パトリ(上)
文字数 1,667文字
そうですねぇ。この町にも郷土史を研究している御仁が多いですねぇ。彼ら彼女らは熱心なのです。理科やボクが書くのはフィクションで、フィクションの醍醐味と郷土史は、いささか相性が悪いのです。相当研究しても粗を拾われてボコられるだけです。ボコるのが趣味なひとに構う余裕はないのですよ? お金がない以上に「ない」のですよ。時間もお金と同じくすごく価値あるものです。ボコられる時間という夾雑物混じっても問題ないひととボクらは違うはずですが。
郷土史に興味ある、って言ったって、大きな家になってくると『市史』や『町史』や『村市』に自分の先祖が出てきたりするものです。もしくは知り合いの先祖が出てくるとか、自分の勤めた企業などですね。そういう「フック」があるから勉強に身が入りやすいのですよ。理科の家は関係ないのですから、ハンデ背負って勉強になるのは大変なのです。
『苦海浄土』は、企業城下町であることとの関連や、聞き語りする際の表現のニュアンス問題、書く人間というのがそもそも邪魔にされやすい、っていうのも丹念に描かれているわ。本当に後世に残すべき作品だけど、喜んだのは都市部の人間だけで地元の理解が得られない、っていうのは今も違う場所で、違うかたちで繰り返されているわね。
不適切投稿をSNSでやってしまうのもそうだけど、『作品』をつくってしまうことも疎まれるわよ、実際は。物書きっていうのは、嫌われる勇気があってもやっていけないくらい攻撃される。無視、黙殺という場合もあるけど。
と、いうわけで、次回につづく!