第62話 チビ妖怪 三鬼とこん

文字数 1,861文字

工房に行くと、
中に妖鬼と何人かの縊鬼の姿が見えた。

ステージはどうやら、
工房とギャラリーの横に作るようだ。

向井が部屋に入ると、
小鬼ともう一匹、
小さな白狐の姿が見えた。

一生懸命、袋に何かを詰めている。

向井がその様子を見ていると、
妖鬼がやってきた。

「向井さん。
ちょっと聞きたいことがあって」

「その前にあのちびっ子は、
何をやっているんですか? 」

「ああ、三鬼とこんね」

妖鬼が振り返った。

「なんでも作りたいものがあるから、
かんなくずが欲しいっていうんで、
片付けついでに手伝わせてるんだよ」

「かんなくず? 」

「そう。かんなくず。
妖怪施設のちびちゃんたちの間では、
流行っているらしいよ。

サロンにかんなくずアートの作家さんが、
来たでしょう。
彼女にブーケ作りを教わっててさ。
楽しいみたいで。
しかもヒノキの香りがいいんだってさ。
生意気だろ? 」

妖鬼が笑った。

「へえ~」

向井もちょっと意外な展開に驚いた。

「冥王の部屋にあるランプシェード。
あれもかんなくずなんだって。
その作家さんにお願いして、
作ってもらったらしいよ」

「安達君と遊んでいる間にも、
いろんな事やってるんですね。
あの人は」

「あははは。冥王だからね。
でさ~」

妖鬼が話し出した。

「ステージの大きさを、
どうするかで悩んでて。
発表会となったら参加者だけじゃなく、
みんな見に来るよね。
さっき冥王が来て、
劇場みたいなのが欲しいってさ。
好き勝手に言いたいことだけ言って、
帰っていった」

「あの人は思いつくままに、
行動してますからね。
でもそうなると、
小ホールくらいはないと無理かな。
舞台も少し大きめに、
作ってもらわないと」

「う~ん。
冥界の空間をちょっと広げるか」

「できますか? 」

「多少なら大丈夫だろう。
そうすれば百五十人くらいは入るから」

「だったらそれでお願いします」

「分かった。設計してみるよ」

妖鬼はそれだけ言うと、
仕事に向かった。

向井は楽しそうなチビ達を見て、
近づくと話しかけた。

「君たちは、
かんなくずアートを、
作っているんだって? 」

「向井~」

三鬼が嬉しそうに笑うと、
抱きついてきた。

早紀に拾われた小鬼は、
人間で言うとまだ三歳くらいだそうで、
施設で好きなことをさせているらしい。

三鬼の名前は冥王が付けた。

悪霊から逃げ延びた幸運にあやかって、
三の数字と助けた早紀の名前を入れて、
三鬼でミツキ。

本人も名前をもらえたことに、
喜んでいた。

「こっちの子はお友達かな? 」

向井が聞くと、

「こん」

小さな白狐は恥ずかしそうに、
うつむき加減で名前を言った。

「可愛い名前だね」

向井は笑顔になって、
三鬼とこんの間に、
胡坐を組むように腰を下ろした。

こんは白狐なので、
おそらく眷属なのだろう。

三鬼は向井の膝に座ると、

「こんもね~
早紀ちゃんが連れてきたんだよ」

嬉しそうに説明した。

「そうなんだ」

「冥王が読んでくれた絵本の狐さんと、
同じ名前なんだよね~」

「冥王は絵本を読んでくれるの? 」 

「うん。
他にも一緒に、
塗り絵とかパズルもするけど、
ゲームはずるするんだ」

「それは酷いね」

向井はそういうと三鬼とこんを見て、

「かんなくずアートができたら、
俺にも見せてくれる? 」

と言った。

「うん。
こんと一緒に可愛いブーケを作るんだ。
ね~」

「冥王も作ってるよ。
なんだかわからないけど」

二人は顔を見合わせてくすくす笑った。

「そう」

向井が楽しそうにしていると、
妖鬼が近づいてきた。

「ほら、お前らかんなくず拾ったら、
工房行くんだろう? 」

「あっ、そうだった」

三鬼は向井の膝から立ち上がると、
こんと一緒に袋を取りに行った。

「向井さんはチビに人気だね。
安達君や牧野も含めてね」

「安達君たちに、
チビなんて言ったら怒るから、
発言には気をつけてね」

向井が苦笑いを浮かべて立ち上がった。

「ハハハ」

妖鬼は声をたてて笑うと、
三鬼とこんが「またねー」と手を振って、
部屋を出て行った。

「あいつらは片付けと言いながら、
部屋を散らかしてるんだよな」

散らばるかんなくずを見て、
妖鬼がため息をついた。

「まあ、子供ですから」

「こんはさ。
親が眷属みたいなんだけど、
どこかで迷子になったらしくて、
早紀ちゃんが拾ってきたんだよ。
冥王が言うには、
中央で拾ったんなら、
地域は王子じゃないかって。
親も分からないし、
放っておくわけにもいかないからね。
三鬼も友達が出来て嬉しいみたいで、
ずっと一緒にいるよ」

「そうですか。
妖怪にも楽しい子供時代は、
あるんですよね」

「そりゃそうでしょ。
子供なんて人も妖怪も変わんないよ」

妖鬼はそういって笑うと、
仕事に戻っていった。

向井も立ち上がると工房を出た。
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