探偵ボードレールと病める花々【第五話】

文字数 1,532文字

ベンヤミンから見たボードレールのお話を、今回からしていくわよ!
西欧マルクス主義の牙城、フランクフルト学派のベンヤミンなので、最初においでいただくのは、カール・マルクスの言葉なのですよ?
政治的な文脈で、切り取るのね。実際、ブランキらとの接触もあったボードレールだし、革命ともだいぶつながりがある。当たり前といえば、そうなんだけど。
ベンヤミンの言によれば、というお話です。マルクスを読むとボヘミアンたちは示唆に富んだ文脈の中で現れるのです。マルクスはボヘミアンたちに、職業的な陰謀家たちをも数え入れているのです。ボードレールの相貌を浮かび上がらせるには、ボードレールとこの〈職業的陰謀家〉という〈政治的タイプ〉との類似性について、語らなくてはならない、と言うのです。
〈職業的陰謀家〉をマルクスがスケッチした文章を、抜粋するのですよ?
「プロレタリア秘密組織の形成に伴い、分業の必要が生じてきた。組織の成員は、臨時の陰謀家、すなわち、普段の仕事の片手間だけ陰謀に関わり、いつもは集会にだけ参加して、チーフの命令に応じて集合地点に現れる用意をしている労働者と、自分の活動の総体を陰謀に捧げ、陰謀によって生活しているプロフェッショナルな陰謀家とに区分された。後者の階層の生活上の立場は不安定で、個別的には自己の活動よりもむしろ偶然に左右されており、彼らの生活は不規則で、その唯一の固定した宿駅はワインを飲ませる安酒場であり、これが陰謀家たちの密会所である。かれらは、ありとあらゆる種類のいかがわしい連中と近づきになることを避けられない。こういったことが、パリではラ・ボエームと呼ばれているあの生活環境のなかへ、かれらを組み込んでいく」
ここで言う「ラ・ボエーム」とは、ボヘミアン的な生活を実践することを指すわ。ボヘミアニズムっていうわけ。ボヘミアニズムとは、自由奔放な生活を追究することを指すわ。
まあ、マルクスに言わせるとラ・ボエームとは「曖昧な、バラバラな、浮草のような大衆」を指すらしいのだけれども。
ボードレールの政治的洞察力は、基本的に、この〈職業的陰謀家〉の域を越えていない、とベンヤミンは断じるのです。カトリック反動に共感するにしろ、48年の蜂起に共感を寄せるにしろ、その共感の表現は無媒介的であって、その共感の基礎はぜい弱だ、と言うのです。
いきなりで酷い言われようねぇ、ボードレール……。
ボードレールが、フローベールの言葉の、「政治全体のうちで私の理解するのは、ただひとつ、叛乱だけだ」を語ってもおかしくない、とベンヤミンは言いますが、そうすればその言葉がベルギーについてのボードレールの草稿メモの最後の部分と同じ意味で受け取れるから、だそうなのです。そのボードレールの草稿メモとは。以下に抜粋するのです。
「ぼくが〈革命ばんざい!〉というのは〈破壊ばんざい! 贖罪ばんざい! 懲罰ばんざい! 死ばんざい!〉と仮にいうのと同じことなのだ。ぼくは犠牲者として幸福なだけにとどまらず、死刑執行人の役割を演じてみたい気もある。革命を二つの側から感覚するためとあれば! ぼくたちはみな、骨の中に梅毒菌を持つように、血の中に共和精神をもっている。ぼくたちはデモクラシーと梅毒に感染しているのだ!」……だそうです。
ベンヤミンはこれを「扇動者の形而上学だ」と書いているのですが、……なんともいえず、先にマルクスが書いた安酒屋で酒飲んでるイメージが浮かんで、離れないですねぇ。
ベルギーでボードレールは一時期、フランス警察のスパイと見做されていたと言うわ。
スパイ……我らが探偵・ボードレールは、こうしてベンヤミンの著作の中に華々しくなく、憐れに登場するのでした。
   次回へ、つづくわ。
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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