素晴らしい新世界(上)

文字数 2,025文字

ただいま! ……ぐはっ。疲れた……。
帰宅……なのです。理科と同じく……疲れてもうダメなのです……。(部屋にあがって倒れる)
ど、ど、どうしたの、二人とも! 身体がボロボロで汗びっしょりじゃない! 早くお風呂入って着替えて……、じゃない、傷の手当しないと! あわわわわわ。
近所のやんちゃなガキどもに囲まれたから、戦ってた……。
理科がペインティングナイフで応戦してくれなきゃ、大鎌〈ハネムーン・スライサー〉を使ってしまうところだったのです。仕事以外の使用はできないのに。危うかったのです。
戦ってた? お姉ちゃんもみっしーも、一体なにがどうしてこうなったの? 大丈夫? 理由を聞かせて! じゃなかった、傷の手当を……。あわわわわ。
ちづちづ、ありがとう。知っての通り、わたしたちは町のみんなから嫌われているのだけれど。この前つくってたじゃない、わたしとみっしーで、同人誌。即売会で売ったんだけど、それが裏目に出た……。現実的に、物理攻撃してきやがった……。
ど、どういうことなの!
なんか知らないが、お子様たちの目に触れてしまって、親御さんたちや「教育に良いひとたち」から叱責を受け、さらにやんちゃな方々が物理攻撃という手段を講じてきたんだよ……。
同人活動ってそんなに危険なものだったの? みっしーがテキスト書いてお姉ちゃんがイラストを描いた本だよね! 命がけになるの、同人活動って!
なるみたいなんだ、それが……。いろんな立場の人間がいるってことさ……。
利害関係やらがある以上、自由なんてないのはわかっていたのですが、どいつもこいつも自分のポジションでマウンティング取ってくるのです。あげく、実力行使を……。やれやれなのです。
飼い猫がお外に出て行って数日後、どこかでほかの猫と喧嘩してぼろぼろになって帰ってきたみたいな状況になってるよ……。
だが、わたしたちが『不適切コンテンツ』と判断されるのをつくってしまったと『解釈』されてしまった以上、こうなってしまったのは動かしがたい事実だ。ゾーニングされていたはずなんだけど。どこで誰が目にするかわからない世の中でもあるし、見られた以上は、なんらかの判断を受ける。こういうの、不適切と思われたらもう仕方なくて、つくってしまった「人物」が『悪い』ということになる。正確には、わたしたちがもともと嫌われているから、「悪いやつ」と思われる感情がブーストされてしまったのだけど。
「なにを語るか」じゃなくて「誰が語るか」の問題にもなってしまったのです。問題の所在が不明になってしまっている気がするのです。人間界のルールなんて、ボクは死神なのですから、知ったことじゃねーのですよ?
知らないじゃ済まされなかった、と言うべきだろうね。
ルール、の話なのかな?
そうだね。ルールが明文化されてるのだけでも多いけど、問題は慣習法になってたり、その時代や場所の空気などで「感情的」にダメな場合も、とても多くて、そこに近所の「悪者扱い」のわたしたちが出しゃばることの意味を考えるのを忘れていたの。そりゃ突いてくるわよね……。
「不適切」の「判断」を誰がするのか。ルールじゃなく感情を介した「生理的に嫌だ」の「判断」は、果たして「誰に」できるのか、なのです。つくってる時点で本人たちはダメだと思っていないことが多くて、ボクと理科も悪気がないのですよ? どうしろって言うのですか。知らず知らずのうちに上から目線で見下してきて、そいつらの『正義感』によってフルボッコにされたのです。
基本的にわたしたちはなにをやったって「ダメだ!」って怒られる。なにをしたって、なにもしなくたって攻撃される。「いい加減にしろ!」って怒鳴られる。そこにコンテンツという「ネタ」があれば、そりゃ取沙汰される。餌をまいたようなものだったわ。
ごめん、お姉ちゃん。話についていけないんだけど、本をつくるのってそんなに危険なの? 確かに物書きの世界には『~警察』っていう名称で呼ばれる、「考証の間違いなんかを指摘してくるひとたち」がたくさんいるって聞いたことがあるけど……。
ボクと理科は今回、ちょっとえっちなマンガをつくったのですが、ここは欲求の根幹のひとつを扱っているだけに、ダイレクトに危ないのです。争いに巻き込まれやすい場所だってことを失念していたのかもしれないです。不測の事態なのです。本当に「攻撃」してくるなんて思わなかったのです。相手は自己正当化で理論武装してからやってきたのでしょうが、どう考えてもおかしいのです。頭がこんがらがってしまっているのですよ、ボクも。
二人とも、とりあえずお風呂に入って着替えてから、ゆっくり話そうよ!
わ、わかったのです……。
わたしもみっしーも、なにがなにやら混乱しているけれど、ちづちづはそれ以上に、わたしたちの今の状態に混乱を隠しきれていない。なのでいったん、お話をここで区切って、三人で話し合うことにしようと思う。

そんなわけで。


次回につづく!

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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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