第37話 冥界ギャラリー

文字数 1,519文字

それからひと月は大きな変化もなく、
いつも通りの日常があった。

焼却、再生、消去課は忙しく、
霊電も満杯。

暇ではないが、
派遣課と保護課と環境課は、
除去課のヘルプをしながら、
各々の仕事をダブルワークしていた。

冥王も漫画の続きに満足してご機嫌で、
次号を楽しみにしているようだった。


「これ連載になるってホント? 」

向井が休憩室にいると聞いて、
冥王が雑誌をもってやってきた。

「この長編が人気なら、
まずは前後編で描いて、
その結果次第で、
連載が決まるそうですよ。
あなたから許可ももらったので、
山川さんもアシの継続を喜んでました」

向井は、
ソファーに寄りかかったまま言った。

惜しいなぁ。

せっかく冥王がきたのに、
休憩室には俺だけか。

「ふむ、死神達の票も入れて、
上位にいくようにしようじゃないか」

冥王は雑誌を抱えたまま、
上機嫌で向井の横に座った。

「そんなことしなくても、
妖怪たちにもウケてるみたいだし、
組織票なんて必要ないでしょ」

「いやいや、
万が一という事もあるからね」

冥王はそういったところで、

「ん? 今妖怪と言った? 」

「言いましたよ」

「妖怪もこのマンガ読んでるの? 」

「みたいですね」

向井は休憩室で仮眠を取りたかったのだが、
興奮して話す冥王に仕方なく体を起こした。

「山川さん、妖怪とお友達なんですよ。
あれ、
半分妖怪化してるんじゃないですか」

「ちょっと君、
それ笑い事じゃないよ。
まあ、大丈夫だとは思うけど、
一応気をつけて見ててくださいよ」

「はいはい」

向井は面倒くさそうに返事をし、

「そうだ。
ギャラリーの事なんですけど、
その妖怪たちも見たいそうです。
山川さんも妖怪のイラストを描いて、
飾ってもらうって楽しみにしてましたし、
モデルになる彼らからも、
ギャラリーで見たいって言われました。
どうします? 」

「ふむ。別に構わないけど。
山川の友達はいいとして、
問題行動の多い妖怪もいるからなぁ~
どうやって見分けるつもりだ? 」

「そうなんですよね。
いっそギャラリー自体に、
何かしらの結界をはりますか?
悪さをすると、
除去されてしまうような? 」

「なるほどな」

冥王も考えながら頷くと、

「まあ、
ギャラリーができてからでいいか。
これ、新田君に渡しといてください。
続き読みたいって言ってたから」

と雑誌を向井に渡すと、
冥王は部屋を出て行った。


「はぁ~疲れた。あっ、豚まん!! 」

それと入れ替わりで、
牧野と安達が戻ってきた。

「今日は中華街に行ってきたのでお土産。
冷めてたらレンジで温めてください」

「やったぁ~」

二人は楽しそうに箱から取り出した。

「まだあったかい~」

牧野はそういうと、

「あれ? その雑誌」

豚まんをかじりながら本を手に、
パラパラとめくった。

「さっき冥王が来て、
置いていったんですよ。
新田君も続きが気になってるみたいだし、
牧野君も読んでみたら? 」

「冥王ここに来たの? 
なんで俺が帰るまでいない」

「牧野君を待ってたわけじゃないからね」

向井が笑った。

「俺は昨日、食堂で会った」

安達が豚まんを頬張りながら言う。

「なぬ? 冥界にいるのに、
なんで俺は会うことができないんだ? 」

「なんででしょうね」

向井がそういったところで、
新田が入ってきた。

「向井さん、セイ君が探してましたよ。
くるみ君のことで、
書類がどうとか言ってたけど」

「おっと、審査が通ったのかな」

向井が振り返った。

「そうだ。この前の漫画の続き、
冥王が新田君にって、
置いていきましたよ」

「続きが出たんだ。じゃあ、読もう。
それ、豚まん? 」

そういって腰を下ろすと、
豚まんを一つ箱から取り出した。

「サボってていいのか? 」

「牧野君に言われたくないなぁ~
俺のは休憩~」

新田は豚まんを銜えると、
漫画を手にソファーに腰かけ、
続きを読み始めた。
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