家の場合なんかは、それが普通のことだったの。『剽窃』とは、自作のなかにほかの人物の書いた作品、またはその一部を〈盗用〉することを指すわ。


今日に至るまで、それが意識的、無意識的にであれ、借用するのは珍しくないのです。
日本の〈本歌取り〉もまた、パスティーシュね。
話はパスティーシュからミメーシスになって、プラトンの話をしていくことになるのですが……。
それは次回ね。
で。ベンヤミンさんと、それがどうつながるの?
まあ、今回は理科に好きに喋らすのが良いのです。責任は持たないのです。
啓蒙思想もへったくれもないわね。
   番外編になっちゃったけど、

   次回へ、つづく!

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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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