第54話 安達 倒れる

文字数 1,209文字

この日は駅近くのアリーナで、
大型イベントが開催されていることもあり、
人の流れに霊も集まっていた。

ただの浮遊霊なので、
光の渦で冥界へ運ばれたものはいいが、
霊の数が多いと全てが上昇してくれず、
そこに悪霊も集まってくる。

イベント会場などの、
混雑する場所で起こる人酔いには、
自律神経の他にも、
霊現象が関係することもある。

向井達が会場付近に来ると、
佐久間と田所が結界をはっていた。

牧野が黒い塊になる前に、
冥界札で除去しながら、
エナトも指で円を描き、
悪霊を捕縛していた。

「凄い数ですね」

向井が佐久間に言うと、

「大型イベントは仕方がないですね。
この裏でも悪霊が、
増えているようなので、
お願いできますか? 」

「分かりました。安達君? 」

隣に立つ安達の様子が少しおかしい。

「どうしました? 」

「あっ、何でもない」

それだけ言うと走り出した。

向井もあわてて後を追う。

アリーナから少し離れた裏道は、
人通りは少ないが、
霊に引き寄せられてか、
悪霊も集まってきていた。

二人がその場所へ行くと、
早紀が霊銃を使い、
悪霊を冥界へと送っていた。

「やっと来た~」

「遅れて悪いね」

「この霊銃、軽くて使いやすいけど、
霊玉を装填できる数が少なすぎて、
すぐに打ち止めになっちゃう」

「プロトタイプⅡ型なんですけど、
まだ改良の余地はありそうですね」

向井がそういったところで、
安達が突然気を失った。

「えっ? 」

その場にいた向井と早紀は、
一瞬何が起こったのか分からずに、
動きが止まった。

向井は慌てて結界をはり、
安達を支えた。
瞳は開いているものの、意識がない。

「安達君!! 」

軽くゆするが反応がない。

「なに? どうしたの? 」

早紀も驚いて安達の傍に跪く。

「ちょっと様子がおかしいとは、
思っていたんだけど、
これは少し異常ですね 」

「向井君、悪霊が大きくなってる。
結界持たないよ~」

早紀が霊銃に霊玉を装填する。

「早紀ちゃん、
あの悪霊の中心に照準合わせて」

「合わせたよ」

早紀が悪霊に霊銃を向けた。

「俺が合図したら撃ってください」

「分かった」

向井が何かを呟くと、
それは球体となり光り輝いた。

「放って!! 」

早紀が発射する霊玉に、
向井の言霊の球体が被さる。

弾は結界を突き破った悪霊に、
真っ向から激しくぶち当たると、
爆発のような衝撃になり、
一瞬で燃え上がり消えた。

「凄い……向井君、
そんなことできるの? 」

驚く早紀に、

「とりあえず今のうちに冥界に戻ろう」

向井が安達を抱きかかえて走り出した。

早紀が辺りを警戒しながら、
後方からついてくる。

「あっ、次の霊が集まり始めた。まずい」

早紀が霊銃を撃ちながら、

身体を丸めたところで、
眷属が盾になった。

飛翔する鷹の姿が見えた。

「ピ~~~~キャ~~~~!! 」

とひと鳴きすると大きく羽ばたく。

その風圧で一瞬にして、
悪霊が塵となって消えた。

そのまま鷹は羽ばたきを続け、
空間に冥界へのゲートを開ける。

安達を担いだ向井と早紀は、
その空間を飛び越え、
姿を消した。
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