第80話 マルシェの日

文字数 1,461文字

金曜日――――

牧野は朝から悪霊騒ぎで、
隣町まで出かけて行った。

佐久間とエナトを引き連れて行ったので、
向井達は安心して、
イベントに出かけられた。

安達は初めての遠足のように、
朝から張り切っていたので、
早紀とティンが、

「何かあるの? 」と、
休憩室にやってきた。

「今日は安達君が楽しみにしている、
手作りのマルシェがあるので、
これから出かけるんです」

「マルシェ? 」

早紀とティンが同時に聞いた。

「手作り品とかキッチンカーとか、
まあイベントですね。
安達君は欲しいものがあるみたいなんで、
みんなで出かけることにしたんです」

「みんなって? 私も行きたい」

「トリアさんと弥生ちゃんも、
行くんですけど、
時間があるならお二人もどうですか? 
安達君も喜びますよ」

「だったら俺も行こう」

早紀とティンも増えて賑やかになり、
安達も嬉しそうに、

「お土産買ってくるから」

といじける冥王を、
置いて下界に下りて行った。


「いいお天気でよかったね」

ティンが公園の中を歩きながら、
店をゆっくり覗いた。

道の左右にテントが張られ、
色んなものが並べられているので、
安達じゃなくても目移りしてしまう。

ティンも楽しそうに見ていた。

「へえ~
こんなものも手作りで売られてるんですね」

レザークラフトを見つけると、

「これ買っていこう」

ティンはレザーのコードブレスを購入した。

安達は、
お目当てのショップを見つけたようで、
弥生たちと作家さんのお話を聞いている。

「ああやっていると、
お姉さんに連れられてきた、
子供に見えますね」

ティンが笑った。

「安達君の体は殆ど魂に、
精気を吸い取られている状態なので、
成長できなかったんでしょうね。
同世代の子より一回り小柄ですから」

「そうですね。
特殊な魂の場合は、
器を選ばないと暴走してしまうので、
普通は生まれてこれないんですけど、
安達君の体は、
受け入れてしまったんですよね」

ティンも何故だろうと、
考えこむように言った。

恐らく、安達の魂が一つではなく、
融合されてしまったからなのだと、
思われるが、
そのことを知るのは冥王と、
恐らく一部の死神だけなのだろうから、
ティンには不思議なんだろう。

「これ見て~」

安達が箱をもって走ってきた。

その姿に作家が笑って見ていたので、
向井とティンも軽く会釈した。

「何買ったの? 」

ティンが聞くと、

「キャビネット」

「立派な家具だね。
ミニチュアでこんなのが作れるんだ。
十朱さんのにも驚いたけど、
安達君や冥王が夢中になるの分かるね」

ティンは箱の中を見て驚くように言った。

「安達君、
作り方もちょっと教えてもらったのよね」

弥生が笑顔で言った。

「安達君には内緒だけど、
小学生だと思ったみたい」

早紀が向井の耳に口を寄せて話した。

「トリアが支払ったから、
優しいお姉さんですねって言われてた」

口元に両手を当ててくすくす笑った。

「まあ、安達君がご機嫌だからいいけどね」

トリアも笑いながら言う。

「あっちのキッチンカーで、
クレープ売ってるから食べようよ」

安達が言うと、

「いいけど、
私一つエプロンワンピ欲しいから、
そのあとでもいい? 」

「いいよ」

弥生と並んで、
お気に入りのお店に歩き出した。

「私も一つイヤーカフ買っちゃった」

早紀も久しぶりの買いものに楽しそうだ。

「たまにはこんな風に、
みんなで出かけるのもいいね。
知ったら牧野君、怒るだろうけど」

ティンはからからと声を出して笑った。

そのあとものんびり見て回りながら、
クレープ食べて、
タピオカ飲んで、
チキン南蛮食べてと、
向井達もはしゃぐ安達に振り回されながら、
それでも久しぶりに、
みんなで楽しい時間を過ごした。
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