第51話 特例派遣課のお仕事

文字数 1,308文字

これで十分。満足だ。

スポットライトに歓声を浴びながら、
悠斗はその余韻に浸っていた。

舞台袖から見ていた向井涼介は、
カーテンコールを終えて戻ってきた、
悠斗に声をかけた。

「どうでした? 」

「最高の気分です」

自分の作・演出・主演で再演が決まり、
数々の賞も貰い、
これからという時の出来事だった。

心残りというものは、
どうしようもないものだ。

「でも、これで心置きなく終われます。
向井さんのおかげです。
有難うございました」

悠斗は頭を下げた。

「じゃあ、そろそろ行きますか」

「はい」

二人はまだ歓声が沸き起こる会場を抜けて、
その場を去った。


「おい、主役はどうした? 
これから取材もあるんだぞ」

スタッフの一人が悠斗の姿を探した。

「さっきまでそこにいましたけど、
どこに行ったんでしょう。
探してきます」

舞台袖があわただしくなった。



今から半年前――――

向井はぼぅ~としながら、
道を歩いていている悠斗を見つけた。

「君名前は? 」

との声に、
悠斗は初めて、
自分のいる場所に気づいたのか、
向井を見た。

「俺……どうして…そうだ……
事故があって…俺……」

向井は悠斗の顔を見て、ハッとなった。

そういえば、数日前にニュースで……
慌ててタブレットを開くと、

【舞台俳優 追突事故死】

記事が載っていた。

そうだ。田之倉悠斗だ。
何でこんな場所に?  

立ち止まって前を向く悠斗の視線を追うと、
そこには劇場があった。

向井は悠斗の様子に、
話を聞くため場所を変えた。

「ちょっと話を聞けるかな? 」

大通りを抜けた先にある、
公園のベンチに連れて行った。


悠斗が落ち着くのを待って、
向井は話しかけた。

「君は自分の今の状況を、
理解できていますか? 」

「えっ? 」

「君がここにいるという事は、
未練があるという事だから」

「未練…そうだ…オレ舞台の練習の為に…
タクシーに乗って……? 」

悠斗は数日前に、
居眠り運転の追突事故に巻き込まれて、
病院に運ばれたことを思い出していた。

あの後…オレは…どうなった?  

悠斗の様子を見ていると、
どうやらその時からの記憶がなく、
ふらふら歩きまわっていたようだ。

体は綺麗なままなので、
心臓強打による鈍的損傷という発表は、
間違いではないらしい。

「俺の舞台……」

「君は事故で亡くなっているんですよ」

「死んだ……? 」

「舞台は代役が立つことに決まりました」

「代役……」

悠斗が跪いた。

これからだったのに……

その打ちひしがれた姿に、
向井は派遣霊として、
登録させることにしたのだ。


精神的な衝撃が強かった悠斗は、
まず魂治療を行い、
その間に向井は、
彼が舞台に立てるように、
死神課で書類を改ざんさせていた。

舞台は悠斗が、
全て手掛けていたこともあり、
操作も簡単に行えたのも運が良かった。

千秋楽公演は、
新人エイジを主演にした旨を記した、
書類一式を作り、
死神による関係者への記憶処理。

記者会見からポスターに至るまで、
エイジの名前で憑依させた、
死神セーズを使い、
今回無事、舞台を終えることができた。

死神様様である。

くるみの舞台とも並行していたので、
大変ではあったが、
いつもこのようにすんなり事が運べば、
派遣課の仕事も楽なのにな……

向井はそんなことを考えながら、
死神課のカウンターの前にいた。
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