探偵ボードレールと病める花々【第四話】

文字数 1,016文字

今回は前哨戦。ボードレールの基本を見ていくわね。
ボードレールは詩人としての活動のほかに、美術批評家として活動していたのです。美術評論家としてのボードレールの言葉は、彼自身の〈芸術観〉を解明するために、しばしば引用されるのです。
美術評論家としてのボードレールも、このお話では取り入れていくことになると思うわ。よろしくね。
まあ、『悪の華』自体が矛盾を多分に含んだ書物であり、そこからカトリック的なボードレール、または悪魔主義的なボードレールの像を引き出すこともできるのですけれどね。
詩句の書き方も、古典主義的な格調のある十二音綴詩句(アレクサンドラン)、ロマン主義風の絶叫詩、散文主義(プロザイスム)と呼ばれる手法もある。軽い歌謡調もあるわ。どうしてそうなってるかの話も、今後出てくると思う。頭の片隅に入れておいてほしい。
どうしてそういう手法が、一冊に混在しているかというと、16世紀から18世紀に至るフランスの詩の伝統を受け止めた上で、現実との矛盾を引き受けたから、ということはできるのですよ。
この態度自体がきまじめでありながら滑稽という二重性を持ってしまうのです。ボードレール自身が〈滑稽(イロニー)〉と呼んだそれは痛切な祈りでもあり、同時にパロディであり演技である、ということなのです。
『悪の華』初版が裁判にかけられたとき書いた、『弁護士のための覚え書き』の中で、ボードレールはこう書いているのです。引用するのです。
「繰り返すが、この『書物』はその全体において判断されるべきである。神をけがす言葉に対しては、私は天国への憧れを対置するであろうし、わいせつな箇所に対してはプラトニックな花々を対置するであろう。およそ詩というものが始まって以来、あらゆる詩集はみなこのようにつくられている。しかし『悪のうちにある精神の動揺』を表現するための書物を、ほかのやり方でまとめることは不可能だったのだ」
それに対してボードレールの親友、バルベー・ドルヴィーは「ここにはひとつの『秘密の建築』、詩人が熟慮の上で意図的に計算したひとつの設計図があることが、はっきりと見て取れるだろう」と、書き送ったのよね。
ここまでが前哨戦だったのです。これから、ヴァルター・ベンヤミンが読み解いたボードレールの話を見ていくことになるのです。ボードレールが生きた、その時代の、その病める花々たちを添えての、軌跡と分析を。
では、一緒に見ていきましょうか。
   つづく!
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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