第4話 死人も仕事終わりの一杯

文字数 1,442文字

いつもの居酒屋に入ると、
三人は仕事の疲れをとった。

ここは昔ながらの居酒屋なので、
種々雑多な客であふれているが、
お洒落を求めている若者の姿は少ない。

「はぁ~旨い」

牧野は唐揚げをつまみに、
ビールをゴクゴク流し込んだ。

「過去に戻れるなら、
あの時の自分に、
公園を通って帰るなと言いたい」

「ははは」

向井は笑うとビールを飲み干し、

「すいません。こっちに生二つ追加ね」

と店員に声をかけ、注文カードを渡した。

「そういえば、
この国は年間百十万人以上死んでるって、
知ってるか? 」

「そうなの? 」

田所の話に牧野が驚きの声を上げた。

「本当なんだよ。
どんな人間も寿命で死んでるわけ。
俺たちは宝くじに当たるような確率で、
特例になったんだから運がいいと、
室長に言われた」


特例でも現世での行いにより、
再生不可の烙印が押された魂は、
調査室に呼び出されることもないので、
特例になるというのは、
ある意味本当に運がいい? 
のかもしれない。


「そんな運。
死んでから当たっても嬉しくないね」

「そういや、今日の電子掲示板にも、
死亡欄に特例の赤ランプがなかったな」

田所が店員が運んできたビールを受け取り、
言った。

「毎日確認してるんですか? 」

「そりゃそうだろう。
少しでもスタッフが増えなきゃ、
死人だって体がもたない。過労死だよ」

そんな話をしていると、
店に三十歳前後のスレンダーな女性が、
小鬼を連れて入ってきた。

「あ~やっぱりここにいた。
あんた達サボってていいの? 
ほら、そこで拾った鬼。牧野にやる」

「鬼は死神課の管轄。
早紀が連れてけよ」

早紀と呼ばれたベリーショートの女性は、
鬼の手を引いて席に着いた。

注文カードを記入すると、

「あっ、お兄さん。あたしも生一つ。
あと、刺身の盛り合わせちょうだい」

と渡した。

「勝手に座るなよ」

「いいじゃん。
牧野、あんたは年下なんだからね。
先輩を敬いなさい」

早紀は配達課の担当だ。

お昼に出たところで、
自殺を図った人が落ちてきて、
その男性は助かったが、
早紀は下敷きになり即死。

残りの人生は四十二年あるらしい。

「お前こそ、
こんなとこでサボってていいのかよ」

「私が下界にいる間は真紀子さんが、
配達課のヘルプに入っているから、
大丈夫なの」

「ほら、
ここにシニアをダブルワークさせてる奴が、
いるじゃないか」

牧野が早紀を指さし文句を言った。

「まあまあ落ち着いて」

田所が笑った。

「それよりその小鬼は? 」

向井が聞くと、

「さっき、
そこで悪霊がこの子を取り込もうとしてて、
可哀想だから助けてやったら、
付いてきちゃって。
悪霊はとりあえず散らしといたから」

「お前なぁ~
霊は散らすと、
そのあとの回収が大変なんだよ」

「だって、札もないし、除去できないもん」

早紀は串カツを皿から取ると口に入れた。

「悪霊ってことは牧野君の取りこぼしか…
そりゃ、責任あるなぁ」

田所が枝豆をつまみながら言う。

「この子は大分小さいから、
まだ、
妖怪になって日が浅いんじゃないか? 」

「ずいぶんおびえてるし、
一人じゃすぐにも死んじゃいそうでしょ? 
だから、牧野に預けようと思って。
ここで死神課に直結してるのって、
向井君か牧野だけじゃん。
小鬼だから時間はかかるだろうけど、
大人になれば、
あんたの仕事の役に立つと思うんだけど。
死神課で許可申請してみたら? 」

「なるほど。じゃあ、そうするか」

牧野は小鬼を見た。


死神課は死神と呼ばれる、
冥王の部下がいる部署だ。

危険と判断されたり、
向井のいる派遣課で、
必要となる憑依の時に、
人間界に降りてくる、
特例ではない冥界の人物になる。
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