第68話 アニメ化決定?

文字数 1,348文字

工房とサロンからは、
快活な声が聞こえてくるが、
休憩室はやけに静かだ。

部屋に入ると、
中央で安達と牧野が、
まだ大の字で寝ている。

その横で新田と早紀も、
気持ちよさそうに寝息を立てていた。

安達の事もあって、
みんな疲れがたまっていたのだろう。

休憩室でも熟睡している姿に、
アラームが鳴りませんようにと、
向井も空いているソファーに、
横になった。

そしてどのくらい寝ていたのだろうか。

興奮して飛び込んできたトリアに、
寝ていた全員が飛び起きた。

「なに? 」

「どうした? 」

それぞれが入り口に立つトリアを見た。

「朗報だよ~!! 
あの『ゾンビ少年と赤い神聖ばあ』が、
来年アニメ劇場版決定~」

「本当? 」

原作ファンである新田、牧野、安達が、
同時に振り返った。

「連載から一年も経ってないのに、
大久保出版始まって以来の快挙だって」

向井も驚いてトリアを見た。

「という事は山川さんはもうしばらく、
アシスタント継続という事ですか」

「そうなるかな……? 」

「別に構わないですけど、
山川さんは再生する気が、
あるんでしょうか」

「………さぁ? 私に言われても。
でもこの話し展開が読めないって、
評判もいいんで、
山川も楽しいみたいよ」

「劇場版出来たら、俺見たい……」

安達が言うと、

「じゃあ、見に行こうぜ」

「だったら俺も行く」

牧野と新田も楽しげに会話に加わった。

そんな三人の姿に、

「いいなぁ~
君たちは見に行くんですね。
私は見れません……」

冥王がいじけるように、
入り口から顔をのぞかせた。

「どうせすぐに放映されますよ」

耳ざといな……
突然現れた冥王に向井があきれ顔で言う。

「時間差で見るのとは違うんです!! 」

冥王はつまらなそうに工房に戻っていった。

「子供じゃないんだから、
面倒な上司だなぁ~」

トリアはため息をつくと部屋を出て行った。

「上映は来年でしょ? まだ先の話じゃん」

早紀がソファーから起き上がった。

「安達君たちが見に行くんなら、
ノベルティグッズでも、
お土産に買ってきてあげてください。
それで機嫌も直るでしょうから」

向井の言葉に、

「俺、冥王の顔……
間近で初めて見た。ビックリ」

牧野がつぶやくように言った。

「えっ? 驚くとこそこ? 」

向井は噴き出して笑った。


――――――――


肩を落としていじけていた冥王を見たので、
向井は急いで工房へ向かった。

面倒な上司だと言ったトリアの言葉通り、
へそを曲げるとちょっと煩わしい。

工房は作家の数が増えているので、
活気づいていた。

ここはそれぞれのブースに分かれているが、
中央はフリースペースなので、
使いたいものはめいめい道具を用いて、
物作りをしている。

「ほお~ 映画になるのか。
俺は妖だから映画館は出入り自由だ。
冥王には悪いが見に行けるな」

中央の作業スペースで、
虎獅狼が楽しそうに話をしていた。

「みんないいですね~ずるいです」

冥王は拗ねた様子で椅子に座って、
しょんぼりしていた。

「TVアニメなら見れるのに……」

向井が声をかけようとすると、

「作ってくれるって~」

三鬼が冥王のところに駆け寄って、
膝の上に飛び乗った。

こんも走ってくると、

「こんは髪飾りにしてもらうの」

と笑顔で話しかけていた。

「それはいいですね。
もっと美人さんになっちゃいますよ」

「えへへ」

向井が心配するまでもなく、
ちびっ子が冥王の機嫌を戻してくれていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み