絵描きに向く町

文字数 1,417文字

同じ川には二度と入れない……。なぜかわかるか……?
フッ……。川の水は常に流れて……いるからな。(キメ顔)
うっわ! キモ! キショいよ、お姉ちゃんとみっしー! 二人ともどうしたの、いきなり?
いや……その…………、テセウスごっこしてたのよ。
てせうすごっこ?
『テセウスの船』というパラドクスがあるのですよ。それに関して、ちょっといい感じのセリフを演じて……。
ああ、中二病ね。痛いねっ!
ぐお! ストレート! 突き刺さった!
いい歳して阿呆なことばかりやってるからだよ、中二病♡
ぐはぅ!
我らはチート能力保有者なのです。よって争っても勝つだけだからやめておきましたが……こうなったら戦争なのです、ちづちづ。フフ、ボクの大鎌〈ハネムーン・スライサー〉が唸るのですよ?
やっとみっしーがちづちづ離れをしたか。やれやれ、だな。
好きだからこそ、涙をこらえて戦うのですよ。ちなみに「負けたほうは脱ぐ」で。
いつの時代のビデオゲームの話をしているんだ、おまえは。
そういえば、ハネムーン・スライサーって名前、ダサさを通り越してると思うんだけど、それはどうなの?
ダサさと来ましたか。さすがちづちづ。ボクが愛する女の子です。着眼点が鋭い。
鋭くねーよ。ダセぇよ。どう考えても。
スライスといえばお姉ちゃんが敬愛するダミアン・ハーストは牛さんの身体をスライスしちゃってホルマリン漬けにしてるよねっ!
ハーストは医学をモチーフにすること、多いからなぁ。
聞いてください、ちづちづ。このバカ理科は近所のやんちゃ坊主たちが騒いでいるとペインティング・ナイフで応戦するのですよ。命がいくらあっても足りないことになるのですよ、そのうち。
ペインティング・ナイフ好きだもんね、お姉ちゃん。画家志望で、この町にやってきたんだもん。のびのび創作活動できるように。正確には、美術家さん?
インスタレーション作品は分解可能だとはいえ、場所を取るですからねぇ。
妹のちづちづにキレイな空気を吸って生活をしてもらいたい、という気持ちもあってだな……。
なに照れてるですか、理科。
ありがとね、お姉ちゃん。
ここは山も海もある町だし、絵描きにも療養生活にもちょうどいいんだよ、きっと。
近所づきあいが絶望的にダメだけどね。嫌われ者だもの、わたしたち。それこそ、お姉ちゃんがペインティング・ナイフで応戦するくらいに。
時は戻らない。嫌われる前のわたしたちには戻れない。やらかしたことも多いからなぁ。引っ越してきて、なにもわからなくて。親も人生経験のある大人も不在のなかでの引っ越しだったから。
時は戻らない。同じ川に二度と入れないように……。
同じ川でも、水は絶えず流れ、その川を構成する要素は違うから。
だからやめて、その中二病トーク。
中二病、中二病と連呼してますけどちづちづは今、思い切り中学二年生なのですがねー。
今日は割とエモい話をしてしまった感があるなぁ。
エモい……。ふーむ。そうなのです、エモいのです。
やだ、結託しないで、キモいから!
キモいんじゃない。エモいんだ!
絶対にエモいって言葉、わかってないよね。
いや、ボクはスクリーモなジャンルのパンクが好きですよ? ウィーザーも超エモいのです。
そこらへんに精通してても怖いよ……。
あ。角瓶切れた。買ってこなくちゃ。
カッコつけてウィスキーばかり飲んでると身体壊すのですよ、理科。
そーだよ! 絵描きできなくなっちゃうよ!
それは困るな。善処しよう。じゃ、コンビニへ。
まったく、もう。
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登場人物紹介

【田山理科】

 主人公にして家主。妹のちづちづと知らない町に引っ越し、二人で暮らしを始めたが、ちづちづがどこからか拾ってきた少女・みっしーも同居することに。趣味は絵を描くこと。ペインティングナイフを武器にする。

【みっしー】

 死神少女。十王庁からやってきた。土地勘がないため力尽きそうなところをちづちづに拾われて、そのまま居候することに。大鎌(ハネムーン・スライサー)を武器に、縁切りを司る仕事をしていた死神である。

【ちづちづ】

 理科の妹。背が低く、小学生と間違われるが、中学生である。お姉ちゃん大好きっ娘。いつもおどおどしているが、気の強い一面をときたま見せる。みっしーとは友達感覚。

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