探偵ボードレールと病める花々【第十六話】
文字数 1,337文字
しかし、最初から遊民のなかには、ブルジョワ的存在の脆弱さの意識が潜んでいたのです。〈遊歩〉が、この弱みを逆手に取る頃には、ボードレールにおけるヒーロー概念を隅まで特徴づけている構造が出現してきたのです。
「作家としてのボードレールには、彼自身が少しも気づかなかった大きな欠陥がひとつあった。彼は無学だったのだ。彼は、知っていることならば徹底的に知っていたが、知っていることは少なかった。歴史、生理学、考古学、哲学は、彼には疎遠なままだった。彼はたぶん、外界に気づきはしただろうが、とにかく研究はしなかった」と。
精神労働の物的な条件を成すものを、ボードレールはほとんど所有していなかったのです。蔵書から住居に至るまで、ボードレールがパリの内外でも送った不安定な生活の過程で、断念せずに済んだものはなにひとつなかった、というのが実情のようですね。
「肉体的な苦痛には、ぼくはかなり慣れました。破れたズボンをはき、吹き抜ける上着を着て、下着二枚でやりくりすることもできますし、穴だらけの靴に藁や紙を敷いてすますことも、場数を踏んでいます。だからぼくは、ほとんど精神的な苦痛しか苦痛と感じません。が、ぼくはぼくの衣類をもっと破るのではないかという恐れから、急激な動作を控えるまでになっています。歩くことももうあまりしません」
つづく!